第一章18 訓練の日々
王国騎士団第一部隊との特訓の日々。
毎日動け無くなるまで訓練をして、倒れ込むように寝て、また朝早くから訓練。
本当にきついけど、嫌ではなかった。
仲間と一緒に成長を感じられる日々はとても充実していたからだ。
ディック、ギーズ、ララは驚くほど魔法師として成長し、マナも感覚的に感じ取れるようになってきて、ウォーターエレメントとも仲良くなっていた。
まだマナから魔法を直接操作で行使することはできないけれど、マナを感じ取れると呪文を使った魔法でも、呑み込みが早くなるようだ。
結果、あの三人の魔法の威力、規模はもう大人たちを超えてしまっているようだった。
騎士団の魔法師たちが、焦って一生懸命訓練しだすのも分からなくもない。
そして、ラローズさんとラモットさんも、ウォーターエレメントとかなり仲良くなっているように見える。
残念ながらマナの感覚は、まだよく分からないらしいが。
感覚的なことは、歳が若い方が鋭いらしいが…… それを聞いたラローズさんは、ラス・カーズさんを叩いて怒っていた。 ……可哀想に。
「それでは少し試すぞ!」
ウンディーネの掛け声で、皆集まる。
「ではラローズ、オヌシのウォーターエレメントを妾の管理下から外す、どれほど精霊と絆が深まったか見せてみよ」
ラローズさんは、自信ありげに頷く。
そして、ウンディーネが強制力を切ると………
「プィッ………」
――え? なんか目をそらされた雰囲気があったような?
「ちょ… 妖精さん!」
「プィッ………」
――ん! これ確定でしょ?
「プィッ…」 「プィッ…」 「プィッ…」 「プィッ…」
「こらラローズ! しつこいと嫌われてしまうぞ」
ウォーターエレメントに避けられ、ウンディーネに怒られ、ラローズさんが立ち直れなくなっている………。
その後、結局ラモットさんもダメだった。
ララ達は俺とラインが繋がっているため、むしろウォーターエレメントに懐かれてしまうようだ。
結論から言うと、今はまだ、ウンディーネが強制的にウォーターエレメントを制御していないと、ラローズさんとラモットさんでは制御できずに、すぐに逃げられてしまうらしい。
このウンディーネが呼んだウォーターエレメントと仲良くなり、自分一人でも呼べるようになり、常に一緒に居られるようにする。
そうして、かなり仲良くなってから、契約を行うのだが………。
永遠の命を持つ精霊の唯一の死は、契約者が死んだとき。
厳密に言うと死ではなく、マナに帰るだけなのだが、失うものも大きいらしい。
精霊は契約しなければ、そのまま永遠に生き続けられる、だからリスクが大きい契約などするはずもない。
だがしかし、精霊が更なる上位の存在になるためには、契約を経て、契約者と一緒に経験値を得る必要がある。
だから精霊との契約とは、そのリスクとリターンの駆け引きに勝つこと。
もしくは恋愛感情のように、この人の為なら死んでもいい、と思わせることが出来たのなら、契約は成功する。
とにかく、最初は仲良くならなければ、交渉の場に立つことすら叶わない。
「いやぁ~もう、ウンディーネ様 さまさまです!! 危うく、何も知らずに呼び出したウォーターエレメントにすぐ契約持ちかける所でした! 確実に全滅でした! 全滅!」
アハ、アハハハハハ~
「ラローズ…… オヌシ…… アホじゃろアホ! 知識もなく正義を振りかざし、賭けに出るのは勇者ではなく蛮勇じゃ、それに巻き込まれる者が可哀そ過ぎじゃ!」
ラローズさんがシュンとしている………。
「ま~、オヌシのその努力は認めるがな」
「ラローズよ………」
「――はい?」
「どのような事が起こったとしても、決して黙って早まった事をするなよ? オヌシとも少しは縁を結んだ中じゃ、確率は低くとも最善を尽くすことを約束しよう」
「ヴ… ウンディーネざま~~~~~~ グス」
「え~い、鬱陶しい! 泣くな~! 引っ付くな~~~!」
泣きながらウンディーネにすがりつくラローズさんを、カワイイと思ったのは俺だけではないはずだ………。
さらに訓練を続けていた、ある日。
ウンディーネが皆を集める、今日はラス・カーズさんも一緒に呼ばれた。
精霊の訓練の時には、ラスさんは普通呼ばれない、『なんだろう?』と疑問に思い、みな集まった。
「みな揃ったな」
「「「ハイ!」」」
「これから話すことは、あくまで予想じゃ、外れても苦情は受け付けぬ」
「「「ハイ!」」」
「アルザス渓谷のデーモンスライムじゃがな、多分動き出すのは渓谷で戦いが有った日より、二年後じゃろう」
「――なっ!」 皆目を見張り、ラスさんが叫ぶ!
「ウンディーネ様! なにか根拠が有るのですか?」
ラスさんが食い入るように聞いてくる!
それはそうだろう、ラスさんは王国軍の総指揮者、今のウンディーネの情報が本当ならば、今後の戦略を立てるのに重要な情報だ。
「ラローズからカヴァ将軍の話を聞いたときから、少しずつマナを探り調べておったのじゃ。妾にはマナの動きで、アルザス渓谷のカヴァ将軍の状態が、粗方わかる」
「――なんと!」 ラスさんが目を見張り驚く。
ウンディーネから念話が来る。⦅そのうちオヌシにも出来るようになる⦆
「ラス・カーズよ! オヌシたちの大攻勢も、魔族軍にそれなりにダメージを与えていたと言う事じゃ、誇って良いぞ! 向こうも立て直しにそれなりの時間を必要としているようじゃ」
「貴重な助言をありがとうございます! 二年後を想定し、本国と連携し軍備の計画を立て直します!」
「外れても知らぬからな」
ラスさんは『ハイ!』と勢いよく返事をして、王都に連絡するべく、通信テントに駆けていった。
「それでじゃ、予定としては一年後までに、今妾が出している課題を皆達成させよ! そのあと戦いに備えて全員の戦力アップを行う」
みなが『――ハイ! やり遂げます!』と頷く。
「そしてこの戦力アップの時に、ラローズとラモットの契約の儀を行うか妾が判断する。 失敗すれば死ぬだけじゃ」
――ゴク!
全員が息をのむ………。
「ラローズとラモットはあと一年、悔いの無いように、思い残すことが無いように過ごすがよい」
「「ハイ!」」
ウンディーネの言葉を胸に、皆それぞれの思いで訓練に向かった。
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