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第一章17 ラローズの想い

ラローズの目線になります


 私はラローズ・グリュオ。

 グリュオ伯爵家の長女であり、俗にいう上級貴族令嬢だ。


 婚約者は、王国騎士団第一部隊隊長 英雄ラス・カーズ将軍。

 王国騎士団第一部隊は王の懐刀、盾、王国最後の砦など様々な呼称がある。

 英雄ラス・カーズ将軍率いる第一部隊は、王国騎士団一の誉れと言われている。


 今、私たちはシャンポール王国の王国騎士団のトップの地位にいるけど、昔はラス・カーズと冒険者として、または勇者パーティーとして活躍してきた経験がある。



 その頃の私は勝ち気で、グリュオ伯爵家令嬢という肩書を異常に嫌っていたわ。

 私はラローズという一人の人間。グリュオ伯爵家の長女などという父のお飾りじゃない!


 私は家を飛び出し、そのころ少し有名になっていたラス・カーズのパーティーを町で見つけ、無理やり押しかけ女房的にメンバーに入れてもらった。


 普通なら、冒険パーティーにそんな事では入れてもらえないけど、ラス・カーズが私に一目ぼれしてしまったの。

 ドーサック達他のパーティーメンバーも、今まで浮いた話のなかった堅物のラス・カーズの初恋だと、皆暖かく応援してくれた。


 そんなご令嬢のお遊び入隊的にパーティーに入った私は、その持ち前の勝ち気な性格で見る見る成長していった。

 もともとあまり知られていなかった精霊使いの能力(スキル)持ちって事も有ったのだろうが、性格と才能が噛み合い、ラス・カーズのパーティーに無くてはならない魔法使いとして成長した。



 私が加入後のラス・カーズのパーティーは、快進撃を続けた。

 幾つものA級、S級の冒険クエストもこなし、英雄ラス・カーズの冒険譚なる本まで何冊も出版され、冒険者としては最上位の称号、勇者の称号もシャンポール王より与えられた。


 冒険者としてこれ以上ない成功を収めていた私達に、ある日晴天の霹靂(へきれき)が訪れる。


 それはラス・カーズが王の懇願を受け、王国騎士団の部隊長に就任するというもの。

 勝手に決められたのもあり、最初は皆文句を言っていたけど、人族の現状を知らされた時、皆納得したわ。

 私たちは何も知らなかったわ。 私たち人族が滅亡寸前にまで他種族に追いこまれている事など。

 私たちの英雄譚など、滅亡寸前の小さな種族の些細な出来事だったのだと………。


 ――いや、冒険者として国中を飛び回っていた私たちが、人族の現状を知らないはずがない。

 その覆せない現状を薄々気が付きながらも、知らないふりをして蓋をしていたの。


 結局、私たちパーティーメンバーも、ラス・カーズと一緒に王国騎士団に入ることになった。

 あの頼りないラス・カーズだけじゃ、心配だからね......。


 ……そして私たちは、世界の広さ、努力だけでは覆すことが出来ない圧倒的な力、自分たちの無力さに打ちのめされる事になる―――。





 【その昔、この何の慈悲もない世界、神はすべての種族に、生き残りをかけた戦いを強いた。神は全ての種族に対して平等であり、神が一つの種族を選ぶことは出来ない。 『どの種族がこの地を治めるか、自分たちで決めろ』と。 神にとってはゲームのような物であろうが、そのデスゲームの盤上のコマは、弱い物から淘汰されていく。 それが自然の摂理だ】



 人族は、最も弱き種族だったのだろう。

 強き種族はその強さゆえに、考えることをせず、努力を怠り、慢心した。

 人族はその弱さゆえに、知恵を絞り、努力し、皆で協力し数をそろえ、繁栄していった。

 一時は、この地の覇者に一番近い種族とされていた。


 しかし、覇者に近づくと人族は慢心し、自分たちは強い種族だと勘違いした。

 個の利権を優先し、内部分裂し、国を六つに分け、自滅していったのだ……。

 強固な『数の絆』を武器に繁栄してきた人族は、個に分裂してしまえばその強みは無くなる。


 最も弱き種族になり果てた人族は、今まで人族に迫害されてきた種族に蹂躙された。

 自業自得という事だろう。

 それでも人族は変われなかった。

 一度頂点を知ってしまったものは、自分の弱さを受け入れることは難しい。

 この滅亡目前の瀬戸際でさえ、人族は分裂した六ヵ国で個の利権を主張し執着し争い合っていた。


 それに異を唱えたのが、シャンポール王国の王だった。

 シャンポール王は、人族の存亡をかけ、四カ国との同盟を成し遂げた。

 そして四カ国合同の同盟軍を編成し、その旗頭に人族の英雄と名高いラス・カーズを迎えた。


 シャンポール王は、残りの二カ国に協力要請を続けつつ、他種族に対し反転攻勢に打って出た。

 英雄ラス・カーズを旗に掲げた人族同盟軍は士気が高く、強固な団結を武器にとても強かったわ。

 連戦連勝、破竹の勢いで人族は勝ち進め領土を回復していった!


だけど...

 そこで【アルザスの悲劇】が起こる!


 アルザス地方の渓谷で、人族の連合軍は魔族軍のカヴァ将軍のたった一部隊に大敗退を期したの。


 まさにあれは、悪夢だった………。

 私たちは一切油断も慢心もしていなかったわ。

 最善の布陣、計略、最強の軍、圧倒的な兵士の数、すべて万全で戦いに挑み、たった一部隊に真正面から粉砕された。


 それでも同盟軍の総指揮ラス・カーズの指揮の下、士気は高く全軍まとまり、敗色が濃厚になっても人々は落ち着き、諦めず、起死回生のチャンスを狙った。

 それでも勝てなかった…… ラス・カーズは、私達は完膚無きまでに叩きのめされたわ。


 【魔族カヴァ将軍】それは人族の天敵だった————。



 私はあの時の彼、ラス・カーズの血の涙と、大切な仲間達を死なせてしまったことへの悲しみの呻き声を忘れない。

 このままでは彼は壊れてしまう……… 彼は心が優しすぎるから………。

 彼は私が必ず守る! そう決意したの。



 カヴァ将軍の軍は、アルザス渓谷から動かなかった。

 今の人族では奴には勝てない。これで全滅だと覚悟を決めていたけど...

 長い時を生きる魔族であるカヴァ将軍には、人族などどうでもよかったのだろう。

 圧倒的有利にいるがゆえに、蟻に等しい人族など、殺すのも面倒だったのかもしれない。

 そして、魔族軍も一枚岩ではないのだろう。

 だけどそのおかげで、人族はまだ滅亡せずにすんでいる。



 私は、彼、ラス・カーズを守るため、デーモンスライムの弱点を探した。

 古い文献をあさり、魔物研究者を訪ね歩いた。

 そして、王国書庫の古い文献にデーモンスライムの弱点を見つけたの。


 『精霊魔法、精霊の属性を付与したマナの籠った攻撃、精霊顕現(けんげん)体の攻撃』


 だけど、それは絶望でもあった。

 私は、今の人族で最高位の精霊魔法使いだと自負している。

 今の人族の精霊魔法は、精霊をよび、精霊から力を借りて威力を上げた魔法を使うだけ。

 現にあの戦いで私は何度か、精霊に力を借りて魔法を放っている………

 ――だけど、私の魔法では殆どダメージを与えられなかった。


 精霊魔法をもっと自由に操り、さらに精霊を召還して実体として戦わせなければデーモンスライムには通用しない………。

 でも私は、今まで精霊をその場で呼び出し実体化させる事が出来たためしは無かった。

 今の精霊魔法の在り方では、そんな事はありえない。


 ―――精霊と契約を結ぶしかない! 

 精霊との契約はその難しさ故に禁呪に等しく、失敗すれば死が待っている。


 だけど、契約出来なければ、精霊を顕現(けんげん)させる事はできない………。



 私たちは精霊使いの能力(すきる)を持つ人を国中探したわ。

 精霊との契約は、ほぼ成功しない奇跡のような賭け。

 一人でも成功させるために、確率を上げるしか方法は無い。


 国中を探し回って確保できた精霊使いは、私を入れて六人だけだった。

 この自殺のような契約の賭け候補に、私自身が入っていることに感謝する。

 国の為に死んで来いとあなたは命令しなければならないのだもの………。

 最初にあなたの為に命を懸けるのは私でなければならない。



 そんな時――

 不意にサンソー村と言う小さな田舎村に、精霊様を肩に乗せている子供がいるとの噂を耳にした。

 そんな筈は…… 国中探し回ったのよ。 しかも、魔術師として成熟していない子供が精霊様と契約できるはずがないじゃない!

 しかも、肩に乗っているのはウンディーネ様ではないかと言う……。

 ウンディーネ様と言ったら上位精霊、しかも地・水・風・火属性は上位精霊の中でも四大精霊と言われる、上位精霊の中でもさらに特別な存在。

 絶対にウソに決まっている!


 でも、彼はそんなウソ確定の噂話でも、(わら)にもすがる勢いで、すぐに旅立ち確かめに行ってしまった。

 彼は私が死を覚悟して、契約に臨もうちしていることに、気づいてしまったのかもしれない。


 サンソー村の鑑定の儀の日、鑑定の儀専用の特別ラインから、むせび泣き話す彼の声を聞いた。


 一言「――見つけた」と………。



 私は直ぐにでも飛び出して、その子に会いに行きたかったけど……

 でもラスに止められた。 彼はまだ八歳の子供なのだとか。

 会えるように、段取りが出来たら呼ぶから待っていてほしいと。


 それから少しして、サンソー村付近で、王国騎士団一部隊の訓練キャンプを作ることになった。

 設営部隊でもいいから、サンソー村に行きたがったが……

 『そんなギラギラした君が、彼に会ったら、彼に嫌われてしまう』と言われた。

 ………ヒドイじゃない!


 一ヶ月半、これはあれから私が彼に会う段取りが整うまでの時間だった。 一ヶ月半という時間はあまりに長い時間だったけれど、やっとその男の子に会える日が来たのだ。 大人しく喜ぶことにした。

 ワクワクしながら見た彼は、右肩にウンディーネ様を乗せ、その他にも水の玉をいくつも自分の周りに飛ばしていた。

 その神秘的な光景に、私は瞬きを忘れ動けなくなった。

 『彼は本物! いえ、それ以上よ!』


 ―――人族は未来の希望を手に入れた! これで私は憂いなく逝ける―――


 そう思い私はその子の目を見て願った。

 『お願い……、私が居なくなった後、優しくて泣き虫なあの人を守って………』



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