第一章16 合同訓練
ラローズさんの嘆願で俺達四人の訓練に、ラローズさんも加わることになった。
「ウンディーネ様! 私からもお願いがあります」
「なんじゃ? ラス・カーズ」
「ディケム君達とラローズの訓練に、もう一人【ラモット】と言う、ラローズの次に力を持つ精霊使いを参加させて頂けないでしょうか? 少しでも次に繋げる確率を上げたいのです」
ウンディーネが怪訝な表情をし、ラス・カーズ将軍を睨む。
ラス・カーズ将軍はウンディーネの疑念を読み取り続ける。
「も、もちろん私からラモットに強制はしていません。 ラモットからの懇願でお願いしています!」
「う~む、面倒くさいのぉ………」
「コラッ! ウンディーネ! ラローズ様とラス・カーズ様のさっきの話を聞いて、面倒くさいとはなんだよ!」
「アウ……… しょうがないのぅ、ディケムの願いなら仕方がない。 面倒くさいがついでに見てやろう……」
「じゃが! その代わりラスよ、これから毎日、クレープを買って来るのじゃ!」
―――ハッハッハ♪
「そのような事でよいのでしたら、いくらでも!」
ラス・カーズ様が深く頭を下げる。
ウンディーネの了承を得たラス・カーズ様は、小走りで去っていき、しばらくしてラモットさんを連れて戻ってきた。
「王国騎士団第一部隊所属のラモットです。 宜しくお願い致します」
「ウンディーネ様、ラモットはもともと軍人ではありません。 私とラローズが各地を回り探し出した、精霊使いの能力持ちです。 ほぼ訓練はしていませんので、初心者として扱いをお願いします」
「ほぉ~、ラモットは軍人では無いのに、死の危険性がある訓練を受けるのか?」
「……はい。 このままではどのみち人族は滅びます。 私に皆さんの力になれる力が少しでも有るのでしたら、少しでもあがこうと思います…… ダメでしょうか?」
「いや、余計な事を聞いてすまなかったのう。 妾の出来る限りの事はしてやろう」
ウンディーネは結構口が悪く厳しいが、真剣な者にはキチンと答える、心優しい精霊だ。
ラローズさんの覚悟、ラモットさんの心意気を認めたのだろう。
ウンディーネの前に、俺たち四人とラローズさん、ラモットさんが並ぶ。
「それではラローズとラモット、まずはオヌシ達の力を見せてもらうとしよう。 ああ、ディックとギーズ、ララはまだろくに魔法すら使えないからそこで見てなさい。他人の魔法を観察することも大事だぞ。 ではラローズとラモット、あそこに見える巨石に渾身のウォーターを放て」
ウンディーネの指示通り二人はウォーターの呪文を唱え魔法を放つ。
≪――――υδωρ(氷水球)――――≫
ラモットさんはまだ駆け出しの魔法使い、それでも平均的なウォーターを放っている。
やはり精霊魔法師は素質として魔法師の上位に位置するのかもしれない。
そしてラローズさん、彼女のウォーターはすでに上位魔法師としての完成度に達している。
ウォーターの水量と水圧は範囲攻撃に匹敵する威力がある。
「よろしい、では次に二人ともディケムが左肩に作っている、水球を作ってみなさい」
二人が呪文を唱える―― ≪υδωρ(氷水球)≫
――しかしウォーターはそこに留まる事もできず前方に発射され、二人は難しい顔をしている。
「なぜ出来ないかわかるか?」
ウンディーネが二人に問いかける。
「ウンディーネ様…… むしろなぜ水球をその場に留めていられるかが分からないのです。 発射された水の玉を一つの場所に留める、水球を止めるためには、前方と下から力を加えないと留まる事が出来ないと思います」
「そう…… ラローズよ、お前たちはスタート地点から違っているのじゃよ。 良く考えてみよ、ディケムはウォーターの魔法を絶えず使って水球を維持しているのか? お前たちが見ている妾は水球と同じ原理で出来ている」
「―――っあ! 精霊魔法とは根本的に魔法とは違う物なのですか?」
「それも違う、よいか! お前たちの魔法の呪文とは、魔法が使えない者でも魔法が使えるように体系化したものに過ぎない」
「――っな!」
「魔法の呪文には、マナを水に変換し、水球を作り、前方に発射する。簡単に言うとこのような呪文が組み込まれている」
「……だから、いくら水球を留めたくても出来ないのですね!」
「そうじゃ、ディケムの水球は呪文を使っていない、マナから水を操作して作っている、だから、いくらでも大きく、強く、早く、どのようなアレンジでも出来る」
「そ…… それではもう、魔法使いとしての概念の外に居ることになるのではないですか? 魔法を使うのではなく作る人では?」
「お前たちは、なぜ精霊使いが精霊と契約できる資格があると思っている?」
俺以外の全員が首を振る。
「精霊使いという呼び名で分からなくなってしまっているが、精霊使いと言われるお前たちは、マナに敏感な性質を持っている。 マナを感じ取り、見ることが出来るのじゃ」
「――っな! マナが見える?!」
「そうじゃ、マナが見えればマナを操作して魔法を作ることもできるようになる。 マナとはこの世のすべてのエネルギー、この星そのもの。 そして精霊とはマナの一部、意志を持ったマナと考えればいい」
「………………」「………………」
「オヌシ達が精霊と契約することを望むなら、最初の目標は二つじゃ!」
【マナを見極められるようになること】
【下級精霊と親しみ、相性のいい精霊を見つけ出す】
「ではディケムよ、その水球であそこの巨石を攻撃してみろ」
俺は言われた通りに水球を飛ばし、大きな岩を攻撃した。
水球は大岩を容易く貫通して通り抜け、そして俺の元まで戻ってきた。
ラローズさんとラモットさんは大きく目を見張り固まっている。
しかし遠くで見物していた騎士の中に、『爆散するかと思ったら、ちょっと期待外れだな』と見当違いの発言をする声が聞こえた。
『お前にはもっと訓練が必要だな、あれを見て分からないのか!』とラス・カーズ将軍が見物している騎士を叱咤する。
「そう言う事じゃ、これがどういうことかラローズとラモット、お前らにはもうわかるな?」
「……ハイ! 爆散させるのは正直簡単な事です。 ですが水球は岩を貫通し、しかも水球はディケム君の所に帰ってきました。 これは呪文を使う魔法には不可能な動きです」
「あのように岩を爆散させず、水球の大きさだけくり抜き貫通させるには、想像を絶する、水球の密度とスピード、回転が必要だと推測されます。 それは呪文のウォーターでは不可能、そしてマナ操作で行っているのでしたら、そうとう熟練しないと不可能だと思います」
「よかろう、付け加えるならば、ディケムが作り出している水は、妾の、ウンディーネの属性が含まれている。 だからあれ程の威力と操作が出来るようになる。 言葉で言われるより、実際に見たほうがイメージ出来たであろう」
全員が頷く、ディック、ギーズ、ララ達も真剣に聞いている。
「お前たちが下級精霊と契約できれば、今のディケムの攻撃が出来るようになる。 これがディケムにとっての初歩だが、まずお前らはこれを目指して励むがいい!」
「「「———はい!」」」 全員が目標を見定め、大声で返事をする。
「だがしかし、正直マナが見えていないオヌシラはスタート地点にも立てていない。 これから毎日やることは、マナを意識して生活する事と、下位精霊を呼び出し絶えず自分の回りに維持させる事じゃが………」
ウンディーネが少し悩み、『しょうがないの~』と言い、【ウォーターエレメント】水の下級精霊を五つ呼び出した。
息を吸うようにウォーターエレメントを呼び出したウンディーネに感嘆の声が上がる。
「精霊との触れ合いは普通マナが操作できるようになってから始めるのじゃが……」
皆、息をのみ、ウンディーネの言葉を一言も聞き逃さないよう集中して聞いている。
「見えないマナが見えるようになるには時間がかかる。 もしかしたら一生見えないかもしれない。 だから強制的に見えるようにするために、この呼び出した精霊と一緒に過ごすのじゃ。 妾が制御しているから、この訓練場の中ならば危険はない」
「「「———はい!」」」 「ご教授ありがとうございます!」
皆それぞれウンディーネにお礼を言って、自分と相性のいい精霊を探し始める。
するとララがウンディーネに問いかける。
「あ、あの…… ウンディーネ様。 私たちは精霊使いではない無いのですが、ラローズ様と同じ訓練をしてもいいのでしょうか?」
「お前たち三人も同じ訓練じゃ。 お前たち三人はディケムとマナのラインで繋がっている。 その時点でラローズ達よりもマナを感じ取れるようになっているはずじゃ。 もしお前たちがマナの理を理解し、チャンスを生かし覚醒すれば、面白いことになるかもしれんのう!」
ウンディーネが凄く悪い顔をしている………
今は教えてくれないけれど、あの笑いは凄いことなのだろう。
「ラローズさん、ラモットさん、ウンディーネ様の特訓は地味で大変だけど一緒に頑張りましょうね!」
「ありがとうララ。 今まで精霊魔法に関して、古い文献を解読して手探りで勉強していたから、本当にこれで良いのかと不安ばかりでした。 結局は間違っていたのだけれど……… ウンディーネ様の指導が頂けるこの環境にほんとうに感謝いたします」
ラローズさんとラモットさんが、片膝をつき騎士の最上級の感謝でウンディーネと俺に頭を下げた。
その日は皆、自分に合うウォーターエレメントを選んで、精霊と触れ合う事で精いっぱいだった。
今までは精霊に個性があり、自分との相性があるなど思いもしなかった。
日中の訓練が終わり夕飯時になった。 みんなは言われた通りに、各自のウォーターエレメントを近くに浮かべながらテーブルに着いた。
俺たちのテーブルには、俺達四人とラス・カーズ将軍、ラローズさん、ラモットさんが座っている。
ラス・カーズ将軍以外は皆精霊をそばに浮かべて、他の騎士から見たらご一緒したくない食卓になっている。
「ねぇディケム君、さっきウンディーネ様が言っていた、君たち幼なじみはディケム君とラインで繋がって、ウンディーネ様の加護を受けているってホント?」
「はい、俺はまだよくわかって無いのですが…… そうみたいですね」
「私はディケムの加護を凄く感じるよ! 守られているって感じと魔法を使ったとき、力を補助してくれる感じがします」
「俺もそれ感じた! しかも自分の感覚以上に魔力が枯渇しない…… いや! ディケムから、魔力も送って貰えている感じがする」
ラローズさんが目を見張っている。
「うそ! ちょっとそれ ズルイ~ 私も入れてよそのパーティーに!」
「いやお前は俺のパーティーだろ……」ラス・カーズ様が呆れて言う。
「悔しかったら、私たちパーティーメンバーに、加護与えてみなさいよ! 加護!」
「――うぐっ! 何も言い返せない………」
「このマナのラインは妾も想定外だったが、なかなかに面白いぞ! こ奴らがもっと力をつけて絆がさらに深まったとき、凄いことになりそうで期待しておる。 ラインは繋ぎたくてもつなげられるようなものでは無い、偶然の産物、奇跡のような物じゃな」
ウンディーネの言う『凄いこと』、気になるけど…… 今は気にしても仕方がない。
自分たちがその器になった時、自然とわかるのだろう。
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