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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章二節 それぞれのイマージュ  ラトゥールの想い
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第五章2-2 帰郷のお願い

ラトゥール視点になります。


 私は、ディケム様の執務室へ向かう。



「ディケム様! 報告とお願いがあり参りました!」


「どうしました、ラトゥール」


「はっ! 仕事の報告も兼ねて、少しの間里帰りをしたいと思います」


「………………。 え?! ラトゥールもしかして…… ここが嫌になりましたか?」



「とんでもありません! この居場所は…… もう私の帰る場所になりました。  只の本国への報告です」


「よかった…… 私もラトゥールが居ないと困りますから」


 ⦅素直にディケム様に必要とされていることが嬉しい⦆


「わかりました。 いつもラトゥールにはお世話になりっぱなしですから。 ゆっくり休んできてください」




 ラトゥールがディケムから渡されているブレスレットにマナを込める。

 

 ラトゥールのブレスレットに仕込まれている『精霊結晶』から風の下級精霊『言霊』がディケムへ飛び念話が繋がる。



 『どうしましたラトゥール』


 『ディケム様、内密の報告がございます』



 『言霊』はマナの本流を使い、離れた場所の人と話をすることが出来る。

 しかし、近くに居ても『念話』の様に、機密事項の案件を秘密裏に話し合う使い方も出来る。




 『内密の報告………?』


 『はい…… 実は今回の里帰りの本当の目的は―― 【雷と破壊の上位精霊バアル】の情報を手に入れたからです』


 『バアル?』


 『はい。 バアルは四大元素を司る精霊の様な(ことわり)の役目は持ってはいませんが―――  破壊力と云う点では四大元素精霊を超えて居ます。 ディケム様のこれからの戦いには必ず必要となる上位精霊でしょう」


 『雷と破壊の精霊ですか………』


 『はい。 カステル皇帝陛下からの情報によれば―― 【バアル】は魔神族領の奥地。晴れる事は無く雷雲立ち込め、常に雷が降り注いでいると云われる地、魔神族ですら立ち入ることが難しい雷鳴山脈として名高い【霊峰カタトゥンボ】に居るそうです。 そこで【雷嵐竜シュガール】に守られていると………』


 『雷嵐竜シュガール!?』



 『はい、雷嵐竜シュガールは――、 『暗黒竜』に次ぐ、『火竜』と並ぶ最上位のエンシェントドラゴン。 バアルと雷嵐竜シュガールを同時に相手にする事は非常に危険です。  ディケム様、私が雷嵐竜シュガールを引きつけている隙にバアルとの契約を果たしてほしいのです」


 『暗黒竜並みの竜を引き付けるって……… ラトゥール、あなたに危険は無いのか?』



 『ディケム様、ギーズは命をかけてシルフィード様と繋がり、アバドンをラーニングしました。 ララも危険をかえりみず、玉藻と云う強力な仲間を得ました。 他の者達も日々、一生懸命必死に励んでいます。 その彼らのまとめ役を任されている私が、どうしてい安全な場所で命令だけを行えるのでしょう』



 『だが………』



 『バアルは魔神族領での任務になります。 私以外の誰がディケム様の補佐が務まるでしょう。 それに、今回は雷嵐竜シュガールに勝つ必要はありません。 ただ引き付けるだけで良いのです』



 『引き付けるだけと言うが…… あの暗黒竜に近いハイエンシェントドラゴン、容易いはずがない。 しかし………』



 ディケム様がしばらく考え込む。



 『………………。 わかった、だがくれぐれも無理はしないでくれ』



 『はい! ディケム様。 里帰りも兼ねますので、バアル戦まで二〜三週間お待ちください。 それと転移陣で魔人族領との国境門まで送って頂けると助かります』



 『わかった』




 細かな打ち合わせを終えた後――

 ディケム様が何かの箱を持ってくる。


 『ラトゥール。 これを渡しておきます』


 その箱を開けると……

 『あっ!』 箱の中には服が入っている。


 『ラトゥールが欲しがっていた、オリハルコン糸で作った装備だ。 使ってくれ』


 『ありがとうございます! この装備が有れば…… 雷嵐竜シュガールなど恐れるに―――』


 『ダメだ! ラトゥール。 その装備だけではシュガールには勝てない。 今回のバアルと雷嵐竜シュガールは雷属性だ。 雷属性の弱点、土属性の精霊と俺はまだ契約できていない。 その装備に付与されている耐性は俺が契約している七柱の精霊属性のみだ』



 『はい』



 『だが…… それでも多少の効果は有ってほしいと願っている。 あとは便利服として使ってくれ。 汚れも浄化してくれるし、服の傷もアウラの属性が修復してくれる。 ラトゥールの好きな黒色で仕立ててみた。 気に入ってくれると嬉しい』



 『はい。 これ以上ない褒美でございます』




 この装備は、正直本当に嬉しかった。

 ディケム様からの贈り物という事もあるが……


 その性能はララが証明している。

 性能だけを考えれば、アーティファクト級と言っても過言ではないと私は思っている。






 ディケム様との打ち合わせを終え――

 私は、総隊各位に一ヶ月ほど魔神族領へ帰ることを皆に告げる。

 そして、私が居ない間の仕事の割り振りを行う。


 少し――、私が居ない事でディケム様が困ってほしい……

 などと、邪な考えが頭をよぎるが――

 そんな無駄な事はしない。

 私が居なくても、滞りなく仕事が進むよう完璧に仕事を割り振る。




 私が魔神帝国より連れてきている副官は、『マルティーニ(女)』。

 人族領での魔神族大使としての仕事は、全てこのマルティーニに任せていると言っても良い。



 そして今、私はもう一人副官を従えている。

 元ダークエルフ族族長の『エリゼ』だ。



 エリゼは、エルフ戦役のあと形上のケジメとして、ダークエルフ族の族長の座を降りた。

 そして、改めてエルフ族と人族との交流を主とした外交官の一人としてこの地に赴任してきた。


 エルフ族の外交官の多くは、その知識と経験を生かして、ディケム様のポーション研究チームに加わっている。

 その研究成果は目を見張るものがある。



 そして……

 武のダークエルフ族たるエリゼが、ポーション研究など出来るはずもなく………


 何しにここに来たかというと――

 昔から心酔していたラトゥールの下で働きたいと……


 エルフ族の長、ハイエルフ六賢者の『アルコ』にもお願いされ……

 しょうがなく副官として引き取っている。




 だが、この『エリゼ』非常に優秀だった。

 だてに族長などしていた訳では無い、今では私の右腕と言って良いほどの存在だ。



 そして今回の魔神族領への帰郷、このエリゼを伴う事にした。


 『人、魔神、エルフ』の三種族同盟を結んでいる今、エリゼを人族領から魔神族領へ伴う意味合いは大きい。


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