第五章2-12 覚醒
ラトゥール視点になります。
薄れゆく意識の中―――
ディケム様が叫ぶ姿が見える………
あなたさえ無事で居てくれればそれで良い。
あなたの為ならばこの命も捧げます―――
「ラトゥール……… このバカ者が……… 何という無茶なことをする。 この賭けに負ければお前の魂はマナに帰り無に帰すのだぞ!!!」
聞き覚えのあるその声に、ラトゥールは目を開ける。
私はマナの大河の上に浮いている。
「ウンディーネ様………」
「お前はそこまでしてディケムと繋がりたいのか?」
「はい」
「どうしてじゃ、お前は十分強い」
「………………。 ですが…… いずれディケム様と繋がる者は私を追い越していくでしょう」
「必ずしも一番でなくても良いであろう? 役に立ちたい気持ちに順位など必要あるまい」
「私はディケム様の一番の協力者で居たい。 あの方が力を必要としている時に、自分が力になれない、自分では無い誰かに頼るようなことは耐えられないのです」
「…………。 だが……、死んでは元も子もない無いじゃろう?」
「ここで終わるようならば、私などそれまで。 中途半端な期待など害悪でしか無い。 ディケム様の力になれない自分など、早々に退場した方が良いのです」
「ラトゥール………。 お前の考えは偏ってはいるが、我が主を思う気持ちは本物じゃ。 お前の覚悟を認めてやろう! お前とディケムを繋いでやる」
「―――ッ!!! ウンディーネ様!!!」
「じゃが、妾が出来るのはそこまで! お前を貫いた傷は致命傷じゃ。 さぁラトゥールよ、妾以外の七柱の精霊誰でも良い、協力を仰ぎ、力を借り受け己の肉体を再生して見せよ!」
ラトゥールはウンディーネの言葉に頷き―――
一度目を閉じ、大きく息を吸って、目を見開く!
「雷と破壊の精霊バアルよ! 私に力をよこせ! 私はお前の主人の最強の盾と矛になって見せよう! この命の全てをかけてディケム様をお守りする事を誓う」
ラトゥールの叫びがマナの大河に響き渡ったあと―――
突如、マナの大河に何百もの稲妻が落ちる!!!
「つい先ほどまで殺し合ったワシを指名するとか……… 本当にお前は楽しい奴だのう」
「殺し合ったからこそ、お互いの力を信じあえるというものだろう?」
「我が主、ディケム様の最強の盾と矛、そのお前に繋がるのがこのバアル………。 それは楽しそうだのう! 良いだろう! ワシの力使いこなして見せよ!!!」
ラトゥールがバアルを指名したことを、ウンディーネは面白そうに眺めている。
そして―――
「ほぉ…… 迷いもせずバアルを指名するか。 まぁ良い、合格じゃラトゥール。 そしてその覚悟と我らの主への忠誠を認めてやる。 その証に今後妾もお前に力を貸してやろう。 バアルと妾二柱を使いこなして見せよ!」
ラトゥールの意識が、マナの大河から徐々に現実世界へ戻ってくる………
ラトゥールは今、自分の体を空から見ている。
そこには―――
シュガールの牙に貫かれたラトゥールを見て、ムートンとマルゴーは力なくその場に膝から崩れ落ちている。
「そ……… そんな。 ラトゥール姉さま?!」
「ラトゥール―――!!!」
ムートン………
マルゴー………
いつも減らず口を叩くマルゴーがこれ程うろたえるとは―――
『私は案外、みなに愛されているのだな………』
この状況を、もう少し見ていたい気もしたが、戦意を失ったこの二人が危ない。
魔神族五将の二人が居て、強敵シュガールを前に戦いを忘れるなど不甲斐ない。
だが、我を忘れて暴れていたシュガールも………
ラトゥールの中の元主人、バアルのマナを感じ取ったのか、動かなくなっている。
だがとにかく、早くこのシュガールをどうにかしなくては。
マナとなり漂っていたラトゥールは、自らの体に繋がるマナの線を辿り、自分に戻る。
マルゴーとムートンは愕然と致命傷を負っているラトゥールの体を凝視する………
その時――― ラトゥールの体に変化が起きる!
シュガールの牙に貫かれたラトゥールの体が青白く光り『バチッ』と稲妻を発する!
「ラ、ラトゥール姉様!!!」
バチッ! バチッバチッ――!!!
バリッ―! バリバリバリバリバリ――――――!!!
ラトゥールの体から発する稲妻がどんどん大きくなる!
そしてその稲妻は次第に膨大になっていく―――
雷属性のシュガールが、その膨大な電圧に耐えきれずラトゥールを離す。
マルゴーとムートンは只々目を見開き、呆然と立ち尽くす事しかできない。
二人とも何が起きているか理解できない………
だが、もしかしたら今起きているこの現象が―――
致命傷を負ってしまったラトゥールに奇跡を起こしてくれるのではないか?
二人はそんな淡い期待を心にいだき、ラトゥールを凝視している。
その時―――!
ドオッォォォォォ――――――ン!!!!
ラトゥールの体に巨大な落雷が落ちる!
「ラトゥール姉様――――――!!!!」
ムートンが叫ぶ!
マルゴー、ムートン二人の淡い期待が消し飛ぶ!
それはまともに食らえば、マルゴー、ムートン二人でも消し炭になる程の落雷!
それをまともに食らったラトゥールの体は消滅する―――
―――ッだが!
消滅すると思われた ラトゥールが、その強大な落雷の柱、青白く輝く稲妻の中で目を開く!
そしてゆっくり立ち上がる―――
立ち上がったラトゥールの体には、もうシュガールに刺し穿たれた傷は無い。
「あっ…… あぁぁぁぁ……… ラトゥール姉さま!!!!」
カタトゥンボの山脈に数百の落雷が落ちる。
その落雷が合図の様に…… ラトゥールが完全に覚醒する―――!!!
圧倒的な破壊の力!
その破壊の力を行使可能とする、膨大なマナの供給力!
ディケムと繋がり、バアルとウンディーネの二柱と繋がったラトゥールは―――
この二つの力を獲得し、まさに破壊の化身そのもの!!!
ラトゥールの覚醒により―――
理性を失い暴れまわっていたシュガールが、その圧倒的マナを感じ取り本能で逃げ出す。




