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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章三節 それぞれのイマージュ  ギーズと西方の勇者
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第五章3-5 コラテラル・ダメージ

ギーズ視点になります。

 


 隊員の準備も済み、ジョルジュ王国へ出発する。


 ジョルジュ王国は、シャンポール王国の南西に位置する。

 人族領、魔神族領、巨人族領との領境にある。

 魔神族との同盟を得た今は、巨人族への守りの要となっている。


 ジョルジュ王国へは、普通に馬車で向かえば二週間、馬で駆けて一週間ほどの距離がある。



 余談だがエルフ戦役の折、この距離をラトゥール将軍は馬を乗り潰し、三日で踏破し、ディケムの援軍に駆け付けたと言う…… 

 普通に考えれば不可能な事、ひとえに愛のなせる業だったのだろう。


 その不可能を可能にした、『愛の進軍』が題材の演劇が、今人族では大人気の演目になっている。


 ディケムは関係者なので、問題が無いか確認のため一度演劇を見に行ったが…… 

 『恥ずかしくて見ていられない』とそれ以来、劇場に足は向いていない。

 だけど…… ラトゥール様が嬉しそうに何度も通っているのを皆が目撃している。


 その日頃のクールなイメージとのギャップに、多くの騎士がやられてしまっている……





 今回の任務もディケムの転移陣で、この移動時間一週間を短縮する。


 皆が転移陣に乗る。

 僕とカミュゼ、メリダ以外は転移陣を経験するのは初めてのようだ。

 マディラも緊張した顔をしている。



 転移の魔法陣が強く光り発動する。


 目の前の空間がゆらりと揺らめき光に包まれる。

 ほんの数秒真っ白な光に包まれ、光が薄らいで視界が回復しだすと———

 僕達はジョルジュ王都が遠目に見える丘の上に立っている。


 そしてその丘に、ジョルジュ王国の騎士集団が僕たちを迎えに馬で駆け付ける。

 事前にルーミエ王子と打ち合わせは済んでいるようだ。




「ジョルジュ王国第三騎士団、騎士団長のハーヴィスと副団長パメラと申します!」


「シャンポール王国 ソーテルヌ総隊元帥 ディケム・ソーテルヌです。 ルーミエ王子の依頼に応え、我が麾下、近衛隊のギーズ他五名を連れて来ました」


「はっ! ソーテルヌ閣下! お目にかかれて光栄であります!! ギーズ様の今後の行動は、現地の地理に詳しい、我が第三部隊副団長のパメラがお供し、ご案内いたします」


「はい、よろしく頼みます。  では私は戻る事にする。 ギーズ、朗報を期待しているぞ!」


「はっ!」


 皆で敬礼した後、ディケムは転移して帰っていった。

 その転移する様を見て、ハーヴィス将軍もパメラ副団長も目を見張っていた。

 転移なんて人族領ではお目にかかれるものではない。



 その後、カミュゼ隊はハーヴィス将軍と、ジョルジュ王国の首都に赴き、ルーミエ王子と面会したり、様々な情報収集を行う。

 カミュゼ隊の別行動を隠さないディケム、それを容認するルーミエ王子……

 やはり本命は『蒼竜』ではないのだろう。 


 今世の蒼竜は聚鳳山(しゅうほうざん)の翡翠湖という、片田舎に居る。

 これが王都の近くだったら大問題だったのだろうが、今回は最悪の場合町や村のいくつかが消滅しても、大事の前では小事でしか無いのかもしれない。

 政治的にやむを得ない犠牲、コラテラル・ダメージというやつだ。

 人の命を天秤にかけている様で、気に食わないが……… 政治とはそう云うものだ。




「ギーズ様、それでは参りましょう。 旅は長くなります、今後私の事はパメラと呼び捨てください」


 パメラ副団長に促され、用意してもらった馬に乗り、聚鳳山(しゅうほうざん)の麓、翡翠湖へと向かう。

 本当は、シルフィードの召喚飛竜に乗ればすぐにたどり着けるだろうが、ここは同盟国とはいえ他国、緊急時以外は自重していた方が良いだろう。


 問題は…… マディラが馬に慣れていない。

 だが今は仕事中、手取り足取りなど出来るはずもなく、ハラハラしながら見守るしかない。




「ギーズ様。 四門守護者、青の王のお噂はこのジョルジュ王国にも轟いております。 此度の蒼竜消滅のS級依頼、ギーズ様の御案内役は、わたし自ら志願いたしました」


 マディラが『ピクッ』と反応する。


「ギーズ様、失礼な物言いをお許しください。 本当にこのメンバーでこの任務は遂行できるのでしょうか?」


「ちょっ! パメラさん! それはどう言う意味でしょうか? ギーズの補佐に私とジャスティノでは不満があると?」


「…………。 不満ではありません、不安なのです」


「な、なにが違うのですか!?」


「このジョルジュ王国、本国の『蒼竜』への対応、お気づきになりませんか?」


「ほ、本国の対応って……?」


「正直、失敗しても構わない。 今世の『蒼竜』は聚鳳山(しゅうほうざん)という片田舎に居る。 最悪でも小さな町や村が幾つか滅ぶだけ……… ですか?」


「ちょっ! ギーズ! なんて事を―――」


「その通りです」


「っな! そんな!?」


「ですがそれでは私は困るのです!!!  聚鳳山(しゅうほうざん)の近くに、私の生まれ故郷の村が有るのです! みな国の為に一生懸命日々働いているというのに……… その国に見捨てられたなど…… そんな事! 私は断じて認めるわけにいかないのです!!!」


「…………。 パメラさん…… 私…… ごめんなさい」


 パメラの必死の訴えに、マディラの頭が一気に冷える。

 パメラは、自分の生まれ故郷を守る為に、誰よりも今回の任務に真剣なのだ。

 『もしかしてパメラがギーズに色目を使うのでは?』などと一瞬でも疑った事が恥ずかしかった。



「パメラさん…… 『大丈夫だ!』などと、無責任な事は言えません。 今回の『蒼竜消滅任務』は非常に難しい。 ですが私の最善を尽くす事をお約束します。 そして……この案件を解決できるのは人族では、ソーテルヌ閣下と私だけだと断言しておきます」


 パメラは涙を滲ませ頷く。


「…………。 ありがとうございます。 難しい任務であることは承知しております。 失敗したとしても、恨む事など致しません。 ただ、ギーズ様が真剣に取り組んで頂けることが聞きたかったのです」


「大丈夫です。 ソーテルヌ閣下は私が蒼竜の任務に専念できるように、別部隊も派遣してくれたのですから」


 パメラはやっと笑顔をこぼした。





 ジョルジュ領に入り、パメラさんに案内され、馬で旅すること三日。

 流石にマディラも馬になれた頃、パメラさんの故郷ビュシェール村にたどり着く。



「ギーズ様。 今日は少し早いですがこの村で宿を取りましょう。  あそこに見えるのが聚鳳山(しゅうほうざん)です。 そしてその麓に見えるのが蒼竜様の住まう翡翠湖です。 今日は情報収集と、明日に向けてのミーティングをして、今後のスケジュールを決めると言う事で如何でしょうか?」


「はい」



 僕たちは、パメラさんの故郷ビュシェール村で宿を取り、情報収集をする事にした。




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