第五章3-12 当り前のこと
ギーズ視点になります。
蒼竜任務を終え、僕達は一度任パメラさんの故郷ビュシェール村へと戻る事にする。
コーダ達もビュシェール村へと誘ったが……
青い顔をして去っていってしまった。
マディラの様子もおかしい。
オーガ殲滅戦のおり、残敵掃討で何か有ったのかもしれない。
戦闘で体調を崩す人は多いい、少し心配だが……
今は、巨人族の大規模侵攻の対処が急務だ。
失敗すれば、さらに多くの人の命が失われる。
後々マディラに聞くことにして、僕たちはビュシェール村へと急ぐ。
ビュシェール村の宿屋へ戻った僕たちは、休む間もなく急いで仮想空間会議に出席する。
会議が始まって直ぐ、マディラが『蒼竜任務』の報告をする。
『蒼竜幼体の確保は無事成功しました。 成体の殲滅もアバドンで問題なく完了いたしました。 蒼竜消滅による周辺の町村への被害報告はありません。 残念ながらオーガ襲撃による被害は出てしまいましたが…… 蒼竜の対処は成功と言えると思います』
『あぁ、よくやってくれた。 みなご苦労だった』
『『『はっ!』』』
『それでマディラ。 『蒼竜の対処は……』と言ったのには他に問題でも?』
『………………』
マディラは言い淀む、コーダの事を報告すべきか否か………
村人一人が死んだ事、それは大変なことではあるが、戦争という状況下では小事。
いちいち軍事会議で報告していては、大事に影響する。
そしてコーダの事も小事。
大きな指針を話し合う軍事会議で取り上げられる事ではない。
だが、マディラは自分の勘を信じて報告する。
『本日の作戦で、村人の犠牲者が出ました』
『………………』 皆言葉もない。
戦場で死人が出る、当たり前のことだが、当たり前だと口に出して言う事でもない。
『その犠牲者の死にコーダが関わりました。 助けられた命、コーダは意図的に助けを遅らせ、村人は亡くなりました』
『意図的に遅らせた? なぜその様な無駄な事を?』
カミュゼが口を開く
『恐らくは……… 窮地に助けた方が、より感謝されるからでは?』
『なっ! バカらしい、その様な時間の無駄を』
『これは国同士ではよく使われる戦略です。 ギリギリまで援軍の到着を遅らせ、小さな恩で大きな恩を売る』
『失敗すれば、失う信頼の方が大きいというのに………』
『はい、まさにコーダは失敗しました。 ニンフは気にも留めていませんでしたが……… コーダは思い詰めていました。 非常に危険な状態だと具申いたします』
『マディラ、話してくれてありがとう。 皆、コーダはジョルジュ国領の国民の為、我々が強制的な確保は難しいと思うが、不安定な精霊術師は危険だ! コーダを見つけたら目の届く所で確保しておいてくれ。 パメラさんも協力お願いします』
『『『はっ!』』』
『同じ精霊術師として、コーダが気になるが…… だが世情がそれを許さない。 ポート、巨人族の情報を頼む』
『はっ! ディケム様、先程巨人族軍五〇〇〇、ジョルジュ王国に向けて出陣したと報告が有りました」
『なっ! そんな………』 パメラが目を見開き立ち上がる!
巨人族軍五〇〇〇。
五〇〇〇の兵は一国に攻め込むには、軍隊としては少なく感じる。
先制でメガメテオでも落とすのならば十分な兵士数だと言えるが、この度は奇襲でもなく正面からの進軍だ。
だが、巨人はその名の通り大きく強い。
巨人一人倒すのに人が何人も必要になる。
その大きさと強靭な肉体を持つため、動きは遅いが物理攻撃にめっぽう強い。
弱点は魔法攻撃、魔法師が貴重と言われる人族には相性が悪い種族になる。
五〇〇〇の兵、その一人一人が巨人となれば、その脅威は凄まじい。
さらにもし神獣を食らい神話級に昇格した巨人が居たとしたら………
属性を持ち魔法にも強くなる。
神話級一体いれば、一国を滅ぼすことも可能かもしれない。
『ソーテルヌ閣下、シャンポール陛下の方は………』
『あぁ、シャンポール陛下からジョルジュ陛下へは連絡をしてもらった。 だが…… ジョルジュ陛下が煮え切らない。 なぜここまで追い込まれているのに、救援要請を渋るのか………』
そこにパメラが立ち上がり話す。
『我々ジョルジュ王国は、アルザス戦役でシャンポール同盟国の救援要請に応えず、エルフ戦役でもジョルジュ王国よりさらに南方の、他種族魔神族が駆け付けたにもかかわらず、我らは何もしなかった……。 我々はシャンポール王国に救援要請など出来る立場では無いのです。 これはジョルジュ王国に住む全ての民が抱える罪悪感です。 そしてここで借りを作れば対等の立場ではいられなくなるという意地のようなもの』
『なっ! そんな事で…… そんな事を言っていると本当に滅亡してしまうぞ』
だがカミュゼが口を開く。
『ディケム様、王とは自分の民を最優先に守る責務があります。 個人ではなく国として動いたとき、損得無しに動くことは叶いません。 今まで救援を貰えなかったシャンポール陛下がジョルジュ陛下を案ずることが異例な事なのです。 ですから蒼竜の件は、ルーミエ王子が蒼竜の幼体と引き換えと言う提案を示す事で、友人として単独に依頼して来たのでしょう。 ですが此度は他国との戦争、王みずらから依頼するのが筋、この状況下で動けなくなっているのでしょう』
『体裁……体裁…… そのような見栄と意地で国民を道連れにしようというのか? それこそ本末転倒、国民を優先になどしていないではないか?』
『ディケム様…… その当り前のことを、当たり前と言えるディケム様だから、我々はお慕いしているのです』
『マディラ…… ありがとう。 ジョルジュ陛下が動けないのならば、ルーミエ王子を動かす。 我々は友人としてこの戦争に参加させてもらう。 ギーズ、カミュゼ! 非常に難しい任務になるが、ルーミエ王子の承諾が下りるまで、ここに居るメンバーだけでジョルジュ王国騎士団に協力し、戦線維持をお願いできるか?』
『『はっ!』』
『ここに居る皆はルーミエ王子が友人を招いたと言う体裁がある。 戦争に巻き込まれた体で参戦は可能だろう。 救援の了承が下りるまで、負担は大きいとは思うが皆頼む!』
『『『『はっ!』』』』
読んで頂きありがとうございます。
私の個人的な楽しみとして書いている小説ですが、
もし気に入って頂き次話も読んで頂けたら嬉しいです。




