表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第五章一節 それぞれのイマージュ  ララと妖狐
174/553

第五章15 御恩

妖狐視点になります。


 私は九尾の狐。


 千年以上生きる妖狐が仙狐になり神獣となり九尾となった。


 神獣となってからは死にはするが、魂は消滅せず転生し生まれ変わる。

 新しい世代に転生すると、子供からやり直しだ。

 知識は残っているが力はかなり弱くなる。




 私は今の代に生まれ変わり、今はまだ子供だ。


 私は、もともとは【モンラッシェ共和国】の魔神族領に近い村で、玉藻稲荷神社の神・神獣として敬られていた……



 だが、魔神族との度重なる戦争で、玉藻稲荷を祭る村は荒廃し、私の神社にお参りに来る人は居なくなった。




 私はよく、人を惑わすと言われているが……

 人が大好きなだけだ、人と遊びたいだけだ。

 誰も来ない神社に一人、寂しくて寂しくて仕方がない。 



 昔は神社に子供がいっぱい遊びに来たのに…… 

 家族連れの人々が毎日たくさん来てくれたのに……

 私の楽しみは、人の子供に化けて一緒に遊ぶ事だった。



 ⦅あぁ…… またみんなと遊びたい……… 人が恋しい……… )



 どうしたら皆、また遊びに来てくれるだろう…… 

 どうしたらまた村に沢山人が集まってくれるだろう……



 ⦅魔神族を追い払えば、また皆遊びに来てくれるかな………)



 魔神族は、自分が強いばかりに神など信じない。

 信じているのは己の力のみ、我々神獣など敬いもしない。



 その点人は良い――― 私に願い、尊び、頼ってくれる。


 私は人を愛している。 愛する人族をいじめることは許さない。

 この神獣たる私にかかれば、魔神族など直ぐに追い払ってくれる!





 私はこの村に一番近い、魔神軍の軍隊に襲い掛かる。



 ⦅フン! 私の力を見るがいい———!⦆



 最初はよかった、私は思う存分魔神族を蹴散らし、追い払った———


 しかし…… あの銀髪の悪魔…… 女魔神が現れた!



 女魔神は見事な槍を携え、他の兵士を皆後退させ、この私と一騎打ちを仕掛けてきた。

 魔神如きが奢るなよ! 一騎打ちを望んだこと後悔させてやる!



 ————ボロボロにされた。 ヒドイ……… まだ子供なのに………



 私は命からがら逃げだした、銀髪の女悪魔が逃がさないとばかりに追いかけてくる!

 後ろから何度も何度も槍で刺され、ボロボロになりながら、必死に逃げた………


 気づけば私は、玉藻稲荷神社とは違う方向に逃げていた。

 アルザス渓谷を抜け、マルサネ王国を抜け、アダテと言う田舎町に逃げてきた。



 あの銀髪の女悪魔を思い出すだけで震えが来る……。

 魔神族とはあれほどまでに、苛烈で強いのか……。



 私はズタズタの体を引きずり、森の中を這いずる、こんなところで死にたくない。

 私は本能で、マナが溢れる沼にたどり着く、その沼は奇跡の沼だ!

 これほど薬草が溶け込み、マナが流れ込んでいる沼を見たことが無い。

 私はマナを維持する為、体を小さな白い狐の大きさに変え、沼に漬かりながら意識を失った。





 人の気配で意識が戻る…… まさか……銀髪の女悪魔?

 怖くて逃げだそうとしたけど、体が動かない。

 私もここまでか……


 ふと、忘れかけていた暖かな手の温もりを感じる……

 小さな女の子が、私を抱き上げている。


 あぁ…… あたたかい…… ずっとこのまま抱いていてほしい……

 そのまま、また意識を失った。




 次に意識を戻したときは、暖かい布団の上だった。

 隣には、あの女の子が眠っている。


 体を見ると、傷の手当てもされている。

 沼の水の効果も相まって、傷、毒、呪いもほぼ完治していた。

 だが…… 私の魂は深いダメージを受け、力も失い、尻尾が二本しかなかった。

 九尾の力を取り戻すには、かなりの時間が必要だろう。





 意識を取り戻した私に、女の子は喜び、おいしいご飯を食べさせてくれる………

 あたたかい…… 私が求めていた、取り戻したかった暖かさだ。



 傷が完治しても、ずっとここで、この子と一緒にいたかった……

 だけれども、そうはいかなかった。




 この子の父親は、あまり良い人ではないようだ………

 悪政を強いる領主であるこの子の父。

 その不正を暴き、反対運動を起こそうとしている村の人々―――


 結局、この子の父は……

 その一〇一人の村人を殺し、湖に沈め、呪いを受けてしまったようだ。





 本来の私の力なら容易い呪い、だけれども私は銀髪の女悪魔に霊気自体も消滅寸前までダメージを負わされたようだ、体の傷は治っていても、本来の一割程度ほどの力も出ない。



 この子の父親はもう手遅れだった、そして101人の呪いはそれだけでは満足しなかった…… 

 このアダテ領全ての人々に呪いをかけたのだ!







 この子の父親は手遅れだったけど、残ったこの子とその大切なものは私が守る。

 私は残りの霊気を全て使い切り、呪いを封印した。


 本当は呪いを浄化させたかったけれど、この強い怨念は、今の私には浄化できなかった……



 この封印は不完全だ………。

 七~八年でほころび、呪いを垂れ流し、一〇年もすれば解けてしまうだろう。

 一〇年間溜まった怨念は、さらに強力な妖怪に変貌を遂げてしまうに違いない。



 あぁ…… 誰かこの子を助けて! 私はもう消滅してしまう……

 私の代わりに! だれかお願い………





 一年後

 私は、奇跡の沼のほとりで目覚めた。

 怨念を封印した私は、狐の姿のまま息絶えたのだろう……

 だけれども、あの子は私をこの沼のほとりに埋めてくれたらしい。



 私は神獣だ、死ぬことはあっても消滅はしない。

 本当ならば、死んだあと、数十年は生まれ変わらないことが多いいが……

 マナが豊富なこの場所に埋めてくれたこと、今のこの世に私の未練が強いことで一年程の期間で復活したようだ。



 だが…… 九尾としての力はほぼ失っている。

 あと九年、封印した怨念が復活するまでに、私は力を取り戻せるだろうか。





 九尾の力を失った私は、【妲己】と名乗り、人の姿であの子のそばに駆け付けた。

 本当は、あの子の温かい手に抱かれたかった、撫でられたかった、一緒に遊びたかった……

 でもそれは私のわがまま、今この子に必要なのは、友達としての私ではない、千年以上生きた、私の知識こそが今のこの子に必要なこと。



 この子の領主運営を支え、九年間で九尾の力を回復させ、怨念が復活したときに消滅させるのだ。





 あれから八年、とうとう封印がほころび、怨念が漏れ出した。

 私の不注意だ、村人を死なせてしまった!


 私の想定をはるかに上回る、怨念の強さに成長してしまっている。

 怨念の核になっているのは【ガシャ髑髏(どくろ)】だ、ガシャ髑髏(どくろ)にまで成長してしまっては、今の私では勝てない…… 

 私の尻尾はまだ二本、九尾の力までは程遠いい。




 さらに不味いことが起こった、怨念が強すぎて、すでに数年前から気づかぬ間にアダテ湖の水を呪いと毒で汚染していたのだ!


 その水を飲んでいたアダテ領の領民は、呪いと毒に汚染された。

 殺された一〇一人の怨念が領民をむしばみ、その怨念による恨みが怒りに変わり、領主に向かっている。



 早急にアダテ湖を立ち入り禁止にし、奇跡の沼の水を飲むように領民に御触れを出す。


 しかし、呪いに汚染された領民は、奇跡の沼の水を忌避し、思ったように解呪と解毒が進まない。


 そしてガシャ髑髏が出てきてしまえば、前領主がキビナイ村の前村長と村民一〇一人を皆殺しにして湖に沈めたことが明るみに出る……




 これはもう手詰まりね……

 やっぱりもう、この方法で行くしかないわね。


 ・ナイアードの父親の罪を、九尾の仕業にすり替える。

 ・領民の怒り、恨み、恐れを全て九尾に向かわせる。

 ・ガシャ髑髏を倒せる勇者を呼ぶ。

 ・勇者に九尾を殺させる。

 ・私が居なくなった後、ナイアードを補佐できる宰相を育てる。


 私の方針は決まった。



 『もう一度人の温もりに触れたい……』


 その望み叶えてくれたナイアードを、私は必ず守ってみせる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ