第五章9 護符と解呪
ララ視点になります。
翌日、私達五人はいつもの酒場で落ち合い、アダテ湖調査に皆で向かった。
領民の話に聞いていたアダテ湖。
今までは許可も無かったことから、遠目に見る事しかできなかった。
しかし今回は許可もおり、堂々と調査をすることが出来る。
その湖は、領民が神聖視する事も納得する、風光明媚な場所だった。
水は透き通り、湖面に揺蕩う波は穏やか。
とても呪いとはかけ離れた、神聖な場所に思える………
しかし………
私は感じていた、このキレイな湖に『怒り』と『恨み』の感情が満ち溢れている事を。
私はアダテ湖のマナを探る。
「完璧に水が呪いに汚染されていますね…… 予想通りヴォルタさん達の呪いと同じです」
「しかし、我々はどこで呪われたのでしょうか? 湖の水は現在使えないはず…… やはり村人が使っている毒沼、モエレ沼の水でしょうか?」
「モエレ沼は、明日私が調査してみます…… それよりもこの湖がもう限界そうです! ガシャ髑髏がいつ暴れ出してもおかしくない状態まで、怨念の力が溜まっています」
湖にかかった靄には、数体のスケルトンの影が見える。
ヴォルタさん達が戦闘態勢に入るが……
「今日は戦闘を避けましょう! 刺激を与えてガシャ髑髏を起こしてしまったら、街を巻き込んだ大惨事になってしまいます!」
湖をもっと調査したいが、スケルトンが至る場所に居て、調査が進まない。
「準備不足でした、今日は引き上げて出直しましょう」
私たちは、アダテ湖から引き揚げて、一旦解散して、いつものように夕刻に酒場に集まることにした。
私は宿舎に戻り―――
荷物から護符作り用の【和紙】を取り出し、明日の準備に取り掛かる。
この和紙は、ディケムの屋敷の地下宝物庫(ルナの洞窟)にしばらく安置して置いたものだ。
ルナの洞窟は常に神聖な力、浄化の力に満たされているので、安置したものに神聖力がやどる。
神聖力が宿った和紙は『護符』に使うと効力が跳ね上がるのだ。
ルナの洞窟は、私達幼馴染は自由に使っていいとディケムに言われている……
ほんと感謝しかない。
その和紙を取り出し、文字を書く墨汁にルナの加護を注ぐ、これで和紙の神聖力と相まって強力な『護符』が出来上がる。
護符に書くのは―――
【紫微大帝六十四霊符 其の四十四 諸悪回避】
この護符を持っていれば、悪霊から見えなくなる。
マナも隠し、気配を隠すことが出来る。
アダテ湖にさまようスケルトンに気づかれずに調査できるはずだ。
ついでに―――
【紫微大帝六十四霊符 其の六十三 怨敵帰伏】も作っておこう。
怨敵帰伏は、怨霊による祟りを除き防ぐ霊符だ。
今回のように呪い系の仕事にはとても役立つ護符だ。
それと式神もかな……
【思業式神】
式神も種類があるが、思業式神はララの思念によって作り出された、術者の能力がダイレクトに反映される式神だ。
今回はヴォルタさん達の様子をのぞき見する為に作った。
ヴィニコルと違い、ヴォルタさん達とは連絡の手段がない、せめて式神を通して状況だけでも把握しておきたい。
式神は様子が見られるだけで、【言霊】のように会話はできない。
「さて準備はこんなものかな?」
「ララって、精霊ルナ様の力、かなり使いこなしているよね!」
「そかな?」
「私、訓練場で精霊様の【召喚宝珠】でルナ様の宝珠使ってみたけれど、ルナ様の力は結構特殊で難しかったから……」
「あぁ、たしかにルナ様の能力は、直接攻撃もあるけど…… その真価は間接的なものが多いよね。 でも元々白魔法師だった私にはルナ様の力が合っているみたい」
「確かに、ララは今や白魔法師より退魔師って方が有名だもんね」
「あぅ…… あまり喜べないかなそれは…… ハハハ」
夕刻。
私は準備して置いた『護符』を携え、ヴォルタさん達と酒場の前で合流する。
そして打ち合わせの前に、ヴォルタさん達の呪いを解くために、人気のいない場所に移動する。
「では、解呪を始めます」
私は、ルナの加護をこめた水晶を五個、地面に置く。
それをマナの線で結び、星形の【五芒星】を描く。
「皆さん、その五芒星の中にお立ち下さい」
三人が恐る恐る中に入る。
「五行――! 木!・火!・土!・金!・水! 相克の意……」
⋘―――κάθαρση(浄化)―――⋙
五芒星の魔法陣が白く光り、ヴォルタさん達を包み収束する。
「お疲れさまでした、解呪終了です」
『おぉ~!』とヴォルタさん達は感嘆の声を上げる。
ヴォルタ達は感嘆したが………
今回の解呪、【浄化の魔法】と【五芒星の魔法陣】の二つを使った。
・カタルシス:浄化
・五芒星の魔法陣:呪いや邪悪なものを寄せ付けない魔除け
本当ならば『浄化の魔法:カタルシス』だけで事足りる解呪だった。
だがララはまだ『浄化の魔法』だけで三人を確実に解呪できる自信が無かった。
だから五芒星の魔法陣で浄化の魔法をブーストしたのだ。
ララは人知れず落ち込んでいたが……
自分の足りない所を工夫で補う事は、悪い事ではない。
「ありがとう助かった。 一つ聞きたいのだけれど、ララさん達は『呪い』、大丈夫なのか?」
「はい。 私たちは、属性加護が付与されている装備のお陰で、呪いは抵抗されていますね」
「つくづく羨ましい装備だな……」
解呪が終わり、酒場での打ち合わせに戻る。
「初めにヴォルタさん達これをお渡ししておきます。 三人分作っておきました」
私は【諸悪回避護符】【怨敵帰伏】【思業式神】を渡し、護符の説明をした。
「ララさんありがとう。
・諸悪回避護符:スケルトンに見つからないように湖の調査が出来る。
・怨敵帰伏:呪いにまた掛かる事を防ぐ。
・思業式神:ヴォルタ達の様子がララに見える。
って事ですね!」
「はい、ですが完全に防げるわけではありません、あくまでも補助として考えてください」
皆が頷く。
「それでは明日、ヴォルタさん達は湖の調査、アダテ湖は非常に大きいですから、できればガシャ髑髏の居場所を特定してください。 私たちは呪いの大元と思われる毒沼、モエレ沼を調査してきます」




