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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章一節 それぞれのイマージュ  ララと妖狐
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第五章18 アダテ領任務報告

ララ視点になります。


 私とヴィニコルは玉藻を連れて本国に帰還した。

 そしてこれからディケムに、仕事の報告と玉藻を紹介する為、執務室へ向かう。



「ねぇララ…… 今回の事件で一つだけ分からなかった事が有るのだけれど?」


「なに? ヴィニコル」


「なぜ、ヴォルタさん達は呪われたのでしょうか?」


「あぁ…… アダテ領の呪いの原因は全てアダテ湖の汚染です。 アダテ領の全ての生産物にアダテ湖の水が使われていました、稲作もそうです。 呪いの水で育てられた米は呪いが含まれます、その米で作ったお酒も、育てられた家畜も同じです。 人々は生活の中で食事をとることで、呪いが蓄積されていったのです…… 特にお酒は年数寝かされた物が良いとされています、寝かされた分呪いも凝縮したのでしょう。 ヴォルタさん達はよほど良いお酒をヤケ酒と称して大量に飲んでいたのでしょうね」


 ヴィニコルが『なるほど……』と少し呆れて笑う。



「あ、それからララ…… 今回のお仕事はララの行動を私も支持します。 ですが……」


 ヴィニコルが玉藻の首輪を見ると、玉藻が『嫌! これは返さない!』と首輪を手で隠し首をフルフルする。


「あの通信用の魔術具は【精霊結晶】が使われています、出発前にディケム様からくれぐれも取り扱いに注意しろと言われましたから」


「だよね………」


「ディケム様から念を押されていた手前、ナイアード様に通信の魔術具を渡したのは、お咎めは免れないでしょう………」



 ⦅うん、分かってた……… 勢いでカッコつけちゃったこと分かってた………⦆



「はぁ、ヴィニコル、もしその装備取り上げられちゃったらごめん……」


 『——————!』


 今度はヴィニコルが声にならない叫びをあげ、涙目で嫌々している。



「だ、大丈夫! ララは私が守ります! 威張るだけの軟弱貴族が何か文句言いだしたら、私がやっつけてあげます!」


「玉藻、気持ちは嬉しいけど無理だと思うわ……」


 ヴィニコルも頷いている。





 私たちはディケムの部屋のドアの前に着いた。

 警備兵に仕事の報告でアポイントを取っていることを知らせ入室する。



「ソーテルヌ元帥! ララ・カノン並びにヴィニコル、只今戻りました。 仕事の報告をしたいと思います」


 その時! 玉藻がビクッと飛び上がり、私の後ろに震えながら隠れる。


「——え? どうしたの玉藻?」

「ぎ…銀髪の女悪魔――!!」


 玉藻が震えながら私にしがみつく。



「なんだララ、そのガタガタ震えているのが、噂の妖狐か?」


「はいラトゥール様! 報告書を上げた通り、この度の出来事は、この妖狐の玉藻が、主を守るために行った自作自演、私はこの玉藻の心根に共感し、勝手ながら保護いたしました」



 私はディケムの方に向き直り恐る恐るお願いする。


「ソーテルヌ閣下、この玉藻の命を救い、私の契約神獣とさせて頂けないでしょうか?!」


「うん、いいよ」


「——ッえ! そんな簡単に?」


「ララが信じた神獣なら僕も信じよう、それにマナを見れば玉藻が信頼に足る神獣だとわかる」



 ディケムが立ち上がり、玉藻の所に歩いていくる。

 玉藻は相変わらず震えて、私にしがみついている。


「玉藻は何をそんなに怖がっている?」


 ディケムの問いかけに、玉藻がラトゥール様を指さして――

 『ぎ…銀髪の女悪魔』と再度呟く……



「あ…… もしかして、玉藻が魔神軍に突撃してボロボロにされた魔神って、ラトゥール様の事?」


 玉藻が私にしがみ付きながら首を何度も縦に振る。


 なんか……

 嬉々として玉藻をゲイボルグで追い立てるラトゥール様が、容易に想像できる。



「あぁ、微かに覚えているぞ、一〇年ほど前、毛皮にちょうど良さそうな真白な狐を追いかけた事が有る! 私としたことが不覚にも打ち損じてしまった………」


 『ヒィィィ——』 玉藻がさらに震えあがる。

 さっきまでの、上司を蹴散らしてやる発言の威勢はどこに行ったのやら……



 ディケムが大声で笑う


「凄いじゃないか、めぐりめぐって今ここに一緒にいるなんて、玉藻はここに来るべくして来た子みたいだね、ラトゥールもこれからは仲間として接してくださいね」


「——ハッ! ディケム様!」




 そして、ディケムが玉藻の頭にゆっくり手を置く。


 ———–––フワッ!



 部屋一面が一瞬で光り輝き、マナが充満し、黄金の粒子が床からキラキラと立ち昇る。

 私達も玉藻も何が起きているのかわからず、目を見開き立ち尽くす。



「長い間、相当必死で頑張ってきたんだね…… こんなにも(マナ)をすり減らし、ボロボロになりながらも大切な友人を守り通してきた———」



 その言葉を聞き、張り詰めた糸が切れたように玉藻がボロボロと涙を流し出す………



「もう一人で頑張らなくていい、ここにはたくさん仲間がいる、弱みを見せて良い、人を頼っていい、願いを口にしていい」



「あ—— あぁ………」


 人の姿から妖狐に戻った玉藻がディケムにすがりつく。



「一人が寂しいんだね。 だれかと一緒にいたい、誰かにギュッと抱きしめられたい……  そんなささやかな事が君の求める願いなんだね………」



 マナが玉藻に流れ込んでいく………


 ———玉藻の二本しかなかった尻尾が、一本また一本と増えていく!

 そして玉藻の尻尾が九本揃ったところで、玉藻の全身が光る。




 そこでディケムが唱える



 ⋘――――Στενός(ステノス)φίλος(フィリオ)-()δεσμός(デズモ)(親友の絆)――――⋙



 私と玉藻からマナの線が伸びて繋がる。

 マナが繋がったところで、私と玉藻が一瞬光り、そして部屋中のマナは収束していく。




「これから玉藻は私の庇護下に入る、皆も新しい仲間として接するように」


「イェス・ユア・グレース!」


 皆がディケムに敬意を払い返事をする。




「玉藻…… あなた仙狐(せんこ)どころじゃなくて、九尾だったのね……」



 玉藻が、この一〇年戻る事のなかった自分の尻尾が、いま九本に復元され、ボロボロに傷ついた(マナ)が完全に回復したことに目を瞬いて驚いている。



「ララ、玉藻と君をマナで繋いだけれど、強制力のある従属契約にはしてはいない。 それでいいのかい?」


「うん! ありがとうディケム! 玉藻とは信頼関係で繋がりたいの……」



 ラトゥール様が、『甘いことを……』って顔で見ている。

 でも私はこれが良い、甘いと言われても、これが私のやり方だから。


 私は小さくなっているけど、九尾に復活してモフモフ感がアップした玉藻を抱き上げ、触り心地を堪能した。





「そうだララ、ヴィニコル、マルサネ王国より依頼達成のお礼と褒美が届いている。 二人で分けると良い」


「「——ハイ!」」




「それでだ…… 問題は通信の魔術具だな」


 『ハイ』 ラトゥール様が厳しい顔で答え、私達三人はビックと震えた。


「ララ、通信の魔術具は精霊結晶を使っている、世に出してはいけない物だと理解しているね」


「はい………」


 玉藻が必死に首輪をかくして首をフルフルしている…… 



「フフ、玉藻。 安心しなさい、今更取り上げることはしない。 だが規則を破って放っておくわけにもいかない、それが軍というものだ。 普通ならば不正に譲渡された魔術具は、精霊を抜き使えないようにしてしまうが…… 今回は玉藻に免じてそれはしない」


 玉藻が安堵する。



「ララ、ヴィニコル、玉藻の三名は、一カ月食堂のルルの手伝いと薬師部門のフィノの手伝いをする事! ルルとフィノには三人をこき使うように言っておく! 以上だ」


「「「え……? それだけですか?」」」


 三人が思わず聞き返す…… ラトゥール様も呆れている。



「あぁ、それだけだ。 正直今回のララの行動は、俺は『是』と思っている。 しかし軍と言うところは面倒でしょうがない、それが是だとしても規則を破ったものを罰しなければいけない…… 馬鹿らしい」


 玉藻が目を見張って驚いている。


「ディケム様、私は宰相と言う立場で小さな町ですが、法を重視して政を行ってきました。 この度のディケム様の与えた罰は、組織の役人としては如何なものかと思いますが……… 私はあなたの元で働けることを誇りに思います」


 玉藻の言葉に、ディケムが嬉しそうにほほ笑む。





 報告はそれで終わり。

 その日から一ヵ月、私達三人は食堂の手伝いと、薬草の畑の手伝いを行った。

 でもそれは忙しかったけれど、新入りの玉藻を皆に紹介する意味合いもあったようだ。

 ほんとディケムにはかなわない。



 玉藻は私の神獣として、私の部屋に一緒に寝泊まりしている。

 私達幼馴染とラトゥール様はプライベートでも何時も一緒に食事をしている。

 必然的に玉藻も一緒になる、玉藻はそのアットホームな時間がたまらなく嬉しいらしい。



 玉藻とナイアード様は、『何かあったら連絡してね』って言っていたのに……

 何も無くても、それは毎晩女子トークを繰り広げている、その魔法具そんな気軽に毎日使ってもいいのかな……?


 まぁ、ディケムが楽しそうにやり取りを見ているから、大丈夫だよね。




 こうして私のチームは、新しく九尾の玉藻を加えて、大幅に戦力アップして三人パーティーになった。





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