第五章3-10 蒼竜消滅
ギーズ視点になります。
『ギーズ。 先ほどウンディーネが蒼竜とコンタクトを取った』
『っな! 蒼竜と話したと言う事ですか?』
パメラが驚きのあまり立ち上がる!
『はい。 蒼竜が住家にしているのは翡翠湖です。 水の上位精霊ウンディーネがアクセスできない道理はない』
『………………』 パメラは言葉もない。
『蒼竜の話を要約すれば、我々に任せるとの事でした』
『っな! ほ、本当ですか!!!』
『はい。 蒼竜は人の為に魔物と戦っているのではないが…… 自分の消滅であえて瘴気を撒き散らしたい訳でもない。 ただ自分ではどうすることも出来ないから、結果として瘴気が散ってしまうそうです。 現在の蒼竜は次代の【幼生体】を生んだ後、消滅を待つのみ。 既に動けない状態だそうです』
『すでに動けない…… 被害が出ない場所への移動は不可能と言う事ですか……』
『蒼竜の力は【幼生体】へ全て引き継がれています。 元の体は残滓が残るのみ。 滅してくれて構わないとの事でした。 ただ一つ【幼生体】の保護を依頼されました』
『幼生体の保護?』
『パメラさん。 我々はルーミエ王子からも幼生体の保護を言われています。 蒼竜は生まれ変わった後はその住家を変える。 今回の巨人族の件も鑑みると……予定通り保護してギーズが契約する事が最善でしょう』
『………………』
『ギーズ! 蒼竜は【幼生体】の保護の見返りに、お前の残りの一生分の時間を守護竜として契約することを約束してくれた。 不滅の竜からすれば人の一生など一瞬だろうからな』
『蒼竜が守護竜として契約…… そんな事が……』
パメラはあまりの事に理解が追いつかない。
『今日の会議は以上だ! 明日は蒼竜任務を最優先に決行する。 カミュゼ隊は引き続き巨人族の動向を探れ!』
『『『『はっ!』』』』
翌朝、ギーズ隊はコーダ、フリウリと合流して蒼竜の住む、聚鳳山の麓に広がる翡翠湖へと向かう。
蒼竜の住家はディケムから聞いていた通り、翡翠湖から続く崖に開いた大穴洞窟の奥。
洞窟の入り口は湖の水が入り込み、船を使うしかない。
地元漁師から船を借り受け、洞窟に入っていく。
地元漁師もさすがに蒼竜の住家に行きたいと言っても案内してくれる者など居ない。
自分たちで船を漕ぐしかない。
蒼竜の洞窟は船で入るが、途中からは浅くなり、膝丈の水位の中、徒歩で進むしかなくなる。
そしてしばらく歩いていくと水も無くなり………
とてつもなく大きなドーム状の空間にたどり着く。
その大きな空間の最奥に、蒼竜が佇む。
その圧倒的存在感に全員が息を呑む。
蒼竜の体は、深い水の底のような深い青、蒼碧色をしている。
光の加減で翡翠色にも見えるとても美しい竜だ。
しかし…… その光すら吸い込むような深い蒼碧色に、
見た者の魂を吸い込むような金色の目が光る!
「お前たちは、ウンディーネが話していた者たちか?」
「はい。 ギーズと言います」
「そうか、待っていたぞ…… もうワレの時間は無い。 そこのワレの子を頼む」
コーダとフリウリは目を見開き驚く。
初めて会うはずの蒼竜とギーズが、既に話が出来ている事に………
「はい、契約魔術で縛りますが…… 私が死ねば解除されます。 そして契約魔術で縛れば、幼竜は巨人族の昇格には意味を成さなくなります」
「あぁ分かっている。 事は急を要する、直ぐに行ってくれ!」
そう言うと、蒼竜の後ろから小さな幼竜が出てくる。
「キュー、キュー―――ゥ」
⦅………………!!!⦆
「カ…… カワイイ―――!!!」
マディラが思わず声を上げる。
マディラが求めた九尾のようなモフモフ感は無いが……
その可愛さにマディラは九尾の事など忘れてしまったようだ。
⦅………………⦆
あ…… 蒼竜が微妙な顔をしている。
『こいつらに自分を預けて大丈夫?』って顔してる!
「そ、それではすぐに契約を始めますね」
「あ…… あぁ頼む……」
ギーズが『従属』の契約魔法と『召喚獣』の契約魔法を蒼竜の幼竜へと展開する!
⋘―――――αλυσίδα(鎖)―――――⋙
⋘―――――πρόσκληση(召喚)―――――⋙
蒼竜の幼竜はギーズの契約魔術を受け入れる、そして叫ぶ!
「キュゥ! キュー―ゥ!! キュー―――ゥ!!!」
⦅我が名は暴風の蒼竜! 契約に従いギーズの従属を受け入れよう!⦆
「キャ―――!!! 可愛い!!! ギューっとしたい!!!」
⦅マディラの心の声が駄々洩れだ………⦆
「契約は無事終わりました。 これで幼体の心配は無くなりました。 あとは貴方を滅する事です」
「あぁ…… ギーズ、この体を滅する前にコレを渡しておく。 今後ワレの幼体を守り抜いてもらわなければならぬからな」
そう言うと、蒼竜は最後の力を振り絞り、光り輝く【蒼竜の宝珠】を作り出す!
そしてその宝珠が徐々に姿を変え、次第に光が収束してゆくと………
そこには蒼竜をそのまま形にしたような、見事な刀がある。
その内包するマナは凄まじい。
【蒼竜刀】伝承では【青龍刀】とも呼ばれる、蒼竜の秘宝。
ディケムの愛刀【鬼丸国綱】、ラトゥールの【ゲイボルグ】に並ぶ逸品。
アーティファクト級である事は確実だろう。
「【蒼竜刀】だ! ワレの蒼竜の力、マナ(命)をそのまま形にして作る刀だ。 よってワレが消滅する数千年に一度しか作る事は出来ない。 お前の一生分、守護竜として契約したが、同時にこの【蒼竜刀】で幼体を守ってくれ」
「わかりました、 必ずや幼竜を守り抜いて見せます」
「あぁよろしく頼む。 さあギーズよ、もうこの体には何の力も残っていない。 直ぐに滅してくれ」
「…………。 すぐで良いのですか? 幼竜が名残惜しそうですが?」
「ギーズ、その幼竜とワレは同じモノ。 まだその子は理解していないが、自分の消滅を自分で悲しむなど愚かな事だと思わぬか?」
「すみません、人間の命は一度きり、魂は転生しますが全く別物になりますから……」
「そうであったな! 無用な感傷は必要ない、手遅れになる前に滅してくれ!」
「わかりました」
ギーズが蒼竜を囲うように結界を張る。
もちろんディケムのようなメガメテオを防げるような結界ではない。
だが、魔王のアバドンを防ぐことが出来る事から、その強度は察することは出来る。
そこへ…… 幼竜が必死に蒼竜の元へ行こうとする。
「キュー―ゥ キュー―ゥ キュー―ゥ!」
親を求めるような幼竜の姿に、みな言葉を無くす。
マディラが幼竜を抱きかかえ、ギュッと抱きしめる。
そして…… ギーズが結界内にアバドンを発動する。
「キュー―ゥ キュー―ゥ キュー―ゥ!」
幼竜が涙をこぼしながら必死に蒼竜へ手を伸ばすが……
その手が蒼竜に届く事は無い。
既にマナも枯渇し、実体として存続できる限界だったのだろう。
アバドンにより蒼竜は一瞬にして消滅した。
蒼竜に溜め込まれた瘴気も全てアバドンのイナゴに食いつくされ、熱風により消滅していった。
「………………」
マディラに抱かれ、蒼竜の消滅をじっと見つめる幼竜。
誰も幼竜に言葉をかける事は出来なかった………
「ご苦労であった、ギーズ!」
「………………へ?」
「どうした蒼竜だ」
マディラに抱かれた幼竜が突然喋り出す。
「え? で、でも…… あの………あれ?」
「同じ魂だと言ったであろう。 元の体が消滅したからな、残りの記憶が統合されたのだ」
「――――――!!!」
それならそうなると早く言ってほしかった!!!
僕たちのホロっとした涙を返してほしい。
読んで頂きありがとうございます。
私の個人的な楽しみとして書いている小説ですが、
もし気に入って頂けたら嬉しいです。




