第五章17 友達2
ナイアード視点になります。
妲己が妖狐として討伐されて三日がたった……
三日間私は泣き続け、宰相補佐の呂尚を困らせたが、妲己の事については呂尚も思うところがあるらしい、泣き続ける私にとても寛容だ。
今日、シャンポール王国のララとヴィニコルが帰るらしい。
マルサネ王国の勇者ヴォルタ達も、事件の顛末を本国に報告しに帰るらしい。
「ナイアード様、勇者ヴォルタ殿が、お別れの挨拶に見えました」
呂尚に連れられて、勇者ヴォルタのパーティー三人が入ってくる。
「領主アダテ様、この度はいろいろお世話になりました。 褒美も沢山いただき感謝に堪えません……」
私はヴォルタを睨む、今回の件は、全て妲己が自ら計画した事だ。
彼らを恨むのは筋違いなのは解っている、 だけれども……
頭ではわかっていても、心が納得しない、他に策は無かったのかと……
我がままで傲慢なことも分かっている、彼らも、妲己も私を助けるためにしたことなのだから。
「アダテ様、実は伝言を一つ預かっているのですが…… お聞きになりますか?」
ヴォルタがそう言う……
本心を言うと、彼らとは少しも話したくなかった。
だけど、そんな子供じみた事を言えば、きっと妲己が居たら怒るだろうなと……
素直に聞くことにした。
「ナイアード様のお友達だという、玉藻という者からの伝言です。 今日の午後三時に奇蹟の泉で待っていると………」
⦅ッ————えっ!! 玉藻!?⦆
私は椅子から飛び上がり、ヴォルタの所に駆けていき、『本当か?』と腕をゆすった!
でも、ヴォルタはただ片目をつぶり、笑っただけだった。
私ははやる心を抑えきれず、護衛を伴い速足で沼へ向かう。
護衛騎士は奇跡の泉と聞き、アダテ湖へ向かおうとするが……
私は小さい毒沼へと向かう。
まだこの毒沼が、本当は奇跡の沼であることを誰も知らない。
いや、アダテ湖が浄化された今はもう、この沼も必要ないのかもしれない。
しかしナイアードは誓う、玉藻が守った領地、この沼こそアダテ領の宝、必ず守り通すと。
毒沼の近くで、護衛にここで待つように伝える。
そして、ナイアードは一人で沼に向かう。
沼にたどり着くと、沼の対岸のほとりに、白く美しい狐が座っている。
「あ…あぁ…… 玉藻——! 玉藻…… いや妲己………」
私は玉藻に駆け寄り抱き着いて、嗚咽をこらえて話しかける。
「ナイアード…… 妲己って……」
「私は初めて会った時から、妲己が玉藻だとわかっていたよ!」
「ッ——なっ! どうして?」
「尻尾がね…… 見えるんだよ、私には」
「——————! 一〇年間も黙っているなんて酷くないか? ナイアード……」
「玉藻……、それはお互い様じゃない」
二人は笑い合う。
「玉藻! ありがとう! 君はこの一〇年間私を何度も助けてくれた。 私は君に何をしてあげられる? この恩に何をしたら報いることが出来る?」
『………………』 玉藻は少し考えて、呟く
「最後にもう一度だけ…… ギューっと抱きしめてほしい」
あ…あぁ…… たった…… たったそれだけの事のために……
君は自分の命を懸けて私を何度も助けてくれたの?
私の脳裏に、子供のころ二人で一緒に遊んで、お風呂に入って、抱き合いながら一緒に寝た記憶がよみがえる。
私は玉藻をギューっと強く抱きしめた。
「玉藻! これからも一緒にいようよ! もう悪霊も居なくなったよ! 領民も心配しなくてもすぐに事件の事なんか忘れるよ! ねぇ……… 私は玉藻が居ないと………」
玉藻は首を横に振るだけだった……
「君はもう私が居なくても大丈夫、政務も『呂尚』を宰相にすれば大丈夫だ!」
「………………」
「ねぇ私の最愛の友達ナイアード、泣かないでよ…… 私はこれから側にはいられないけど、何処にいても君の友達だよ、君がピンチの時はすぐに駆け付けるよ! だから笑顔でまたねっていってよ」
私は玉藻をギュッとしたまま離れられない………
「さぁ、ナイアード! 君なら大丈夫だよ!」
「う…ん… わ…わかった」
私は少しずつ玉藻の温もりから離れていく……
「玉藻! 絶対だよ! 絶対約束だからね! ………必ずまた会おう」
———またね、玉藻
私は玉藻にお別れをした。
玉藻にお別れを言えた後、ララさんが出てきて、事の顛末を全て教えてくれた。
妖狐との戦いは、ララさんは最初から妖狐の自作自演だと分かっていたらしい。
最後の大技で派手に閃光を起こし、そのすきに上位精霊ウンディーネ様の力を使い転移陣を発動して、妖狐をこの場所に飛ばして、皆に死んだと思わせたらしい。
私達が『討滅の呪文』だと思った最後の呪文は、『転移呪文』だったのだと……
玉藻自身もビックリしたらしい、消滅したと思ったら、この私達の大切な沼のほとりに佇んでいたのだから。
そして今後玉藻は、ララさんの神獣として契約して、シャンポール王国へ行くことになったようだ。
ララさんに面倒を見てもらえるなら…… 寂しがり屋の玉藻も幸せになれそうだね。
「ララさん、玉藻の事よろしくお願いします」
「はい、頼まれました。 ナイアードさんもいつかシャンポール王都に遊びに来てね、歓迎するから」
「はい!」
そしてララさんは、私に腕輪を外して渡してくれました。
「この腕輪は、人の世に有ってはいけないものです。 だから絶対に人に渡さないでください。 誰かに奪われそうになったら壊してください」
「はい……?」
ララさんはヴィニコルさんの腕輪を、玉藻の首輪に巻きました。
「これで…… この腕輪に念じると、どれだけ離れていても玉藻と話せます」
「ッ———え! この腕輪でそんな事が!」
「寂しいときは、玉藻に連絡してね」
「ララさん……… 本当に色々ありがとうございました!」
そしてララさん達は帰っていきました。
私も玉藻と笑顔でお別れを言えました。




