第五章6 二尾の妖狐
ララ視点になります。
腕試しが終われば、あとは女子達の女子トーク時間だ!
男一人だけのヴォルタが可哀相だが、自分がハーレムのようなパーティーを作るのがいけないのだ。
「ちょっとララ様! そのローブ可愛いのに、性能とんでもなく無いですか!」
「ヴィニコル様の装備もカッコいいのに同じなのですか!」
「どこで手に入れられるのですか?」
「私も欲しい~~~~~~~~!」
どこの女性も、装備のお洒落度に不満を持っている様です。
「ララ様!」
腕試しが終わってから、ヴォルタさん達は私たちを様付で呼んでくる。
やめてほしいと言っても、実力主義ですからと聞いてくれない。
そしてその日は、結局酒場に戻り、食事をしながらお互いの事を話した。
ヴォルタさん達の興味は、やっぱりディケムの事。
この前の暗黒竜ファフニール戦の話は、シャンポール王が演説を行ったこともあり、人族中に響き渡っていた。
その日はもっぱら、その話で盛り上がった。
そして恥ずかしい【四門守護者】の話もした。
この呼び名は辞めてほしいな……
筆頭のラトゥール様や、私より強いギーズの事。
ちなみに『爆炎のディック』の話は、謎に包んでおいた。
噂話だけ独り歩きして、伝説になっていて怖くなってしまったからだ。
私とヴィニコルの装備は、ディケムが作ってくれたと話すと…… 唖然としていた。
ヴォルタさん達は私の装備をアーティファクトだと思っていたらしい。
これを人の手で作れることに愕然としていた。
お互いの事を話し合い、気心が知れてきたところで、仕事の話に戻る。
結局ヴォルタさん達はララ達が持っている情報以上に新しい情報は持っていなかった。
結果、しばらくは全員個々に動き情報収集をし、夜、この酒場に集まり情報をすり合わせる事で、この日の打ち合わせは終わりとした。
そして皆で酒場を出て、解散しようとしたとき――
物凄い妖気と殺気が凄いスピードでこちら向かってくるのを捉えた!
『ララ!』 ヴィニコルの声に頷く。
二人とも即戦闘態勢に入る。
夜更けに人通りも少なくなったけど、街中で襲ってくるとは!
私達の戦闘態勢に驚いていたヴォルタさん達も、今は強大な殺気を感じ取る!
即座に戦闘態勢に入った。
殺気と強大なマナの気配は直ぐ傍まで来ているはず!
「まだ来ない…… ちがッ――! 上!」
殺気の主を目視出来なく探していたが、上からそれは降ってきた!
ドォォォォォォォン———!!
「よっ…… 妖狐!!!」
空から降ってきたのは、五メートルは有ろうかと言う巨大な二尾の真っ白な狐!
私はヴィニコルと『言霊』で繋がる。
『ヴィニコル、【妖狐】だけど尾が二本ある! 九尾程ではないけれどすでに【仙狐】の域にあると推測する—— 相当強いと思うから、領民が逃げ切るまで現状維持!』
『了解!!』
「ヴォルタさん——! 領民の避難を!」
「了解!!」
私は自分の姿のクリスタルゴーレムを二体ほどだす。
妖狐は炎を吐きながら威嚇してくる。
なぜここで妖狐に襲われる?
ヴォルタ達との力試しで気づかれたのかもしれない――
妖狐、結構賢くない?
そんな事を考えていると、強力な炎攻撃が吹き荒れる!
私はクリスタルの盾を張り、炎から皆を守る。
火炎攻撃がクリスタルの盾にすべて防がれたのを見て――
妖狐は空を見上げて、今度は大声で咆哮する!
ギャォォォォォォォ———!!!!
その咆哮は、聞く者に腹の底から恐怖をこみ上げさせる!
その凄まじい鳴き声は、一種の音波攻撃!
もし近くに弱い者が居たら、聞いただけで気絶するだろう。
幸い、ララの回りに気絶する者は居なかったが……
その鳴き声は町中に響き渡り、領民に恐怖を植え付け、パニックに陥れた。
ララは焦っていた、ただでさえ最悪の街中での戦闘!
しかも領民はパニックに陥っている。
このままでは少なからず領民に被害が出てしまう。
妖狐は破壊的な咆哮の直後、今度は接近戦を仕掛けてくる!
その動きは驚くほど素早く―――
そして強力な爪と牙はミスリル制のような切れ味を秘めている。
ララはその攻撃をクリスタルゴーレムで防ぐ!
しかし妖狐の動きは早く、クリスタルゴーレムでは防ぎきれない。
ヴィニコルとヴォルタ達も応戦しているが、九尾の動きに全くついていけていない!
クリスタルゴーレムの間をすり抜けてくる妖狐をララはクリスタルの矢で迎撃して牽制する。
ララは出来るだけ多くの情報を得るために妖狐を観察する、情報は武器だ。
そしてララは感じる、妖狐も我々を観察しているのだと。
もし妖狐が我々を殺したいのなら、領民を盾に戦えば済むことだ。
しかし、それをしないと言うことは………
ララは思考の海に沈んでいく。
今までの妖狐の攻撃を見る限りだと、妖狐はクリスタルゴーレムを砕けない。
それ以上の防御力を持つララとヴィニコルは妖狐の攻撃では傷つかない。
だが………
妖狐の力がこれ位なはずがない!
ララが様子見なのと同じ様に、妖狐も様子見なのだろう。
なぜ妖狐が様子など見る?
私の実力を測っているの?
ララも一気に片を付けてしまいたいが…… 街中での被害を考えると難しい。
しかし、これ以上長引けば、どちらにしても街に被害が出てしまうだろう。
領民も避難して欲しいのに、周りには野次馬が集まってくる………
ララはヴィニコルに念話(言霊)ではなす。
『ヴィニコル! 領民が集まってきてしまいました――! ここでは戦いたくない! 妖狐を逃しますよ!!』
『了解!!!』
ヴィニコルが前に出て妖狐の視線を引き付ける!
クリスタルゴーレムは私を守っている。
私はオリハルコンの弓を天に向ける―――
真正面に妖狐を狙えば、避けられたときに後ろの野次馬に被害が出てしまう。
矢の威力も、もし深傷を負わせすぎたら妖狐は怒り狂ってしまうだろう。
程よい威力、弱くてもダメだ!
逃がすための攻撃は、倒すための攻撃よりもよほど加減が難しい。
私は一本だけ月光の聖なる力を宿す【破魔矢】を作り出す。
その矢は月の浄化の光りを凝縮して作り上げる、光の矢だ!
ララはその破魔の矢を空に向けて射る!
天高く放たれた弓は、弧を描き上空から妖狐に向かう―――
そしてララの狙い通り妖狐の左腕に突き刺さる!
その矢は妖狐の巨体からすれば小さな一本の矢でしかない……
しかしその矢は月の光を凝縮した聖なる破魔矢だ!
その効果は劇的だった!
刺さった破魔矢から、妖狐に浄化の力が流れ込み、その見た目以上に妖狐にダメージを与える。
ガルルルルアアアアアッッッ―――!!
妖狐がよろめき、ララを睨む!
しかしララは妖狐に見せつけるように、今度は破魔矢を一〇本程作りだす。
そして、今度は直接妖狐を狙い構える―――!
妖狐が目を見開きララを凝視する!
『さぁ 引いてください!』
ララが小さくつぶやくと―――
妖狐は天高く飛び上がり、天を駆けて逃げていった。
辺りは先ほどまでの激しい戦闘が嘘のように静まり返る。
そして、野次馬の領民がつぶやく………
「勇者ララが勝った!」
その一言で、今までの静寂を引き裂き、領民が熱狂的なララコールを唱える。
ララはその状況に、顔を引きつらせつつも、被害が少なく済んだことに安堵した。
『ふぅ…… なんとか逃げてくれました。 上手くいきましたね……』
『ララ。 お疲れさまでした』
しかしヴォルタは少し納得がいかないようだ。
『なぜ逃したのですか?』 ヴォルタが聞いてくる。
ララが口を開くより先に、ヴィニコルが説明してくれる。
「妖狐の力はあんなものではないはず、この街中で、しかも野次馬があれほど集っている状態で、ララは妖狐に暴れて欲しくなかったのですよ」
私は頷く。
ヴォルタも渋々ながら納得してくれた。




