第五章2-11 ラトゥールの想い
ラトゥール視点になります。
少し時間が戻ります。
ラトゥールは視界の端にバアルを圧倒するディケムを見る。
「さすがです♪ ディケム様!!!」
ラトゥールは、ずっとこの場所を探していた。
そして、心躍る噂話を耳にしたのだ。
『魔神族領にある雷神山脈の奥に――
雷の精霊バアルとその守護竜、雷嵐竜シュガールが住むと言う………』
そしてそこは、魔神領で最もマナの多い場所!
そこはマナの大河に最も近い場所だとラトゥールは推測する!
『ここならば、私もディケム様の精霊に繋がれるかもしれない!』
『ここならば、私もディケム様とマナのラインで繋がれるかもしれない!』
ラトゥールの願いはディケムと繋がりたい。
ディケムの一番の盾と矛で有りたい―――
『ディケム様を守りたい、お役に立ちたい気持ちは、ララに絶対負けない!!!』
そしてここは、大いなるマナと繋がる霊峰!
後は理性の壁を壊す力と………
限界を打ち崩す、死線に最も近いキッカケだけ。
猛烈なスピードで『雷嵐竜シュガール』がラトゥールに向かってくるのが見える!
「シュガール! 私の死はお前か? それともお前が私を次の高みに連れて行ってくれるのか?」
ラトゥールと雷嵐竜シュガールの戦いが始まった!
シュガールは雷嵐竜の名にふさわしく、その速さは凄まじい!
そのスピードを生かし、雷を帯電させ青白く光る爪でラトゥールを引き裂いてくる。
だが! ラトゥールも伊達に魔神族五将を名乗っているわけではない。
速いだけの攻撃ならば、その今まで培った経験で、かわすことは容易い。
ラトゥールが距離を取れば―――
シュガールが二種類の雷撃を吐く!
拡散する雷撃は、広範囲に枝分かれして、全てを避けるのは難しい、だが致命的なダメージには至らない。
そしてもう一種類の雷撃は、一直線に高密度の雷撃が吐き出される。
予測する事は容易だが、その速度が凄まじい!!!
一瞬、線のようなものがひかれたと思った後に、凄まじい威力の稲妻が駆け抜ける。
シュガールは爪・牙の接近戦、ラトゥールが距離を置けば、二種類の雷撃を放つ。
ラトゥールが背後に回れば、常に形を変える稲妻で形成された翼が、槍の様にラトゥールを貫こうと形を変える。
まさに破壊の精霊の守護竜―――
シュガールの全身全てが武器の様に出来ている。
いく度の攻撃をかわすことが出来たが……
徐々にラトゥールが追い詰められている事は否めない。
だがシュガールも、中々捉えきれないラトゥールに苛立ちを覚える。
そして……… シュガールが突如二体に別れる。
「ばっ! 残像分身か………? いや――― 実体がある!!!」
シュガールは雷嵐竜、雷から生まれ出た竜だ。
実体があるが、【化成体】に近い。
【化成体】とは、超自然エネルギや霊的エネルギから派生して形作られたモノ。
シュガール程の膨大なマナを内包量する竜を二体出現させるには、途方もないマナが必要だが……
この雷豊富な霊峰カタトゥンボがそれを可能にする。
それまでシュガールの攻撃をかわしていたラトゥールだが……
決して余裕があった訳では無い。
そのシュガールが残像では無く、実体分身されては、勝てる見込みなど有るはずもない。
「やはり今の私ではシュガールには勝てぬか…… だがそれで良い!!!」
実質の敗北宣言だが、ラトゥールには焦燥感は無い!
限界を超えたその先の死線との狭間、そこにラトゥールの考える勝機がある!
だが………
思惑通り進むラトゥールの計画にほころびが生じる―――
「お姉さま!」
「ッ――――――なッ!!!」
思いもよらぬ声が、聞こえてくる………
「ばッ!!! ムートン! なぜ? どうやって此処に!?」
「盾役の私とムートンが組めば、辿り着けぬ場所などない!」
「マ、マルゴー!!!」
「クソ…… マルゴー!!! 貴様、なぜムートンを連れて来た―――!!!」
「お姉様!!! お姉さまを失うわけには行きません!!」
「そうだラトゥール! 俺達三人ならば、たとえ雷嵐竜シュガールとて―――」
「違うのだマルゴー!!! 勝つことが目的では無いのだ………」
「………………っな!」
(くっ……… 確かに我ら三人ならばシュガールを討てよう―――
だが! 違うのだ! 私の目的は勝つことではないのだ!)
『勝つことが目的ではない………』
その言葉を聞き、ムートンとマルゴーは混乱する。
だが、混乱するマルゴー達をおとなしく見ているシュガールではない!!
稲妻と化したシュガールが二体、マルゴーとムートンを襲う!
一対一に持ち込まれては、我々に勝ち目はない。
ラトゥールはすぐにマルゴー、ムートンと合流して、パーティー陣形を整える。
ラトゥールの目的はシュガールに勝つ事ではないが―――
ムートンを殺されても良いという選択肢はない。
三人パーティー。
タンク役のマルゴーがシュガールの攻撃を一手に引き付ける。
それだけで一気に戦線は安定する。
パーティーで役割分担を決め、チームで動けば―――
それは三人をただ足し算しただけの力ではない。
掛算になり、それ以上の力を生み出すことが出来る。
そしてそれが魔神族五将の三人となれば、その力は計り知れない。
そして―――
誰であろうと攻撃の後に隙が生じる!
例えそれが雷嵐竜であったとしても!!!
シュガールの攻撃をマルゴーが全力で防ぎ、攻撃後に出来た隙をラトゥールとムートンが攻撃する。
そのダメージはシュガールにとって微々たるものだが、それを繰り返せばいつかは倒せる。
それはパーティー戦の必勝のパターン。
このパターンに持ち込めれば、どんな強敵にも勝つことは出来る。
ラトゥール、ムートン、マルゴーが勝ちを確信したとき―――
ムートンに『ほんの小さな慢心』が生まれる。
普通ならばその『ほんの小さな慢心』は、隙とはならない程の些細な事。
だがその時―――
シュガールの動きが急に変わる!!!
タイミング悪く、バアルがディケムへの従属を受け入れて、
シュガールの守護竜としての役目が終わったのだ!
突如制御を解かれたシュガールはパニックに陥る、理性を失ったシュガールは野生そのもの。
それまで統制の取れた攻撃をしていたシュガールが、突如暴れるような無秩序な動きに変わる。
実体分身だったシュガールが一つに戻り暴れ狂う。
その暴れるような予測不能な動きがムートンの慢心の虚を突く―――!
シュガールの爪がムートンを切り裂く瞬間、ラトゥールがムートンを突き飛ばす!
そのムートンを狙った爪を紙一重でラトゥールも交わす!!!
しかしまたもや突如シュガールの動きが無秩序に変わる!
ラトゥールの視界の端に、ディケムが固有結界を解除するのが見える。
ディケムの固有結界が解かれる刹那、シュガールはその中から懐かしい元主人のマナと、畏怖を感じさせる膨大なマナを感じ取る。
シュガールは混乱と恐怖でパニックになり――― 本能的にディケムに襲い掛かる!
「ディケム様――――――!」
ラトゥールは瞬時に動き、ディケムとシュガールの間に滑り込む!
そして―――
ディケムを庇うようにシュガールの牙に貫かれる………




