第五章3-16 王の義務
ギーズ視点になります。
(コーダがマディラと再会した時から、少し時間はさかのぼる)
ギーズ達は、ジョルジュ王国王族と、城の最上階から戦場を見ている。
圧倒的有利に運ぶはずの戦場が崩壊していく……
そして、神話級の土属性巨人によって、ジョルジュ王都の南城壁が崩れ去る。
戦場も町も見渡せるこの場所からは、敵も味方も入り乱れる混戦状態に陥った戦場と、そこから次々と町に入り込む巨人たちを見ることが出来る。
「そ……そんな馬鹿な! ありえん! 十二倍の戦力だぞ! 圧勝して当り前の戦いだったのだぞ! 何が原因だ! 策を立てた将軍共が無能なのだ! ワシの責任ではない!」
その時、ジョルジュ王都中の水路の水が、『水龍』となり暴れ出す!
『水龍』は竜とは違い、大きなヘビのように長い龍種だ。
そして、戦場に一際大きな水色の巨人が現れる。
その巨人がこちらを見て笑ったように見えた……
そして―――!
ドッオ――ン ビュンッ――――――!!
神話級の水属性巨人が水の槍を王城に投げつける!!!
誰しもが届く筈など無いと思った………
しかし、ギーズはゆっくり片手を前に上げ、結界を構築する!
ズガァ――――――ン!!!
『ヒッ! ヒィィィィィィ―――!』
ジョルジュ王とブシエール王太子は床に尻を付き這いつくばる……
ギーズの魔法結界により、事なきを得たが……
王都南城壁だった場所よりも、さらに離れた戦場から投げられた、水の巨大な槍は王城を直撃した。
それはもう、このジョルジュ王国のどこに居ても安全な場所が無い事を示していた。
「ブシエール! ルーミエ! 逃げるぞ!」
「はい! 父上!」
ジョルジュ陛下がこのゲストルームから、いやこのジョルジュ王都から逃げる事を告げる。
「ッ――っな! 父上! 兄上! 何を言っているのですか! いま国民が窮地に陥っているのですよ、真っ先に国王と王太子が逃げるなどあり得ません!」
「うるさい! ルーミエ!! 王族が居なくなっては、国民など生きて行けぬのだ! むしろ国民が王族の盾になるべきなのだ!」
「父上! 違います!!! 国民あっての王族です! 王族は役割を果たすために働き、ジョルジュ国民を守る義務がある! 国民亡き王族など虚像の道化でしかない!」
「うるさい! うるさい! うるさ―――い! ルーミエ! お前がそこまで言うのなら、今、お前に王位をくれてやる! 王としてここで国民の盾となり、その責務とやらを果たせ!!!」
それは…… 自分の身代わりにお前がここで死ねと言う事だ!
実の父親が子には放ったその言葉に、側近達も目を見張る……
ジョルジュ王はルーミエに王の証、王位を継承したものだけが受け継ぐ王冠を手渡す。
「さぁ、もし生き残れたのならお前が王だ! その責務を果たして見せよ!!!」
王太子のブシエールは、ルーミエに王冠を渡すことに、すこし躊躇していたが……
どう見てもこの戦争は負けだ。
敗戦国の王など責任を取らされて殺されるだけ。
だが生き残れば再起のチャンスもあるかもしれないと、王冠を諦める。
「…………。 わかりました父上。 たとえジョルジュ王国が滅亡しなかったとしても、民だけが犠牲になり、王族が皆無事では民は納得しないでしょう。 民の支持なくばジョルジュ王国の存続などあり得ません。 この戦いは私が幕を引きましょう。 長い間お世話になりました!! 育てて頂いた御恩は忘れません、必ずや生き延びてください」
この時から元国王となったルーミエ王子の父『バンジャン・ジョルジュ』と
ルーミエの兄、王太子『ブシエール・ジョルジュ』は王城から逃げ出した。
「フィジャック卿…… 恥ずかしい所をお見せした」
「ルーミエ殿下…… いえ、ジョルジュ陛下! 国民を憂うお姿、国王に相応しいと存じます」
「この窮地での王など…… たった数時間だけの王位など…… だが、国民を捨てて逃げ出す事など出来ん!」
「ご立派です!」
「なぁ、フィジャック卿……… いやギーズと呼ばせてもらってもいいか?」
「もちろんです」
「一つ我がままを言わせてもらってもいいか?」
「私に可能な事ならば」
「では…… この戦い最後まで私に付き合ってもらえないだろうか? 君達は必要とあらばソーテルヌ卿が転移陣で助けに来られるのだろ? 私は私の責務を全うしなければならない、逃げだすことは出来ないが…… 正直怖いんだ! 誰かに見張っていてもらわなければ逃げ出してしまうくらい怖いんだ!」
ルーミエは震える手を見て、ギーズにそう問いかける。
「………………。 かしこまりました。 ルーミエ陛下、友人として最後まで見届けさせて頂きます」
「ありがとう、ギーズ………」
「ルーミエ陛下! 国民を思う陛下の気持ち、感動いたしました!!! わたくしパメラは最後まで陛下にお付き合いいたします。 ジョルジュ王国の国王に一人ぐらい忠臣が居なければ、あの世で恰好が付きません」
「パメラ……… ありがとう」
ルーミエは王族の責務として、国民の盾となり死ぬという。
しかし…… 死ぬことが怖くて逃げだしたいという。
ルーミエ王子はたったの十六歳、人族では戦場に行かなければいけない年齢だが……
『死が怖い』それはとても当たり前の事だ。
ギーズはこのとても責任感が強いが、人間らしい素直なルーミエを死なせてはいけないと心に誓う。
読んで頂きありがとうございます。
私の個人的な楽しみとして書いている小説ですが、
気に入って頂けたら嬉しいです。




