第五章2-5 ラフィットの妹
ラトゥール視点になります。
カステル皇帝陛下、以下五将への報告が終わったあと………
エリゼには宿屋へ行くように伝え、私は私用の挨拶周りに向かう。
そして懐かしい、ラフィット様が生前お住まいになっていた屋敷を訪ねる。
屋敷の使用人に案内され、現在のこの屋敷の主が待つ部屋に通される。
「ラトゥール姉さま! 先ほどはお疲れさまでした。 この屋敷ではお姉さまの自宅だと思いお寛ぎください」
現在のこの屋敷の主、魔神族五将の一人ムートン。
私が知る限りではラフィット様の唯一の血族だ。
「ムートン…… 何度も言っているが、私はまだラフィット様に娶っていただけていない。 『お姉さま』という呼び名はやめてほしい」
「…………。 いいではございませんか。 お兄様の妻となられるお方は、ラトゥール姉さましか考えられません!」
⦅………………⦆
「だが…… 人族に転生されたディケム様の隣には、私以外にも人族の娘がいる。 不甲斐ないが、現実はその娘に後れを取っているのが、今の私の現状だ……」
「なっ! 人族の娘ですって! お兄様! 何を考えて―――」
「―――ムートン! 今のラフィット様はディケム様という人族だ。 そして現実、私がディケム様を見つけられ無かった十数年間は、ディケム様の隣に居たのはその娘なのだ……… 致し方ない事だ」
「ラトゥール姉さま………」
「そして…… 悔しいが、いま最もディケム様の力になれるのは、マナで繋がるその娘、ララだろう」
「そんな………」
「勘違いするなよムートン。 だからと言ってこの私がディケム様を諦めると思うか?」
私が『ニヤリ』と笑うと、ムートンも笑う。
「此度の帰郷は、この圧倒的不利な状況を打開する為に来たのだ。 任せておけ」
「それでこそラトゥール姉様です」
その後はムートンとお茶をしながら、この一年間の、魔神族領での出来事を聞いた。
「あっ! ラトゥール姉様。 お兄様を罠にはめた裏切者、『ペデスクロー』が人族の『モンラッシェ共和国』で怪しい動きをしています」
「ペデスクローが人族領で?」
「はい…… しかもモンラッシュ共和国では、『悪魔』の動きも活発だと聞いています。 俄かに信じがたいですが…… 魔王級悪魔が数体確認されているとか……」
「モンラッシュ共和国か…… シャンポール王国とは非同盟国だが、この頃ディケム様の通われている学校に大統領の娘が居たな。 厄介ごとにならなければいいが、ディケム様は関わってしまわれるのだろうな………」
ムートンが首を傾げ、不思議な顔で私を見る。
「ムートン。 信じられないかもしれないが……… 『ラフィット様』は『ディケム様』となられて、とてもお優しくなられた。 エルフ族との同盟が良い証拠だ。 ラフィット様ならば…… 滅ぼしていたように思う」
『………………』 ムートンは黙って聞いている。
「だがムートン。 今のディケム様の強さはそのやさしさに有るようにも思える。 個として弱者の人族の最大の武器は『繋がり』だ。 蟻の群れが巨像を倒すように、個として最弱でも数が集まればそれは武器になる。 それは人族の歴史を見れば良く解る。 そして繋がることに特化した上位精霊ウンディーネ様」
「水の上位精霊ウンディーネ…… 水とは流れ、絶え間なく繋がる事……… ラトゥール姉様…… まさか?」
「あぁ、ディケム様はもしかしたら―― 今の力、ウンディーネ様やマナ、イグドラシル…… これらの力を手に入れるためにワザと転生されたのかもしれぬな! ウンディーネ様が契約するとすればそれは、『繋がりを力とする』人族以外にあり得ない」
「あぁ! お兄様はやはり素晴らしい!」
「あぁ、あの方のお考えは私達にはとても及ばない」
「ですがラトゥール姉さま…… なぜお兄様はそのような事をなさるのですか? 強さだけならば、魔神族のままでも十分他種族を制圧できたでしょうに?」
「ムートン…… お前も他種族を全滅させた後の不毛な世界など望まぬだろう?」
「もちろんです。 弱者が居なければ、玩具が無くなってしまいますもの」
「………………。 まぁいい。 カステル皇帝やラフィット様の願いも、全種族共存だった。 だが…… それは神が許さない!」
「………では?!」
「イグドラシルの件も考えれば…… 標的は『神』だろうな」
「――――――!♪ ああぁぁぁ~! お兄様はなんて楽しい事を!」
「ムートン。 お前は少し性格に難は有るが…… 信頼に値する者だと私は信じている」
「ありがとうございます。 お姉さま」
「私の目的は、ラフィット様、ディケム様のお役に立つ事」
「私も同じです」
「ならば今日話したことは他言無用だ。 だが、ディケム様がそれを目指しているのならば、我々もその準備をしておかなければならない」
「はい。 心に刻んでおきます」
「ムートン。 もし…… 私がディケム様のお力になれなくなったときは…… ムートン、お前がディケム様のお力になってほしい」
「………………。 ラトゥール姉さま??」
「いや…… 何でもない。 まずは必ずやディケム様のお力になる上位精霊『雷と破壊のバアル』を手に入れる!」
「ラトゥール姉さま……… 『バアル』戦はとても危険なのでは?」
「『バアル』だけならばディケム様が勝てない相手ではない。 だが『バアル』は『雷嵐竜シュガール』に守護されている。 この二つ同時相手は……さすがのディケム様にも厳しい」
「では私も同行させて頂けませんか?」
「ダメだ! お前はラフィット様が残したただ一人の血族。 失う訳にはいかぬ」
「失うって…… ならラトゥール姉さまは?」
「この私が勝算の無い戦いに赴くと思うか? 任せておけムートン」
「………………。 お姉さま………」
私は、ムートンの屋敷を後にして、次の訪問先に向かう。




