第五章4 アダテ領
ララ視点になります。
任務に向けての準備を整え、翌日任務に出発する。
今回の任務地はマルサネ王国のアダテ領。
若くしてアダテ領領主となったナイアード・アダテ。
その領主を支える宰相の『妲己』。
この宰相妲己の悪政の調査と、必要ならば排除が目的になる。
マルサネ王国は、魔法学校で交流のあるコート王子と
(入学式の日、ディケムに水龍で流された王子)
その姉、戦士学校でお世話になったシャントレーヴ殿下の母国だ。
ディケムはエルフ戦役の折、大変お世話になったらしい。
だからディケムはマルサネ王国の座標を知っている。
って事で――
マルサネ王国までは、『転移陣』でひとっ飛び!
ディケムが転移陣を使って送ってくれる。
「ホント、『転移陣』って色々な意味で凄いよね! 私も使えるようにならないかしら……」
そんな事を呟いていると……
ウンディーネ様が出てきて教えてくれる。
「ララ。 人に向き不向きがあるように、精霊にも得意不得意はある。 まぁ精霊の場合はそれが属性となるのだが―― 転移とはマナの流れに乗る事。 つまり水を司る妾は得意な魔法になる。 じゃが逆に『絶対零度』で物質の動きを止める事に長けている氷の精霊フェンリルには苦手な分野になるのじゃ」
私とヴィニコルは頷く。
「ただ漠然と『転移陣』を使いたいと願うのではなく、その仕組み、理を理解して常に励むのじゃ。 やみくもに努力する事は、それは努力をしている振りなだけで、その実は只の怠け者の所業じゃ」
『はぁい……』
この頃忙しさを理由に、考える事よりも体を動かすことで誤魔化していたことを見透かされたようだ。
さすがウンディーネ様…… 私の性格まで熟知されている。
「それじゃあララ、ヴィニコル―― 頑張ってね」
「うん、ありがとうディケム。 頑張って来る」
私たちは転移陣で送ってくれたディケムと別れて、アダテ領に向かう。
ディケムにはアダテ領から少し離れた場所に送ってもらった。
そこからはアダテ領の首都まで、近隣の村々で情報収集のため聞き込みをする。
アダテの都市はとてもきれいな湖、アダテ湖の恩恵を受けて発展した町、都市らしい。
その湖は、飲み水、漁、水田、交易 領民すべての要。
主な主産業は水田を利用して作られる穀物、その穀物で作られる酒、穀物を使い育てられる畜産業になる。
アダテ領の人々の生活を支えるアダテ湖は、聖なる湖、霊場として、領民に神聖視されていた。
現領主の『ナイアード・アダテ』は、前領主で父のシャコティス・アダテが急死したため、まだ若くして『男爵位』と『領主位』を襲爵(親から爵位を引き継ぐ)し後を引き継いだ。
ナイアード・アダテはとても優秀な子供だった。
だがいくら優秀でも子供は子供、アダテ領を収めるにはまだ早かった。
そこに現れたのが宰相の【妲己】。
妲己がどこから現れ、どのようにしてナイアード・アダテに取り入ったのかは分からない。
いつの間にか家臣の末席に座り、次々に功績を上げ――
あっという間にナイアード・アダテの信頼を勝ち取り、宰相まで上り詰めていった。
そして宰相に上り詰めた妲己はアダテ領の運営を一気に掌握してしまった。
そこまでは妲己の悪い噂は無い。
むしろ若くして領主になってしまったナイアードを心配していた領民は、素晴らしい宰相が来てくれたと安堵していたくらいだ。
だがある事件をきっかけに、妲己宰相は変わる。
神聖なアダテ湖で変死体が上がったのだ。
領民の話では、水死体というのは普通膨れ上がるものだ。
しかしこの時の水死体はなぜか死後数週間経っているのに、ミイラのように干からびていたそうだ。
それからすぐに、妲己宰相は領民の湖への立ち入りを一切禁止にする。
領民も最初は、事件が起きたばかりではしょうがない。
少しすればすぐに禁止も解除されるだろうと、安易に考えていた……
しかしその立ち入り禁止は解除されることは無かった。
湖を使えるのは、ナイアード・アダテ領主以下、宰相とごく一部の上級貴族のみ。
領民の人々は今後近くの森にある沼、領民からは昔から知られている通称『毒沼』から引いた水を使うように通達された。
毒沼の水は緑に濁り、悪臭が立ち込め、とても飲めたものではなかった。
アダテ湖はアダテ領民の生活、経済の要、そこを禁止されては領民の生活は日々困窮していった。
困窮した領民は、何度も領主に嘆願書を出し、アダテ湖の開放を訴えたが、門前払い。
一部の領民は武力に訴えたが、妲己宰相の手腕ですぐに鎮圧された。
領民はいろいろな方法で領主に訴えたが、すべて妲己宰相により潰されていった。
領内だけでの解決を諦めた領民は、マルサネ王都に直訴した。
そして王都からの使者が何度も領主に送られたが………
現状は一向に改善されなかった。
「と云うのが現状みたいですね」
「なるほど、事前の調査情報と同じですね」
目新しい情報が無かったので私が悩んでいると……
「ララ、その宰相が神獣級の妖怪という噂に、関係があるかもしれない噂話が有りました。 湖にこっそり忍び込んだ領民が、湖に多数のスケルトンを見たと言う話があるのです」
「それは、宰相がスケルトンを使って湖で何かをやっているという事でしょうか……」
「これだけの噂話では、判断しかねます。 このまま話を集めながら、マルサネ王国から派遣されている勇者ヴォルタと会いましょう」
「勇者ヴォルタ? あの妲己宰相との口論に負けて、カッとなって斬りかかった、マルサネ王国の勇者ですか?」
「ハイそうです」
「まだアダテ領に居るのですか?」
「はい、明日に酒場で会えるよう手配しました」
「おぉ! さすがヴィニコルですね!」




