第五章8 毒沼と呪い
ララ視点になります。
領主官邸での面会を終え、私たちは酒場で情報整理とミーティングを行う。
「妲己は、妖狐でした」
私がそう告げると、皆が目を見張る!
「———え! 確定ですか?」
「はい確定です。 妲己の左腕のケガから、私の精霊ルナの残滓を感じました」
「精霊ルナって…… ララさんは精霊使いなのですか?」
「いろいろありまして、精霊ルナを使えます」
「精霊ルナって…… あの上位精霊月の妖精ルナ様ですか?」
「はい」
「だから、【白の退魔師】なんですね———」
「えっと…… 私の事は置いておいて、ガシャ髑髏の情報は初めて聞きました、ヴォルタさん達は何か情報はありますか?」
「ガシャ髑髏の情報は、俺達も初めて聞いた。 関係は分からないが、妲己宰相がアダテ湖を閉鎖した原因は、水死体なのに干乾びている遺体が湖に上がったって情報くらいかな…… 」
「その情報は私達も聞きました…… 今は情報が少なすぎて全てが想像の域を出ません。とりあえずこれから暫くは皆で手分けして情報収集を行いましょう」
「了解だ、そして夕刻にここで集まり、情報の共有でどうだ?」
「私達もそれでいいです。 今回はS級が二体と非常に難易度が高いので、単独では戦わない、単独で戦闘になったら逃げる方向でお願いします」
皆が頷き、その日のミーティングは終わった。
翌日、情報収集に向かう。
私とヴィニコルもお互い単独行動をとる。
だけど、ディケムからきつく言われているように、言霊をお互い繋いだ状態で個々に情報収集を行う。
問題が発生した時は、すぐに互いに駆けつけられるように動く。
ヴィニコルは主に都市での聞き込み、
ララはアダテ湖周辺に点在する村々を回ることにした。
村々を周り話を聞く。
事前の調査通り、アダテ領の村々は、聖なる湖アダテ湖での漁と、湖の水を利用した稲作が盛んな地域だ。
そしてその稲の藁で家畜を育て、米を利用した酒、米と水産物を利用した様々な名産を各村で作り、湖を利用した運搬流通で各村が潤っていた。
全てがアダテ湖を中心とした生活圏。
しかし今、どこの村も妲己宰相が施した結界により湖に入れない。
替わりに、森の奥にある『モエレ沼』の水を使うように御触れがでた。
『モエレ沼』は水は緑色に濁り、悪臭が漂う泥沼。
領民が昔から毒沼と呼んでいる沼らしい。
妲己宰相の指示でそのモエレ沼から水が引かれ、それを使えとお達しが出ている。
いきなり昔から毒沼と忌み嫌っていた臭くて濁った水を使えと言われても、みな納得いくわけがなく、抗議を唱え撤回を領主へ訴えたが駄目だった。
領民の全ての生活基盤が崩れてしまったのだ。
入れないように結界を張るとか、徹底している……
忍び込んだ者が出たことで結界が張られたそうだ。
だからララが各村に聞き込み調査を行ったが、大体の村で妲己宰相への不満ばかり。
まぁそれはそうだろう……。
その日の夕刻、皆酒場に集まり情報交換をする。
私からの新しい情報はなかった、宰相のへの抗議の言葉しか聞けなかった。
しかし、ヴォルタのパーティーメンバー、クインスから新しい情報が入った。
一〇年ほど前、先代の領主の時代に隣村の住人、百一人が忽然と姿を消したと言う嘘か真か分からないミステリー話だ。
他にも、ヴィニコルが聞いてきた、湖に現れると言う巨大なスケルトン伝説……
それはガシャ髑髏かもしれない。
ガシャ髑髏が本当だとすると、忽然と消えた百一人と関係が有るかもしれない。
さらにクインスから気になることを聞かれる。
「ララさん、私達このアダテ領に結構長くいるのですが、病人の数も多すぎるような気がします。 あと領民の元気がなさすぎると思うのです…… 確かに圧政に苦しむ領民は元気が無いものですが、逆に圧政に対抗する勢力なり、何かしら強い人たちは居るものです…… 」
「はい、これは私も気になっていました。 端的に言うと、領民みな『呪い』にかかっています」
「ッ———えっ!」
「そしてヴォルタさん達も、少しかかっています……」
「ちょっ! な…… なんで?!」
「ヴォルタさん達の呪いは、この後すぐに払いましょう」
「あぁ、ありがとう。 頼むよ」
「それで原因なのですが…… 領民全員が呪われるなど、これだけ大規模な呪いは見た事が有りません。 そして大規模だからこそ一人一人の呪いは弱い。 だけれどもその弱い呪いも長い年月欠けて蓄積されて、ここにきて重い症状の人も多く出るようになった……… これだけ大規模な呪いをかけられるのは、たぶん水ではないかと思います」
『水だと!』 皆が目を見張る。
「皆が毎日飲む水に、弱い呪いをかけておけば、誰にも気づかれずいつの間にか皆が呪いに侵される、デメリットは時間が掛かると言う事です。 なので犯人はこの領地の誰かとなりますね」
「やはり妲己か? 森の奥の毒沼の水を強制的に領民に飲ませ、皆に呪いをかけた?」
「ガシャ髑髏は今のところアダテ湖に居ます、モエレ沼との関係性は今分からないですね。 ですが単純に考えれば、ヴォルタさんの意見がシンプルですよね」
「いくら水が少し汚いと言っても、水を飲まなければ人は生きられませんからね……」
「酷い話です………」
「念のため聞いておきますが、ララさんの力で、領民全員を解呪することは不可能ですよね?」
「はい、上司のディケムなら出来るかもしれませんが…… 私にはこの規模を解呪することは不可能です、未熟者で申し訳ありません」
「いや! ララさんにできなければ、他には出来る人など居ないでしょう」
あの王都全体に結界を張るディケムは、はやり規格外すぎる……
あの規模の術を発動できれば、全員を解呪することも可能でしょう。
だけれども、今はその原因を断つ方が急務!
「あの…… 明日皆でアダテ湖を調査に行きませんか? そして申し訳ないのですが、やっぱりヴォルタさん達三人の解呪はその後にさせてください」
「何かあるのですか?」
「はい、ヴォルタさん達の呪いが、アダテ湖のガシャ髑髏から来る呪いなのか比べてみたいのです。 もし同じなら、領民の呪いはガシャ髑髏の呪いでしょう」




