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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章三節 それぞれのイマージュ  ギーズと西方の勇者
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第五章3-2 聚鳳山の蒼竜

ギーズ視点になります。

 


「この話は、【青の王】の二つ名を持つギーズ君に適任の話だと思ってね」


 ⦅ん? ディケムが難しい顔をしている。 嫌な予感しかしない⦆


 だがルーミエ王子は話を続ける。


「我が領土ジョルジュ王国の山奥に、聚鳳山(しゅうほうざん)と云う山がある。 その聚鳳山(しゅうほうざん)の麓に翡翠湖(ひすいこ)という美しい湖が有るのだが―― そこに古来より【蒼竜】が住んでいる」


「【蒼竜】ですか?」


「あぁ、【蒼竜】。 他の地では青龍と呼ばれる事も有る」


「神獣蒼竜…… 四神相応の青龍…… まさに四門守護者の青と呼ばれるギーズ向けの話ね」


「マディラ………」


 僕はこの四門守護者、青の王の二つ名は恥ずかしくてしょうがないのだが……

 マディラは殊の外気に入っている。


「それでその蒼竜が何か問題でもあるのでしょうか? 神獣は人々に敬られるもの、悪獣や害獣の類ではありません」


「あぁ、上位の竜や神獣は消滅しない事は知っているね」


「はい。 神獣九尾の狐も肉体は消滅しても、また同じ魂で次の九尾に転生します。 例外として暗黒竜ファフニール様などは…… 神に近く肉体は老化しないのだとか……」


「そうだ、肉体が老化しない神獣と古い肉体を捨て新しい肉体を得る神獣、一長一短でどちらが良いとは言えないらしいが…… 蒼竜は後者、数千年に一度古い肉体を捨て、新しい肉体に生まれ変わるらしい」


「それが今なのですか?」


「そうだ。 そして…… 古い肉体を捨てるところに問題がある」


「問題ですか……?」


「あぁ、九尾の様に人知れず肉体が消滅するのならば良いのだが…… 蒼竜は小さな子竜を生んだ後、その巨大な肉体を捨てる時に一気に塵と化す」


「塵……?」


「蒼竜は、四神相応の青龍と謳われる程、徳が高い人族の守り手だ。 その分多くの悪霊、怨念を消滅させてきた。 だが…… 数千年もの途方もない年月、悪霊と戦い続ければ…… その分毒素、瘴気も溜まるというもの」


「なっ!」


「蒼竜が生まれ変わるのは、その溜まった毒素、瘴気をリセットする為だとも言われている」


「………………」


「そして、溜まった瘴気を溜め込んだ肉体が、塵となり飛散すれば―――」


 『ゴクッ!』 僕とマディラは息を呑み次の言葉を待つ…… 


「伝承では国が一つ滅んだとされている」


「ちょっ! く、国が一つ………」


「あくまで伝承だが、検証も出来ず、放置も出来ない案件だ。 そこで『青の王』にお願いしに来たと言う事だ」


「で、ですが…… 青の王など、ただ人々がそう呼んでいるだけで、私が蒼竜の案件に適任だと言う事には―――」


「いやギーズ、お前が適任なんだよ」


「ディケム?」


「お前がラーニングしている【アバドン】のイナゴは全ての物を食らいつくす。 そしてシルフィードは風を操る。 この二つを使えば対処は可能だろ?」


「あ…… なるほど」


「そしてその後、その蒼竜の幼体をギーズ君が保護してくれても良い」


 その地方の守り神、神獣、守護竜を保護しても良いとルーミエ王子は言う。

 僕とマディラはその言葉に目を見張る。


「蒼竜を保護してしまって良いのですか?」


「あぁ。 蒼竜はその体を消滅させた後、次の地を求めて飛び立つ。 ようは毒素に汚染された場所では住めないからだと思う説と、弱体化してしまった後、同じ場所に居ては今まで散々滅してきた悪霊共に狙われるからだと云う説もある。 色々説は有るのだが……ただ確かな事はどこかに住家を変えると言う事だ」


「結構迷惑な話ですね……」


「神獣と言っても、人々が勝手に都合のいいように呼んでいるだけの事、蒼竜からしてみれば、人族を守っているなど思いもしないだろう」


「なるほど………」


「どうだ、ギーズ君…… この依頼受けてくれるか?」



 あれ? それ程悪い話では無かったと思うが………

 何故さっきディケムは嫌な顔をしたんだ?

 放って置いてはいけない案件だとも思うし―――



「その依頼お受けします―――!」

「ちょっ! マディラ!」



「そうか! マディラと言ったな! 君がギーズ君に付いて居てくれるのはとても心強い! この案件、多くの人々の命がかかっている、くれぐれもよろしく頼むよ―――!!!」


「あ…… あの…… ルーミエ王子―――」

「では頼んだぞ! ではまたな―――」


「………………」

「………………」

「………………」



 マディラが勝手に依頼を受けた後、急ぐようにルーミエ王子は退出して行った。

 後ろでディケムが頭を抱えている……



「マディラ…… あの様子、怪しすぎると思わなかったのかい?」


「ごめんなさい…… つい蒼竜が欲しくて………」


 流石のマディラも、逃げるように引き上げたルーミエ王子の様子に、この話の胡散臭さに気づく。

 ディケムが、迂闊に受けてしまった俺達を見て、呆れている………



「あ…… あのぉ~ ディケム様、 申し訳ありませんでした!!!」


「まぁいい。 どちらにしろ放っては置けない案件だったからな」


「だけど…… ディケムはなにか思うところが有るんだよね?」


「えっ? 他に危惧する事が有ったのですか?」


 マディラが頭を抱える。



「あぁ…… ギーズ、一つだけ頭に入れておいてくれ。 これは確定事項ではないが…… 巨人族がおかしな動きを見せている。 そこに来て巨人族領との要所ジョルジュ王国の王子ルーミエ王子からの蒼竜の話し……… タイミングが良すぎる」


 僕とマディラは息をのむ。


「ただの思い過ごしならばいいが、もし本当に巨人族が動けば、ギーズ、お前の手にも余る案件だ。 危険だと思ったときはすぐに連絡をくれ」





 依頼を受けてしまった事はもう仕方がない……

 王族との約束は絶対になる。


 僕とマディラは、ルーミエ王子の依頼に向けて、急いで準備を始める。



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