プロローグ:新たな勇者誕生2
コーダの目の前で、次々と知り合いの村人が殺されていく。
戦争で功績をあげる事を夢見るコーダだったが……
初めて本当の戦闘の生々しさを目にする。
コーダは震えが止まらない………
⦅こ…… こんなの無理だろう!? みんなオーガに食われちまう!⦆
コーダは震えながら必死に逃げる。
理想は崩れさり、現実の惨さを目のあたりにする。
⦅怖い…… 怖い…… 嫌だ――― 誰か助けてくれ―――!!!⦆
コーダは逃げ惑う、逃げて逃げて必死に逃げる惑い―――
いつの間にか…… いつもフリウリと会っているヴージュ湖の畔にたどり着く。
しかしそこでコーダは一匹のオーガに追いつかれてしまう。
「あぁ…… あぁぁぁ――― だ、誰か―― た、助けてくれ!!!」
コーダは必死に命乞いをし、助けを求めるが、オーガは意に返さない。
絶望の中、コーダはオーガの振り上げられる腕を見上げる………
『もう駄目だ………』 そう諦めた時―――
ヴージュ湖から一人の女の子が飛び出し、オーガを吹き飛ばす。
「え………? フ…… フリウリ?!」
助けてくれた女の子は悲しそうにコーダを見る。
今コーダの目の前にいる女の子は、フリウリの姿をしているが……
いつものフリウリではない。
体は透けて、半透明の精霊体。
「フリウリ…… なのか?」
その女の子はコーダにつげる。
「私は水の中級精霊ニンフ…… そしてあなたの知るフリウリ。 いつもあなたに会う為に人の姿をしていました」
「………………」
「コーダ…… ごめんなさい。 あなたを騙していました。 あなたに嫌われたくなかった…… 人でない事を知られたくなかった……」
フリウリは自分が精霊だということをコーダに知られたくなかった。
フリウリはコーダを愛してしまった。
精霊が人に恋をする………
ウンディーネに知られれば滅せられるかもしれない、精霊のタブー。
だが、フリウリはコーダに恋をしてしまった。
その時―――
『ウオオォォォォゥ―――………』
先ほどフリウリに吹き飛ばされたオーガが起き上がり、仲間を呼ぶ。
そして村の四方向から、その呼ぶ声に応える遠吠えが聞こえてくる。
「コーダ…… このままでは貴方は死んでしまいます。 もし貴方が私と契約を交わせば、私は貴方に力を貸してあげることが出来ます………」
フリウリは、愛するコーダとは『人と人』として付き合いたかった。
精霊と人が契約を交わす、それは従属であり寄生であり……
その先にあるものが決してコーダが憧れるようなものではない事を、フリウリは知っている。
だが…… いまこのままでは愛するコーダの命は、確実に尽きてしまう。
それならば………
少しでも可能性がある方へ、その先にあるものが決して報われない最後とは限らない。
その道を模索する時間は作れる筈!
「さぁコーダ! どうしますか?」
「もちろんだ――― フリウリ! 俺と契約してくれ!!」
コーダは迷いもなく即答だった。
コーダは愛するフリウリが精霊だったことに歓喜していた。
コーダは昔から人が苦手、むしろ妖精などに憧れる少年だった。
そんな自分が一人の女性に恋をしてしまった。
コーダは悩んでいた。
フリウリを愛する気持ちに嘘は無かった…… しかし………
いつかはフリウリもコーダを裏切り、捨てて、他の男と自分を侮蔑する日が来るのではないかと……
そんな、唯一自分が愛してしまった女性が、コーダが神聖視する精霊だった。
愛するフリウリと契約する!
精霊と人の契約は絶対だ、マナを共有し消滅するときも一緒。
それはコーダが憧れる永遠の誓い! 特別な関係になれる!
それはコーダが夢にまで見ていた、愛する人との結ばれる理想の形だった。
「コーダ……… 覚悟が出来たのならば、私のあとに続けて契約呪文を演唱して」
『契約呪文』を唱える…… その甘美な響きがコーダをさらに高揚させる。
“我に従え! 汝の身は我の下に、汝の魂は我が魂に!
マナのよるべに従い、我の意、我の理に従うのならこの誓い、
汝が魂に預けよう———!”
⋘—————συμβόλαιο(契約)—————⋙
コーダの呪文演唱にフリウリがYesとこたえる。
水の中級精霊ニンフとコーダのマナが繋がり、契約は成立した。
ここに―――
稀にみる中級精霊と契約を結んだ、精霊術師が誕生する。
ジョルジュ王国に突如現れた、英雄誕生の瞬間だ。
中級精霊は強力だ、上級精霊とまではいかないが……
オーガなど何匹いようが、物の数ではない。
コーダを狩るために四匹のオーガが湖に集まってくる。
仲間のオーガを呼んだ一匹も合流し、五匹のオーガが一気にコーダに襲い掛かる。
『ひっ!』 コーダは恐怖のあまり頭を抱えてしゃがみ込む。
そのとき、湖の水がせり上がり、五匹のオーガを大きな水の手で捕まえる。
オーガ達は水の手に捕まえられたまま、そのまま水の中に取り込まれ、息が出来ずもがき苦しむ。
そして……… フリウリが一気に水に水圧力をかける―――
オーガ達は一瞬にして水圧で潰れ、そのまま湖に引きずり込まれていった。
その圧倒的なサマを見て…… コーダは興奮した。
あの絶望的な力を誇る巨人族のオーガ、それを五匹も瞬殺してしまう力。
その力を自分が手に入れた!
精霊と契約した特別な人間になれたのだと舞い上がっていた。
その大喜びするコーダをフリウリは見ている。
そしてそのコーダの頬を流れる汗の多さを見逃さなかった………




