第五章3-7 神話級巨人
ギーズ視点になります。
会議の出だしは皆、この初めての体験に呑まれ、たどたどしい会議になったが……
いつしか皆、仮想空間上の会議室に居る事、離れている場所に居る事も忘れ、会議は白熱していった。
人の順応力は凄いなと感心させられる。
『ギーズ隊、蒼竜対策部隊の、現在の調査報告です』 マディラが、僕たちのチームが集めた情報を、みなに報告する。
『近隣の村の情報によりますと――
・この頃、蒼竜の咆哮の声がよく山にこだまする。
・言伝えによると、消滅前は蒼竜の咆哮が山々にこだまするとか。
その為今の咆哮は蒼竜の消滅を予感させると多くの村人は言っています。
現実、私達も蒼竜らしき咆哮を聞きました。
・蒼竜の咆哮に呼応して、この頃聚鳳山エリアの魔物の数が増えた。
・先日幼竜の鳴き声を聞いた者が居る。
多くの情報を聞けましたが、大きくまとめるとこれぐらいになります』
『次代の幼竜が既に生まれている…… 蒼竜の消滅も間近と言うことか?』
皆が頷く。
『そして他に気になる情報があります。 蒼竜の消滅の噂が流れ出したタイミングに合わせて、近隣の村々へ巨人族の襲撃が頻繁に起こっているらしいのです』
『巨人族? ここは領土争いには無縁な地、戦略的には一切意味をなさない片田舎…… そこになぜ巨人族が?』
そこにウンディーネが顕現する。
ディケムの構築した固有結界内の空間、精霊達は自由に顕現する事ができる。
精霊の顕現はギーズ達には見慣れた光景だが、パメラとジャスティノは目を見張る!
『巨人族の狙いは、蒼竜の幼体じゃ』
『ウンディーネ様! 巨人族が蒼竜の幼体を? いったい何故ですか?』
『巨人族は、数千年に一度生まれ変わる神獣の幼体を食らうと―― マナの格が上がり伝承上の神話級巨人に格が上がるとされている。 蒼竜の幼体を食らえば、食らった巨人の元の属性にも左右されるだろうが、風の属性『アネモイ系統』の神話級巨人が生まれるやもしれぬな』
ウンディーネの話を聞きパメラは目を見張る。
蒼竜消滅でも難しい任務なのに、そこに神話級巨人誕生まで絡んでくる。
それはもう…… 村を助けたいだけの情熱でどうにかなる規模の話ではない。
『っな! ちょっ! そんな…… 神話級巨人が生まれるって……』
そこでカミュゼ隊のポートが口を開く。
『パメラさん。 我々カミュゼ隊は、ギーズ隊の補佐と言う名目でジョルジュ王国に参りましたが……、その本当の目的は、巨人族の動きを探るためです。 ルーミエ王子の真意もこちらが本命でしょう』
『っな! どう言う事ですか?』 パメラがさらに驚きの声を上げる。
『そして…… 我々の懸念が当たってしまったようです。 現在巨人族はジョルジュ王国に向けて大規模な侵攻の準備をしている事は確認済みです』
『ッ――!! そんな…… それでは村どころか、ジョルジュ王国自体が……』
『はい。 巨人族の大侵攻、そこにもし蒼竜を食らい、神話級の巨人が誕生してしまえば…… ジョルジュ王国自体の存続は難しいでしょう』
『では、なぜルーミエ王子は巨人族侵攻のカギとなりうる蒼竜の案件を重要視していない?』
『単純に知らないのでしょう…… 私達も、ウンディーネ様に聞くまでは、巨人族の侵攻と、聚鳳山の巨人族出没事件は繋がりませんでしたから』
『なるほど。 大規模な戦争が起きる可能性があれば、蒼竜の件がおざなりになる事もうなずける。 なぜこの大変な時期に蒼竜が……と思っているのだろうが、今だから起きたとは考えてはいないのだろうな』
重大な案件を落ち着いて話す、ソーテルヌ総隊の皆に苛立ちを覚え、
蒼白になったパメラが立ち上がり叫ぶ。
『ソーテルヌ閣下!!! どうかジョルジュ王国を! この国をお守りください!!!』
パメラはディケムに必死に懇願する。
数日前、本国の自分の故郷への対応に憤りを覚えていたが……
自分の無知、行動の浅はかさを思い知らされる。
故郷も救いたい、しかし戦争で国が負ければ、故郷も滅ぶ。
パメラはどうしていいか分からず、パニックに陥っていた。
『パメラさん。 あなたの故郷も救い、ジョルジュ王国も救う。 そのために今皆で会議をしているのです』
『ッ――! は、はい…… 取り乱しました。 申し訳ありません』
パメラが落ち着いたところで、会議が再開される。
『もう一つ、この度の任務に関わるか分かりませんが、聚鳳山近隣の村、ヴージュ村にて新たな勇者が誕生したとの事です』
『新たな勇者?』
『はい。 ジョルジュ王国の西方の田舎町に突如現れた勇者。 【西方の勇者】と呼ばれているそうです』
『西方の勇者………?』
『王都の勇者様は、このような田舎には来ませんから。 オーガの危機にさらされている村人たちには、新たな勇者の誕生は、藁にも縋る事だったでしょう』
『私が得た情報ですと、その【西方の勇者】は水の精霊を従えているとの情報でした』
『水の精霊じゃと? ………。 この辺にはたしか【ニンフ】が居たと思ったが…… ちと調べておこう』
『お願いします、ウンディーネ様』
その後は大きな目新しい情報は無く、翌日に再度情報収集を行い、もう一度夜に会議を行う事でその日の会議は解散となった。
固有結界から意識が戻ったギーズたちは、各自のベットの上で目覚める。
皆さっきまで居た会議室が『自分だけが見た夢なのでは無いか?』と、呆然としている。
「ねぇギーズ……… さっき私達会議室に居たわよね?」
「あぁ、さっきのは夢じゃない。 僕もマディラも、ジャスティノも、パメラさんも。 さっきまでディケムと会っていたよ」
「そうよね。 ポートとも私達話したよね」
「うん。 本当に妖精に化かされた様な体験だった」
「ギーズ様、軍事機密ですから決して今日体験した事は他言致しませんが…… 話しても誰も信じてくれないと思います」
その晩は、皆、この日の体験に興奮して寝付けなかった。




