第五章3-15 失意のコーダ
コーダ視点になります。
蒼竜任務での失敗で、失意のコーダはジョルジュ王都へと流れついていた。
コーダの失意は、フリウリには不本意だったが……
コーダが無理に精霊魔法を使わない現状は、フリウリには安堵の一時でもあった。
静かな場所に居れば、あの時の父親を失った子供の泣き声を思い出してしまう。
だからコーダは騒がしい王都を休息の場に選んだ。
しかし、運命はコーダとフリウリに、安息の時間を与えない。
休息の場に選んだ王都は、巨人族との戦争に巻き込まれていく。
開戦してしばらくすると、ジョルジュ王都の南の城壁が一気に崩れ去る!
「なっ……城壁が! これじゃ町が! ギーズ様はここに居るのだろ? 何をやっているんだ!」
コーダは先日王都上空を飛ぶ『飛竜』を見た。
コーダは王都にギーズが来ている事を知っている。
コーダの叫びを聞いた町人がコーダに呼び掛ける。
「お前も逃げろ! この町はもう終わりだ! 四門守護者のギーズ様はジョルジュ陛下に出陣を止められているそうだ! それにこの状況で出陣許可が出たとしても、もう手遅れだ!」
「出陣を止められているって…… 何故だ!?」
「それは…… 今までシャンポール王国の援軍を断り続けたツケだ! しかしそれはジョルジュ王国民の総意でもある。 ここで借りを作れば対等の立場ではいられなくなる!」
「そんな馬鹿な! そんな見栄で……… このままではジョルジュ王国は滅びるぞ!」
「とにかく俺達には出来る事なんか何も無い! 早く逃げないと死ぬぞ!」
コーダに現状を説明してくれた町人は逃げて行った。
だがコーダは、町人とは違い戦う術を持っている。
「コーダ! 無理よ…… これは戦争、たとえあのギーズ様でも、この状況は覆せない! 戦えば、あなたは確実に死ぬわ!」
「だが……! くっ…… わ、わかったよ、フリウリ。 だけど住民の避難誘導は手伝いたい。 巨人族軍が攻めてくる南の城壁は崩された! 南地区の此処はもう駄目だろう。 だけど、地区を区切る城壁はまだ健在だ、南地区の住人の避難が終わるまで、入り込んだ巨人を撃退しつつ、僕たちも後退しよう」
フリウリは、すぐ避難してほしかったが、コーダの提案を受け入れる。
コーダは、逃げ遅れた住人を誘導し、南地区に取り残された人が居ないか探す。
幸運な事に、南の城壁は崩されたが、巨人族軍の軍勢が雪崩れ込んでくることはまだ無かった。
王国騎士団が最後の意地を見せているようだ。
しかし最前線の戦場は既に、混戦の泥沼化……
個々の戦闘力では圧倒的に巨人族より劣る人族には最悪の展開だ。
そしてコーダが居る南地区の街中にも、混戦を抜け出た巨人族兵が、少しずつ侵入してくる。
コーダは南地区を歩き回り、逃げ遅れた住人の避難誘導をする。
そんな中、親とはぐれた子供を見つける。
そこにオーガが現れる!
オーガなど今のコーダの敵ではない。
だが、オーガを瞬殺し子供を助けようとしたとき……
コーダは信じられないモノを見る。
「なっ! ほ……炎の巨人?!」
コーダの目の前に、三メートルを超えるオーガよりはるかに大きい、
一〇メートルは有ろうかという、炎が燃えさかる巨人がゆっくりと現れる。
コーダは知らない、この炎の巨人が先ほどまで戦場で騎士団を燃やし尽くしていた事を。
その圧倒的な存在力!!!
コーダはマナを見ることは出来ない、だが中級精霊と繋がったコーダは、そのどうしようもない力の差を肌で感じる事が出来た。
⦅早く子供を助け出さなければ………⦆
だけど、怖くて足が動かない……
フリウリも震えて動けない。
⦅だ、ダメだ…… 俺には無理だ……⦆
その時、子供が怖くて親を求めて泣き叫ぶ!
その泣き声が、『蒼竜任務』で助けられなかった村人の子と重なる………
そしてコーダのトラウマを呼び起こす!
あの…… マディラに向けられたコーダを蔑んだ目を………
⦅お、俺は悪くない! 俺に無理なら誰にも救えなかったはずだ!⦆
⦅あ、あいつ……… 力もないくせに俺をあんな目で見やがって………⦆
炎の巨人が、泣き叫ぶ子供に手を伸ばす!
だが、コーダは子供に背を向け逃げ出した………
子供が炎の巨人に、握りつぶされようとしたとき―――!
ドォオオオッッッ──ン!!!!
炎の巨人の手は、クリスタルの壁に防がれる!
『っな!』 コーダは目を見張る!
そこには泣き叫ぶ子供を抱え助け出すマディラが居た!
しかも、コーダが精霊も使えないくせにと見下していたマディラが、フリウリよりはるかに上位の精霊ルナを呼び出してる。
「そ、そんな………」
「コーダ! 何を呆けています! 逃げ遅れた人の救助が急務ですよ!」
「な…… なんであんたが! なんで精霊を連れている!」
「コーダ…… 別に隠すつもりはありませんが…… 力とはひけらかすものではありません! 必要な時に使えなければ、意味のない事です」
コーダは、あの失態をマディラに見られた時から、
マディラを見下し、自分より下に見る事で心を保ってきた。
自分でも失敗したのだ、他の誰がやっても失敗したはずだ……
あれは致し方無かった事なんだ!
『だから自分は悪くない!』と独自に理由付けして自分を擁護し心を保っていた。
その無理矢理保っていた心の均衡が崩れる。
「あ…… あぁぁぁぁぁぁ―――………!!!」
コーダの心が砕け散る瞬間―――
パ―――ッン!!
コーダの頬をマディラが叩く!
「しっかりしなさい! 今は戦場です! あなたは多くの人を助けられる力を持っている! あなたが救えなかった命の分、他の命を守りなさい! それが力を持った人の責務です!」
マディラに叩かれた頬を抑え、呆然と立ちつくすコーダ。
だがマディラの叱咤が、コーダの心を繋ぎとめた。
しかし、マディラ達のやり取りなど、炎の巨人は待ってくれない。
クリスタルの壁で自分の攻撃を防がれたことに怒り、
炎の巨人は範囲攻撃の大技を繰り出す!
炎の波がマディラ達を飲み込む――
その寸前、氷の結界がマディラ達を包み込む!
炎の巨人の超火力が、炎の渦を巻き起こし周囲の家々を焼き尽くす!
しかし、上位精霊フェンリルの氷の結界を破ることは出来ない。
そして、マディラ達の元に大きなグレイシャーブルーの狼に乗った少女が現れる。
「マディラ! 何やっているの、急いで! はやく住民を避難させないと!」
「ポート! ありがとう、助かったわ」
「コーダ! 私達はギーズに住民の避難を指示されているわ、それにこの巨人は私達の手に余る。 撤収しましょう!」
コーダは素直にマディラの指示に従う。
しかし…… マディラの知り合い『ポート』と呼ばれる友人も、フリウリよりも上位のフェンリルを使っている。
次々にコーダの理解を超える出来事が押し寄せてくる……
⦅今は考えるだけ無駄だ……⦆
コーダはとりあえず悩む事を棚上げする事にした。
読んで頂きありがとうございます。
私の個人的な楽しみとして書いている小説ですが、
気に入って頂けたら嬉しいです。




