第五章3-3 総隊麾下:王国騎士団
ギーズ視点になります。
ルーミエ王子の依頼を受けた僕は、旅の準備をする。
通常ならば一緒に行くバディを選ぶのだが………
ルーミエ王子に『お受けします!』と言ってしまった手前マディラで確定のようだ。
もちろん嫌な訳では無く…… むしろ嬉しいのだが……
やはやり任務は危険だ、その危険な任務にマディラを連れて行きたくは無いと言う思いもある。
しかし、マディラも同じ王国軍ソーテルヌ総隊の一員。
僕が連れて行かなくてもいつかは任務に赴く、戦争に参加する。
ならば…… 僕の手の届く場所に居てほしいと思ってしまう。
出発準備に追われているとき、またディケムから呼び出される。
立て続けに呼ばれるなど、嫌な予感しかしないが執務室に向かう。
執務室に入ると、マディラも中に居た。
そして、王国騎士団第五部隊カラ・エルマス将軍と………
その第五騎士団所属のマディラの兄、ジャスティノ・ボアルがいる。
「…………。 これはどういう状況でしょう?」
すると、カラ将軍が一番に口を開く。
「ギーズ・フィジャック卿、任務前の準備で忙しい所、ご足労かけて申し訳ない。 だが、折角フィジャック卿の重要任務があると聞いたので、いい機会だと思い、ソーテルヌ閣下に無理を言って時間を作ってもらった」
「はぁ……」
「フィジャック卿も知っていよう、我が第五騎士団所属のジャスティノだ」
「はい。 プライベートでお世話になっております」
「ならば、フィジャック卿もジャスティノの望みも知っていよう?」
「はい。 ソーテルヌ総隊に転属届を出していると聞いていました」
「正直に言えば、うちの有望株を他の部署へ送るのは悔しいが…… それは私の私情、ジャスティノと国の事を思えば、この移動を認めた方が良いと私は判断した」
「私は私的にも懇意にしていますから、むしろ嬉しい事なのですが…… ソーテルヌ総隊への転属届はかなり多く集まっていると聞いています。 今のところ全て断っている中でのこの移動は大丈夫なのでしょうか?」
「そう。 このままジャスティノがソーテルヌ総隊へ移動しては、明らかな依怙贔屓と思われるだろう。 だが…… それでも私は有望な若者が希望するのならばソーテルヌ閣下の元へ送った方が、国の為になると思うのだ」
「………………」
「正直、最初は確かに我々王国騎士団はソーテルヌ閣下へ思うところがあった。 長年王国を守ってきたと言う自負がそうさせた。 だが…… ソーテルヌ閣下の実績と現在の隊員たちの力の差を見れば、どちらがより王国に利をもたらしているかなど火を見るより明らか。 我々とて争いたいわけではない。 王国の為に働きたいだけなのだ」
ラス・カーズ将軍の第一騎士団。
フォン・マクシミリアン将軍の第二騎士団。
今、王国騎士団はソーテルヌ総隊と連携した部隊の成長が目覚ましい。
「そこで私は提案したい。 各部隊でソーテルヌ総隊への転属を希望する有能な者を、各部隊を預かる将軍の推薦状をもって、総隊で試験を行ってもらいたい。 そして試験に合格した者の総隊への転属を認めると言う事でどうだろう」
「カラ・エルマス将軍。 私は王都守護者として立場上、第一騎士団を麾下としております。 そして国防の時は全騎士団の上に立つことを許されています。 しかし、これは国防が関わった時のみ、平常時では第一騎士団以外の部隊は、ソーテルヌ総隊との上下関係はありません」
カラ将軍がディケムに頷く。
「しかし…… 先ほどのカラ将軍の提案では、各騎士団がソーテルヌ総隊の下に付いていると勘違いを与える事になりかねませんか?」
「然り。 ソーテルヌ卿…… もう良いではないですか、それが事実。 今の私の提案は、各騎士団長と宰相殿、そして陛下の総意。 ソーテルヌ卿のお陰で、滅亡寸前だった人族が、今や『人、魔神、エルフ』の三種族同盟を結び、大国に匹敵する存在感を示している。 生き延びる事だけを考えていた我々の時代から、ソーテルヌ卿の目指す人族軍へと変わらなければならない時だと思うのだ」
僕もマディラもジャスティノさんも、話が思いもよらぬ大事に発展した事に、初めて気づき息を吞む。
具体的な話はジャスティノさんの転属の為に試験をしてほしい事だったが……
その真意は、全王国騎士団が事実上ソーテルヌ総隊の麾下(指揮下)に入ると言うものだった。
「…………。 わかりました。 陛下の承諾も有るのでしたら、カラ将軍のご提案を受けましょう」
「ソーテルヌ卿、ありがとう。 それでは、これがジャスティノの推薦状だ。 試験をお願いする。 もちろんダメな場合は落としてもらって構わない、試験は公正に行ってほしいからな。 部隊ごとに差を付けられては、余計な確執が生まれかねぬ」
「わかりました。 ジャスティノの試験は、これからギーズが向かう任務に同行し、成果を出せるかどうかで如何ですか? 総隊への転属試験は簡単では示しがつきません」
カラ将軍は『ニッカ』と笑い頷く。
「ソーテルヌ閣下! それでお願いいたします。 それでは今後とも王国騎士団をよろしくお願いいたします!!!」
その時、カラ将軍の言葉遣いが上司へ向けての挨拶に変わり、上司へ向けての敬礼がなされた。
もちろん国防の折や、貴族としての振舞のときは、今までもへりくだっていたのだが……
今この時の敬礼は、平常でも総隊が全騎士団の上だと示す敬礼だった。
カラ将軍が退出した後、執務室に静寂が戻る。
「ディケム…… 受けちゃったけど、事は大事だったんじゃないの?」
「だと思う。 まぁ…… ダドリー・グラハム将軍が、マクシミリアン将軍に第二騎士団を譲り、第十二部隊に降りた時からこの道筋は決まっていたのだと思うよ。 あの生ける武人、身をもって騎士団同士の確執を取り除いたのだろう」
「そこまで考えて、動いていたのか…… さすがだね」
「それでは―― ジャスティノ・ボアル! カラ将軍の推薦状は受け取った。 先ほども述べた通り、貴殿の試験は近衛隊ギーズの任務に同行し、功績をあげる事。 これをもって辞令とする」
「はっ! ソーテルヌ閣下! チャンスを頂きありがとうございます! 必ずやこの試験合格してみせます」
僕、マディラ、ジャスティノさんは執務室を後にする。
「はぁ~…… もう、執務室入ったらジャス兄居てびっくりしたでしょ! 話も大事になって緊張して息できなかったわよ! 」
「ごめんマディラ。 でもやっとチャンスを貰えたんだ! 俺は絶対頑張るよ!」
「あぁ~ わたし…… タナボタで総隊入れてもらってよかった~ 今だったら絶対に総隊入れない自信あるわ! もうララには足向けて寝られない!」
「マディラ…… 入れない自信ってなんだよ………」
「ジャスティノさん――………」
「ギーズ様! あなたは私の上司、それは総隊に入れなかったとしても、先ほど決まった事からも、今後変わりません。 もう『さん』付はおやめください。 示しがつきません」
「ならジャスティノ――……」
「マディラ! お前に呼び捨てされるのは何故か嫌だ!」
「ちょっ! ジャス兄! 私これでも総隊では側近なんだけど!」
「お前は、い・や・だ!」
「―――………」
これから向かう任務は、楽しくなりそうだ。




