第五章3-18 ヘルズ・ゲート
コーダ視点になります。
マディラさんとポートさんに、火の巨人から救われたあと、取り残された子供を避難させ、またマディラさんの後を追い戦場へと戻る。
「マディラさん! ギーズ様はジョルジュ陛下の許しがなく、出撃できないと聞いたのですが……?」
「新しいジョルジュ王に頼まれたの!」
「新しい王?」
「そこら辺は、この戦争に生き残れたら自分の目で確かめる事ね、今は説明の時間も惜しいわ!」
⦅僕の知らないところで、政治的な大きな動きもあったと言う事か?⦆
⦅まぁだけど確かに、そんな事もこのジョルジュ王国が存続できなければ意味もない⦆
気を取り直して、戦場に意識を戻す。
すると原理はわからないけど、蒼竜任務の時に見たように、マディラさんはギーズ様と連絡を取り合い、土の巨人討伐に動き出す。
南地区の避難民は隣地区との城壁の上にも溢れかえっている。
今、南地区の城壁が壊された様にこの城壁も壊されたら……
ジョルジュ王国は終わってしまうだろう。
マディラさん達は迷いもなく土の巨人の場所にたどり着く、なぜ分かるのか分からない。
色々聞きたい事はあるけど、その時間はない様だ。
そしてソーテルヌ総隊の皆が上位精霊を顕現させ、一気に土の巨人に攻撃を仕掛ける!
四柱もの上位精霊の顕現を一度に見られる機会などめったにない!
僕は興奮でその圧倒的な光景を見ていたが…… フリウリが隣で震えているのがわかる。
そして…… 戦場には土の巨人だった大木だけが後に残った。
⦅凄い!凄い!凄い―――!⦆
僕は感動で鳥肌が立つ!
これが! 僕が憧れていたソーテルヌ総隊の戦いだ!
あのジョルジュ王国軍を壊滅に追い込んだ、土の巨人を瞬殺したんだ!
その圧倒的な力を、無駄なく連携して使いこなす!
こんなクールな戦闘を僕は今まで見たことがない!
そしてその戦いを城壁の上から見ていた市民からも、地鳴りの様な歓声が送られる!
⦅あぁ……… 僕もあそこに一緒に立ちたい!⦆
市民から惜しみない拍手と声援を受けるギーズ達を、
コーダは羨望の眼差しで見ていた。
――だがその時!
『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――………』
王都に巨人が叫ぶ声が響き渡る!
その声は大切な恋人の死を悲しむ様な……
魂に訴えかける様な物悲しい叫びだ。
「水の巨人?」
その時!
ジョルジュ王都を囲う城壁に均等に立ち並ぶ監視塔から、光の柱が立つ。
「なっ! マズい! いつの間にこんなの大規模な術式を!」
ギーズ様はこれが何なのか知っているようだった……
だが、訪ねるより先に術式が発動する!
光の柱が立つ監視塔を起点にジョルジュ王都を囲う炎の壁が立ち上がる!
そして炎の壁の内側、王都の上空に巨大な魔法陣が出来上がる―――!
⦅な、なんだこれは………⦆
そして魔法陣より禍々しい巨大な門が召喚される!
『へ、ヘルズ・ゲートだと………』 ギーズ様の呟きが聞こえる。
⦅ヘルズ・ゲートって聞こえた……… 地獄門ってたしか……⦆
コーダは自分の記憶の中の知識をさがす……
そして昔読んだ古い本に、地獄の悪魔、魔王とその軍勢を召喚する破滅の禁呪の名を探し当てる。
「あ…… あんな物を王都のど真ん中で開いたら…… ジョルジュ王国は滅亡する!」
コーダが膝から崩れ落ち、全てを諦めたその時―――
「させるか―――!!!」
ギーズ様が叫び、蒼竜に乗りヘルズ・ゲートへ向い飛び立つ!!!
ヘルズ・ゲートへ向かうギーズ様以外、誰も動けない……
ソーテルヌ総隊のマディラさん達ですら!
誰しもが、いま何が起きているのかさっぱりわからない!
だが、あの顕現した【地獄門】の禍々しいまでの瘴気の質量に、
誰しもが、アレは絶望をもたらすモノだと本能で感じ取る。
そして、自分達の無力さを知り、ソレを見守る事しかできなかった。
――そして!
「ゴォ――ン ゴォ――ン ゴォ――ン」
地獄の門に鐘の音が鳴り響く!
何が起きているのかさっぱりわからない僕達でも……
その鐘を合図に、あの門が開き邪悪なものが出てくるのだと本能で理解する。
――その時!
蒼竜が口を開き膨大な力を凝縮し、光り輝く【珠】を作り出しているのが見える!
ギーズ様が蒼竜へマナを送っている様に見える。
ギーズ様の肩に乗るウンディーネ様も輝いている、ありったけのマナを蒼竜に送っている様だ!
そして―――!
その蒼竜が作り出した光り輝く【珠】が蒼竜の咆哮と共にヘルズ・ゲートへと放たれる!
「総隊員! 精霊障壁結界を展開―――! 王都を守れ!!!」
ギーズ様の総隊への指示で、上空に顕現しているヘルズ・ゲートと王都の間に強大な結界が構築されていく!
そして―――………
カッ!!!!
ドゥォォォォォォ――――――ンンン!!!
凄まじい衝撃と光が王都上空に巻き起こる!
その衝撃波は王都全体を揺れ動かす!
ソーテルヌ総隊が張ってくれた結界が無ければ、ジョルジュ王国は消滅していたに違いない。
王国民は全員空を見上げて、手を握り神に祈っている………
その戦いはもう、人の領域の戦いではない。
神が人へ死を与えるのならば、受け入れる他無い!
そう思わされる光景だ!
上空に巻き起こる爆炎が晴れていくと………
そこにはひび割れて崩れ落ちるヘルズ・ゲートが見える。
しかし、力を使い切り蒼竜と共に地へと落ちていくギーズ様の姿が見える。
そして、王都を守るために結界に力を使い果たしたソーテルヌ総隊のメンバーも地にへたり込んでいる。
だが………
崩れ落ちるヘルズ・ゲートはまだ消滅していない。
転生したての蒼竜では100%の力は使えなかったのかもしれない。
時間の問題で崩れ去ることは、ヘルズ・ゲートのダメージの大きさを見れば明白だが、
この世と地獄を繋ぐ役割は、それまでの時間まだ消えない。
崩壊したゲートでは魔王はもちろん、力の強い悪魔共はもう通る事は出来ない。
しかし、ゲートの割れ目の小さな隙間から、低級悪魔が漏れ出しているのが見える!
ヘルズ・ゲートが崩れ去るまでの少しの時間、弱い悪魔とはいえ多くの悪魔が王都になだれ込んでくるだろう。
くっ………!
低級とは言え、悪魔共が王都になだれ込んでくる!
巨人共も町になだれ込んできている。
ギーズ様達はもう力を使い果たした。
王都で戦えるのはもう僕しかいない!
ギーズ達の戦いを見て、コーダが心震わせ立ち上がる。
読んで頂きありがとうございます。
私の個人的な楽しみとして書いている小説ですが、
気に入って頂けたら嬉しいです。




