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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章二節 それぞれのイマージュ  ラトゥールの想い
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第五章2-6 叔父と姪

ラトゥール視点になります。


 魔神族五将ムートンの屋敷を後にし、次の訪問先へ向かう。



 次の屋敷を訪れ、使用人に案内されこの屋敷の主が待つ執務室に通される。


「お待ちしておりました、ラトゥール」




 次の訪問先は五将の一人『マルゴー』の屋敷だ。


 マルゴーは五将筆頭だった『ラフィット』亡き後、筆頭次席として五将のまとめ役を担っている。


 ラフィットが亡くなってから十四年以上もたっているのに、今だ五将の欠員枠を任命せず、マルゴーも筆頭に就任せず次席のまま……

 これは(ひとえ)に、ラフィット亡きあと、皇帝カステルが一切の活動を休止したためである。

 皇帝も活動休止している今、魔神族を実質的に運営しているのは、このマルゴーになる。





「こうして二人きりで会うのは久しいな、マルゴー」


「あぁ、ラフィット様の元で共に修行に励んでいた時以来か?」


「あぁ、そうかもしれないな」



「修行時代から剃りが合わなかった貴女と私、そんな私の屋敷にあなたがわざわざ来るなんて………」


「フン。 相変わらず細かい奴だな…… そんな事はどうでも良いだろう?」


「………………」


「例の件を聞く前に…… マルゴー。 ムートンとはどうなのだ?」


「どうとは?」


「『どうとは?』 ではないだろう? お前はムートンを愛おしく思っているのだろ?」


「なっ!」


「今更隠す必要もないだろう。 ムートンは私の妹のような者。 お前ならば認めてやってもいい」


「認めるも何も――― 謁見の間での彼女の私への対応を見たであろう?」


「私には子供が好きな奴にわざと嫌いと言っているようにしか聞こえなかったがな」


「なっ!」


「まあいい。 自分のことは自分でなんとかしろ。 一つだけアドバイスするとすれば……… 回りくどいことはせず、気持ちはストレートに伝えた方が良いぞ!」


「………………」


「まぁストレートに伝えても私はいまだに娶ってもらえていないがな」


「ダメではないか!!!」


「ハハ! マルゴー、相変わらず真面目なやつで安心したぞ。 もし私が居なくなったらムートンを頼むぞ」


「………………」


「ムートンは―― ラフィット様の唯一の血族。 その血は決して絶やしてはならん」




「ラトゥール……… 本当にあの『雷嵐竜シュガール』とやるつもりなのか? 一人でやれば必ず死ぬぞ!」


「あぁ…… わかっている。 だが、私はディケム様の為ならば何でも出来る」



「ラトゥール…… 本当にあなたはラフィット様の為ならば、命すら投げ出す事が出来るのですね………」


「当り前だ。 私はもう残されるのは嫌なのだ」




「…………。 私は、この高潔たる魔神族領を飛び出し――  下賤な人族領などに躊躇なく向かったあなたを、蔑んでさえいました」


「相変わらず歯にもの着せぬ言い方だな」


「ですが―― ラフィット様の下に直ぐに駆け付けたあなたを……… 何も考えないでラフィット様のところに行ける貴女を羨ましく思う事もある」



「マルゴー………。 お前は少し難しく考えすぎるのだ。 自分がどう動くか、どうしたらいのかは自分の心に聞けばわかる事だ。 体裁や常識ばかりに縛られ過ぎると…… お前の心が死んでしまうぞ!」


「………………」



「フン! しかしな。 お前がいてくれるからこそ、私は何も考えず何処にでも行けるのだ!」


「その言葉を誉め言葉として、覚えておきましょう」





「それでラトゥール。 本題の―― 『雷と破壊の上位精霊バアル』とその守護竜『雷嵐竜シュガール』の情報は集めておきました」


 マルゴーが調査資料の束を、ラトゥールに渡す。


「それと―― 確かにあなたが言うように、この場所『霊峰カタトゥンボ』はマナの通り道。 場所柄イグドラシルはありませんでしたが……… この『霊峰カタトゥンボ』がその役割を果たしているのでしょう。  マグマ、マントルはこの星の血流と同義、マナの流れに等しい物ですから」



「マルゴー流石だな。 知りたかった情報が細かく書かれている。 恩に着るぞ」


「別にあなたの為に調べたのではありません。 私もラフィット様のお力になりたかっただけですから」


「フフ。 しかとディケム様へお前の事も伝えておこう」





 マルゴーの屋敷を後にして、本日の最後の目的地、五将のオーブリオンの屋敷に向かう。



「ラトゥール。  私的に会うのは久しいな」


「はい、叔父上」


「ラトゥール…… 本当に俺の屋敷にまで来るとはな。  なぜ今生の別れの様に皆に会いに行く?」


「叔父上の情報網ならば、ディケム様と私が『雷と破壊の精霊バアル』とその守護竜『雷嵐竜シュガール』に挑むのはご存じでしょう?」


「………………」


「共を連れて行けば確実に死ぬでしょう。 しかしディケム様と私二人ならば…… 事を遂行する事も可能でしょう」



「ラフィットは大丈夫だろう。 しかしあのラフィットでも『バアル』と『シュガール』二体同時に相手をすることは出来ぬだろう。 必然に死ぬのはお前だぞ」


「ラフィット様が力を手に入れられればそれで良い。 そこで死ぬようならば私もそれまでと言う事です」



「……ラトゥール。 俺は死んだお前の父と母に、姪を必ず守ると約束した。 その役目俺に回せ!  そのような死を覚悟した役目は、老いぼれの役目と決まっている」


「…………。 ダメなのです叔父上! この役目は誰にも譲れない! 譲ってしまえば私の存在意義がなくなってしまう。 私はこの先もずっと、名実共にディケム様の隣に居続けたいのです!」



「…………。 ラトゥール。 その一途で頑なな所、お前の母親にそっくりだな。 ラフィットの奴なんかに惚れなければ…… 良い嫁さんになれたのに」


「叔父上。 ラフィット様に惚れたから…… 今の私が有るのです」



「そうか…… もう何を言ってもお前は止まらないのだろう。 ならば…… 最後の最後まで『生』にしがみつけ! 生きる事を諦めるな! どんなみじめな事になっても、生きる事を選べよ!」


「はい! 叔父上の言葉、肝に銘じておきます!」





 私は深々と叔父のオーブリオンに頭を下げて、屋敷を後にする。




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