第五章3-11 あやまち
コーダ視点になります。
今日、ギーズ様の任務に同行出来る事になった。
フリウリはやはり自分が精霊であることをギーズ様達には秘密にしたいようだ。
僕達はギーズ様パーティーについて行く。
ギーズ様は何の迷いもなく、翡翠湖の洞窟に向かう……
⦅下調べは十分しているようだ⦆
⦅竜が相手と聞いていたが…… これなら大丈夫だろう⦆
そして確かに蒼竜はそこに居た!
そして、ギーズ様が蒼竜と話す。
それは最初から話が出来ていたように……
⦅ギーズ様と蒼竜は、会話からも分かる通り初対面だった……⦆
⦅なのに何故、既に打ち合わせが出来ているように事が運ぶ?⦆
聞きたいことは色々あるが……
説明が無い所を察すると、軍事機密なのだろう。
これ以上の深入りはしてはいけない。
青の王ギーズ様が【蒼竜(青龍)を守護竜にした】
これは、人族中の一大ニュースになるだろう。
僕はその現場に立ち会えたのだ!
疑問は沢山あるが、これだけでも幸運な事だと自分に言い聞かせる。
蒼竜との契約を終え、ギーズ様達は急いで洞窟から撤収する。
すると………
「マディラ! 予定通り洞窟の西南方向にオーガの部隊、小隊~中隊がいくつか集結している。 その総数約五〇〇!」
⦅え…… 予定通り?⦆
「集まったところを一気に殲滅するが、分隊(五~十匹)程度の討ち漏らしが多数出ると予想する! マディラ、ジャスティノ、パメラさんは組んでこれを殲滅、私も単独でこれにあたる」
「「「はっ!」」」
「コーダさん、フリウリさん。 もし参加できるようでしたら、参加してください。 もちろん危険だと思えば逃げてください」
「僕達にもやらせてください!」
「ありがとう、助かります」
五〇〇匹ものオーガ、大隊規模の敵を殲滅する……
この言葉に震えを覚える。
僕はフリウリを得て、オーガと戦い、ソーテルヌ卿にも並んだ気でいたが……
その頂は遥かに遠かった。
そしてその部下のギーズ様ですら、軽く大隊を殲滅と言う。
今の僕にはとてもできない……
とにかく自分の目で、間近で見てみたい、僕がこれから目指す頂きを!
ギーズ様、マディラさん達、僕とフリウリ、
三組に分かれて三方向からオーガの大隊を囲む。
僕とフリウリは、ギーズ様に指定された場所で待機して待つ。
ギーズ様のパーティーは、ギーズ様が突出しているが、他の人たちはそれ程でもない。
ジャスティノさんとパメラさんは、一流の騎士だが……
騎士と言う枠組みからは外れない。
精霊魔法を使える僕の方が、大規模戦闘には戦略的にみて貴重な筈だ。
マディラさんは貴重な白魔導士。
ヒーラーはとても重要だが、やはり回復役という枠組みからは外れない。
戦争とはいかに死者、ケガ人を少なくして、兵士数を維持できるかだ。
ケガをしてから直すのではなく、ケガ人を出す前に敵を殲滅する、それが最善のはず。
それが出来る僕の戦略魔法、精霊魔法は特別な存在だ。
僕が物思いに耽っていると―――
ギーズ様の大規模魔法が発動する。
巨大な竜巻が何本も立ち並ぶ光景は圧巻だ!
そしてもちろん竜巻は、只の竜巻じゃない。
中ではカマイタチがオーガを切り刻み、イナゴの群れがオーガを食らいつくす。
風の精霊魔法と青魔法のアバドン、この最上級魔法二つの合わせ技だ。
その殲滅力は凄まじい……
四門守護者の中で唯一ギーズ様が魔王と呼ばれる由縁だ。
しばらくして竜巻が収まったところで、僕たちの出番。
運よく逃げおおせたオーガ達だが……
アバドンの疫病に侵され、熱風で大やけどを負っている。
弱り切ったオーガの分隊など物の数ではない。
残敵は、危なげなく掃討されていった。
しかしその時、後方から村人の悲鳴を聞きつける。
大隊に合流しなかった、はぐれオーガが居たようだ。
僕とフリウリは、急いで悲鳴が有った方へ向かう。
今日はまだ、弱り切ったオーガを殲滅する、そんな簡単なお仕事しかしていない。
コーダのやる気と気力は有り余り……
むしろ消費しなければ暴発してしまいそうなほどだった
悲鳴が聞こえた村にたどり着く。
草むらに隠れ、村の様子をうかがう。
村には二匹のオーガが居る。
アバドンの影響は受けていない、やはりはぐれオーガのようだ。
二匹のオーガの前に、男の村人がいる。
その男は武器も持っておらず、妻と子供を後ろにかばっているようだ。
どう見ても皆殺しにあうのは時間の問題だ。
だが、コーダは直ぐに飛び出さない。
コーダは知っている。 助けはギリギリ行った方が、みな有難がってくれる。
もちろん村人は死なせない。
だけど、どうせ助けるならば、感謝は大きい方が良い。
村人が『もう駄目だ!』と思った瞬間――!
最高のタイミングでコーダが飛び出す!
しかしそのとき……
もう一匹、三匹目のオーガが現れる。
「っな! もう一匹いたのか!?」
三匹目のオーガは、コーダの前に立ちふさがり攻撃を仕掛けてくる!
コーダはオーガの攻撃をかわして、水の精霊魔法で一蹴。
突如現れたオーガをコーダは瞬殺して見せた!!
だが……
その後ろでは、男の村人は家族を守って両断されていた………
「そ…… そんな…… お、俺は助けに来たんだ…… 俺は悪くない……」
自分が犯した大失態に、コーダは呆然と立ち尽くす。
気づけば、残りのオーガは駆けつけたジャスティノとパメラが掃討している。
そして、父親の遺体にすがりつき泣き叫ぶ妻と子供の声が響き渡る。
「コーダ…… あなた……」
ふいに後ろから聞こえた声にコーダは振り返る。
そこにはマディラが立っている。
⦅み、見られた?!⦆
「コーダ! あなたいまの……… 間に合ったのではないのですか?」
⦅マディラに見抜かれ、コーダの胸がギュッと痛む⦆
「ち、違う! 僕は一生懸命助けに行ったんだ! だけど間に合わなかったんだ!」
「私には、そうは見えなか…………」
「マディラさん!! コーダは自分の危険を顧みず、村を助けに来たのです。 全ての人を助けるなんて不可能。 そんなコーダがなぜ責められるのですか?!」
フリウリは知っている。
コーダが本当は間に合った事を、しかし怖くて嘘をついている事も。
だが、精霊には善・悪、人の死などどうでも良い、間に合わなかった者も居るが、
基本はコーダが善意で助けに来たのだ。
感謝されこそすれ、恨まれる筋合いなどない。
『なぜ、コーダが攻められねばならないの?』 と……
【精霊とは純粋で、主人に忠実で…… そして時に残酷なもの】
マディラも知っている。
全ての人を助けるなんて、そんな傲慢な言葉はエゴでしかない。
ミスも誰だってする。
しかし…… 自分の欲の為に目の前の弱者を犠牲にする。
そういう人もいるが、マディラは嫌いだ。
少なくてもソーテルヌ総隊にはそんな人はいない。
この優勝劣敗の摂理の世界、強者は生殺与奪を許される。
この世界でコーダを罰する事など出来ない……
だけど、マディラはコーダを許せなかった。
読んで頂きありがとうございます。
私の個人的な楽しみとして書いている小説ですが、
もし気に入って頂けたら嬉しいです。




