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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章二節 それぞれのイマージュ  ラトゥールの想い
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第五章2-7 霊峰カタトゥンボ

ラトゥール視点になります。


 五将の屋敷を訪れた翌日。


 午前中、私は副官のエリゼに付き合い、魔神族とエルフ族の交流として、魔神族騎士団の演習を視察した。



 久しぶりに訪れた演習場では、若い魔神たちが訓練をしているが、指導員たちは私の昔から知る古株たちだ。

 懐かしい顔ぶれと談義を交わし、若者達に乞われ、指導したりしながら過ごした。



 午後はエリゼと別行動し、各省庁へ赴き挨拶廻りをする。



 そして夕方からは―― 私は城を出て街へ向かう。

 街にも挨拶をしたい、知った顔が沢山いる。


 ミストラル王都の中央通りを歩けば……

 至る所から声がかかる。



「おっ! 帰ってきたのかラトゥール!」

「今日はこの野菜が美味しいから持っていきな!」

「今、焼き立てだからちょうど美味しいよ!」



 少し道を歩いただけで、両手はお土産でいっぱいになる。



 ラトゥールは、この町が好きだった。

 だが、それもラフィット様に教えてもらった事。


 上級貴族に生まれ、強くなることに飢えていた時……

 全ての魔神を蔑視し見下していた。


 しかし、ラフィットに負けて、ラフィットの後ろを付いて回るうち。

 人々の営み、強さ、素晴らしさを知った。


 そして、私の目指す強さに『この人々の営みを守る』という目的が出来た。

 『守る』という目的が出来た時…… ラトゥールは以前よりもずっと強くなっていた。





 町の中央広場にある、馴染みで行きつけの、露天の大衆酒場を訪れる。


 上級貴族のラトゥールには、品が無く、下賤な酒場だが……

 ラフィットが好きで、よく通っているうちに、ラトゥールも好きになってしまった。


 酒場で話し込んでいると……

 子供たちがラトゥールに駆け寄ってくる。

 通りで貰った両手いっぱいのお菓子や食べ物を、子供たちに分け与えていると……


 ラトゥールを見つけて、町の見知った顔が続々露店の酒場に次々集まってくる。

 そして気づけば、いつの間にかラトゥールの周りに大勢集まり――

 大宴会が始まっていた。



 久しぶりに故郷に戻ってきたラトゥールの為に皆集まったのだ。

 ラトゥールも宴会を止めさせるような野暮な事はしない。

 そして貴族も平民もない、ここでは身分の違いなど言わない。

 全ての皆が平等の無礼講だ。



 その日ラトゥールは、夜遅くまで顔見知りの町人たちと久しぶりに飲み明かし、語り合った。





 翌日の早朝。


 ラトゥールは少し二日酔い気味の頭を、無理矢理冷水で目覚めさせ、エリゼに見送られて宿を出る。



 宿の外には、これから向かう地の案内人が待っている。



「ラトゥール様。 雷神山脈の麓までは我々がご案内いたします。 そして雷神山脈の麓からは先住民のオロガ族の者に案内を頼んでいます」


「あぁ」


「ですが…… 彼らオロガ族にも『霊峰カタトゥンボ』は神の住まう場所。 雷神山脈の案内は、途中までしか出来ないでしょう」


「もちろんだ。 『霊峰カタトゥンボ』は絶えず稲妻が降り注ぐ地獄の地。 はなから案内など期待しておらぬ」



「はい……… では参りましょう」





 雷神山脈は帝都ミストラルから南の地――

 ひたすら馬を乗り継ぎ四日ほどかかる場所にある。


 もちろんラトゥールは、ディケムを待たせている手前、馬車で移動など悠長なことはしない。



 いくつもの町と村を通り抜け、強行軍で駆け抜ける。



 エルフ戦役の折に、ディケムの援軍に駆け付けた時ほどではないが―――

 常人ではとても耐えられない強行軍だ。

 しかしラトゥールはこの程度の強行軍などびくともしない。


 ディケムを待たせているから…… という理由もあるだろうが、

 この程度で疲れるようでは五将など勤まるはずもない。


 魔神族五将とは、名ばかりの呼称ではない。

 実力で勝ち取った者にしか名乗れない特別な称号なのだ。




 四日間の馬での強行軍の末、予定通り雷神山脈の麓までたどり着き――

 案内役を先住民オロガ族に変え、ここからは徒歩での登山になる。


 魔神族ですら近寄らない雷神山脈。

 その登山道も険しいものだった。


 そして山脈を登るごとに近づいてくる、絶え間なく聞こえる雷鳴の音。




 雷神山脈に入り三日ほどすると、山脈はぶ厚い雲に覆われ、視界が極端に悪くなる。

 そして――― 山脈のキレッド(鋭く切れ込んだ難所)に差し掛かったところで、オロガ族の案内人が、『ここまでです!』と伝えてくる。



 このキレッドを超えた先は、厚い雲がさらにぶ厚くなり、まるで積乱雲が停滞しているようだ。

 その厚い雲の中は、帯電し、絶えず稲妻が走り、猛烈な風雨も吹き荒れているのが容易に想像できる。




 オロガ族の案内人と分かれ、ラトゥールは単独で先に進む。


 厚い雲の中は、常に雲が帯電しており、ラトゥールの体力を継続的に奪う。

 そして予想通りの暴風雨だ。

 その風雨の強さに歩みも遅くなり、絶えず落雷が竜の様にラトゥールの周りで荒れ狂う。


 そして…… ゆっくりと歩みを進めるラトゥールの足元には、大小さまざまな膨大な数の何かの骨が転がっている。



「これは…… 生きとし生けるもの終末の場所だな」



 オロガ族の案内人から聞いた話では―――

 この地域の生物は死期を悟ると、何故かここに集まり死を迎えるのだと云う……


 魔神族よりも知力が高いドラゴンから、知力の低い小動物まで、

 全ての生きとし生けるモノがみな決められた法則の様に、ここに集まり死を迎える。


 その人知を超える現象から、先住民のオロガ族はこの地を、神の元へ続く場所だと神聖視している。




 この『霊峰カタトゥンボ』は生きとし生けるもの『終末の場所』。

 この場所に足を踏み入れて戻ってきた者は居ない。




 だが…… 時折、近くの山脈からこの積乱雲の中に、巨大な竜の影と、それを従える精霊の影が見えるのだという。


 そして、住民オロガ族の伝承を記した石碑にも、

 厚い雲の中に『雷嵐竜シュガール』に守られる『バアル』の姿が描かれている。



 その僅かな情報を頼りに、ラトゥールはこの危険な場所に挑む。

 もし、いつもの冷静なラトゥールだったら………

 このような不確かな情報で、これ程のリスクは侵さなかっただろう。



 魔神族五将のラトゥールでさえ、焦りは判断力を鈍らせる。


 いや、恋という………、

 ラトゥールにも不慣れな事が、これ程までに彼女の判断力を狂わせたのかもしれない。



 それほど……  いまのラトゥールには余裕が無かった。



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