第五章2-10 ケラウノス(雷霆)
転移魔法陣から現れたディケムを見て、バアルは畏怖する。
「ば…… 馬鹿な! お前は何だ!? ワシがお前の力の底を測れない!」
「俺は人族のディケム・ソーテルヌと言う。 お前を従属させるためにここに来た」
「ありえぬ! か弱き人族ごときが、強者の魔神族を使い走りにしただと?」
「人聞きの悪い事を言うな! 俺はラトゥールを使い走りになどするわけ無かろう!」
数度会話を交わしただけで―――
バアルの畏怖が恐怖へと変わる!!!
「あぁ…… あぁぁぁぁ………」
「ありえん、そんな事は有りえない!!!」
「お、お前は――― どうやって七柱もの精霊を?!」
「そ、それに…… マナがもつ訳が………」
恐怖のあまりバアルの思考は混乱する―――
だが…… 混乱の中バアルの思考が一つの答えを導き出す。
「ま、まさかお前……… マナの大河と―――」
「そうじゃ! 久しいのうバアル」
「ウ……… ウンディーネ! お前がいると言うことは!!!」
「そういう事じゃ。 さぁバアルよ! 素直に敗北を受け入れろ!」
「い、嫌じゃ! ワシは自由でいたい!!」
「フン、妾はお前のいかにも正々堂々と戦っているようで―― その実、圧倒的有利な立場でしか戦わぬ臆病者のお前を、いつか痛い目に合わせてやりたいと思っておったのじゃ!」
なぜかウンディーネが上から目線でバアルに言い放つ!
「すでにラトゥールに言質を取られているお前は、ディケムに敗北すれば、精霊の責務としてもう従属からは逃げられヌ」
「あぁ…… あぁぁぁぁ……… い、嫌じゃ―――!!!」
「あっ………」
バアルは、既にディケムによって張られた結界により、逃げる事すら出来ない事を知る。
「お前との闘い方はラトゥールが見せてくれた。 ここはすでに結界で隔離させてもらった。 しかし俺はラトゥールほど優しくない。 いくらシュガールでもそう容易くこの結界は破れない」
「くっ……… だ、だがワシの切り札はシュガールだけではない! ならば本当の奥の手を出すしか無いのう―――! これを敗れたのならば敗北を認めてやろう!」
バアルが最大級の奥義の耐性に入る―――!!!
「さぁ――! 神をも滅するゼウスのイカヅチを食らえ―――!!!」
「λάμψη(閃光)・αστραπή(稲妻)・βροντή(雷鳴)―――………」
⋘―――― Καταιγίδα(雷霆) ――――⋙
その瞬間世界が反転する―――!
ディケムの『固有結界』が発動し、地中から二〇メール程もあるオリハルコンの柱が無尽蔵に生えてくる!
そしてその柱に、『ケラウノス(雷霆)』が降り注ぐ!
ズドォォォォンッ!! バリバリバリバリ――――――!!!!
ズッ——ガガガガガガッ———!! ズドドドドドォン!!!
ケラウノスの雷撃、その凄まじい超超破壊威力がオリハルコンの柱に吸い寄せられる!
もし柱がただのオリハルコンの柱ならば、このケラウノスの超超破壊力で砕け散っていただろう。
しかしディケムが作ったオリハルコンの柱は、
七つの属性を持ち、形状は先が尖り、地面より突き出している。
無尽蔵に生えてくる柱は…… ただの柱ではない、避雷針の形状をしている!
オリハルコン製の避雷針は『ケラウノス(雷霆)』の威力を、受け止めるのではなく受け流し、そのまま地中へ分散させる!
「ばっ! そ、そんなっ………! 固有結界だと!!!」
そしてさらに世界が反転する。
ディケムとバアルはマナの大河の上を飛んでいる。
エネルギーとはマナ、精霊もマナの一部。
言わばここは―― マナの大河は精霊が生まれた母のような場所。
『ケラウノス(雷霆)』を破られたバアルは、苦し紛れに闇雲に雷撃をはなつ!
だがバアルの雷撃は全てマナの大河に飲まれていく。
そして最後はバアルの雷撃すら発動しなくなる………
「さあバアル。 ここは固有結界の夢の世界だ。 だが戦って解ったようにお前の力は俺には及ばない。 お前なら理解しているだろう? この夢の世界でもしお前が滅せられれば………、現実は上書きされ定着する。 お前は現実でも消滅したことになる」
「………………」
バアルは膝をつき呆然としている。
「力試しは終わった。 お前が決めたルール通り、俺に従属しろ」
「これ程までなのか……… ならば致し方ナシ。 お前の力を認めよう! これからはお前を主人として仕える事を約束しよう―――」
ディケムは頷き、契約魔術の演唱を行う
“バアルに告げる!
我に従え! 汝の身は我の下に、汝の魂は我が魂に!
マナのよるべに従い、我の意、我の理に従うのならこの誓い、汝が魂に預けよう———!”
⋘――――συμβόλαιο(契約)――――⋙
ディケムの契約呪文にバアルがYesとこたえる。
雷と破壊の上位精霊バアルとディケムのマナが繋がり、契約は成立した―――
ディケムとバアルとの契約が成立したとき………
バアルとシュガールとの守護竜としての契約が『世界の理』により破棄される。
その瞬間シュガールは解放されて野生に戻る!
バアルと契約を終えたディケムが固有結界から出て見たものは―――
シュガールの牙に貫かれたラトゥールだった………
「ラ、ラトゥール――――――!!!」




