第一章1 木こりの子
俺の名前は【ディケム】。平民だから家名は無い。
シャンポール王国領内の西側に広がるロワール平原と、更に西に広がる黒の森との間にあるサンソー村と言う村で生まれ育った。
父は木こりのアランで母はフィロー、現在六歳の俺と五歳年下の弟ダルシュ の四人家族だ。
人口二〇〇人にも満たない、村人はみんな顔見知り。
そんなごく小さな村の隅に、何故かひっそりと佇んでいる寂れた古本屋。
そこで俺は一冊の本と出会う事になる。
【隠された智慧の書】と書かれたその本との出会いが俺の人生を加速させ、幼馴染達を巻き込み、国を巻き込み、果てはこの世界の全種族をも巻き込んだ壮大な冒険が始まる!!
......この時はそんな未来を知る由もなく、俺は平々凡々な毎日を送っていた。
サンソー村は比較的温暖な地域で、守られるように森に囲まれており、さらに近隣には他種族の国境もなく戦争中の国の領土内にしては比較的平和な村だ。
平地にあるため農耕も盛んで、森に接しているお陰で狩猟も出来、森の恵みの恩恵も受けられている。
とても平和な村なのだが………
逆にこれといった産業もないので、人が集まることはなく、これ以上の発展は見込めず一般的な若者にしてみればとても退屈な村だ。
俺は五歳の時から父さんに連れられて木こりの仕事を手伝っている。
小さいときから血筋なのか力が強く、体を動かす事が得意だった。
でも、本当は力仕事ではなく、勉強して魔術師や錬金術師になりたいという夢を親にはまだ言えないでいる。
人族の国では八歳の時、国が子供たちを集めて【能力】鑑定を行う。
この村にも毎年、国の鑑定師団が来て八歳の子供たちの能力を鑑定してくれる。
まぁ、鑑定してくれるのはうれしいけど………。
村のよく酒場で入り浸っている大人たちが言うには、ようは戦争に使えそうな子供たちを見つけて、国にとって有益な子供が戦争から逃げ出さないように管理し、早くから戦力として育ているのだそうだ。
鑑定の儀では、水晶に手をかざすと能力の種類によって色が変わるのだという。
その色によって、どの職業に向いているかを判断するのだ。
鑑定で職業の適正が分かれば、普通は十二歳までその能力を各自で鍛える。
金持ちの家の場合は、その能力に合わせて家庭教師を雇うらしい。
そして鑑定で、もし軍事的に貴重な能力持ちだったとしたら、早くから王都の軍に迎え入れられ、国主導で教育する機関に入りエリートになるのだとか。
貴族の子供ならば、誉だろうけれど………
一介の村人である俺には、若くして親元を離れ王都で学ぶなど嬉しくも何ともない。
子供たちは、十二歳から親元を離れそれぞれの能力に合わせた学校に四年間通い、十六歳で成人して職につく。
しかし、今の人族は【種族戦争】で負け種族の筆頭だ。
今や鑑定でどのような、たとえ生産系の能力であったとしても、男でも女でも性別に関係なく十六歳で軍に徴兵される。
男は一〇年以上、女は五年以上、従軍することになっているのだが、この一〇年で大抵の子供たちは戦死してしまう。
そして仮に生き残ったとしても、今の人族の現状では退役などさせてくれる筈もない。
これが今の滅亡寸前の人族の現状だ。
このような凄惨と言わざるおえない様な状況の中で、今の子供たちの一番の将来の目標は、生き残れる可能性の高い職業に就く事である。
能力鑑定では、戦士系か魔法使い系が大人気だ。
だが、この二つの能力系統はどちらも珍しく、特に人族では魔法使い系の能力が希少になっている。
だから今の世代のエリートコースは十二歳で王都の戦士学校か魔法学校に行くこととされている。
俺は魔法使いに憧れているけれど、木こりの子は木こりなのだろうか……
体を動かしたり斧を使うのが得意だし……
今後の自分の将来にはどうしても不安を感じてしまう。
木こりスキルで、どのように戦争で生き残れというのか……。
この時はそんな風に思っていた。
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