第五章2 Sクラス任務
各国からのソーテルヌ総隊への派遣要請は、毎日、大量に来ているらしい……
『らしい………』というのは、俺のところに来る前に、マール宰相が最低限まで絞ってくれているからだ。
ソーテルヌ総隊でなくてもいい依頼は、他の王国騎士団に極力回される。
俺の所まで来る依頼も、中級、上級と難易度が分かれる。
中級はコルヴァス隊、カミュゼ隊の小部隊に任せる。
あと奉仕活動は、総隊全員で行う。
たまに来る上級依頼、このレベルの案件は俺を始め、ラトゥール、ララ、ギーズ くらいしか担当できない。
もちろんトップの俺が出ることはほぼ無い。
そしてラトゥールは二番手だが……
総隊総帥であり魔神軍太守として、滅多には出動しない。
よって上級の仕事の大半はララとギーズを隊長に編成して行われている。
ディックも、『早く俺も!』と頑張っているが…… 覚醒はまだしていない。
ララは、この上級の要請依頼で着々と実績を上げていた。
ララに頼む依頼は退魔系の依頼が多い。
ララの使える精霊ルナが浄化に特化した精霊だから、需要が多いのだ。
ギーズは戦略的な能力が高いので、もっと規模の大きい戦争などが担当だ。
この頃のララは精霊ルナの浄化の力を使って、対魔師として各地を飛び回っていた。
補佐は大抵戦士学校で意気投合したヴィニコルが多いい。
よほど気が合うのか、仕事に応じて別の隊員をつけた時でも、ヴィニコルもつけて欲しいと言ってきた。
彼女達はもちろん学生だから学校も行くのだが……
ララへの派遣要望が多く、仕事の時はララもヴィニコルも学校免除になる。
まぁ、学校と言っても、立派な軍人を育てる為の学校なので、よっぽど仕事に派遣された方が勉強になるからだ。
「今回の依頼は?」
「はい、マルサネ王国のアダテ領 妲己宰相の悪政です」
「ラトゥール…… これは俺達案件で良いのか?」
「はい、この案件はマルサネ王国が何度かアダテ領に使者を送ったのですが解決せず、先日マルサネ王国の勇者までも派遣しましたが、返り討ちにあったそうです」
「勇者が返り討ちって……… 死んだのか?」
「いえ、口論で言い負かされた勇者がカッとなって斬りかかり、手玉に取られただけです」
「勇者がカッとなって斬りかかるって……… ダメダロウ」
「はい、勇者失格ですが腐っても勇者。 武力で勇者を負かす宰相など聞いたことがありません。 そこで、私の部下が下調べしたのですが、アダテ領の宰相、人では無いようです」
「なるほど……… って! 人ではない!?」
「しかも神獣クラスの妖怪だそうです」
『神獣クラス!』 俺は目を見開く。
「これは俺が行かないといけな———」
「——ララにいかせましょう!」
「え?」
「今のララならばいけるでしょう。 ララ達にはもっと強くなって貰わなければなりません」
「………………。 そうか……… 分かった! ラトゥールが言うなら大丈夫だろう」
ラトゥールとララは、表面上は犬猿の中だが――
実際はお互いを認め合って信頼している。
「ならば、あれを渡しておこう」
「あれとは、ディケム様が一生懸命作っていたあれですか?」
「あぁ、作るの結構大変なんだ。 時間がかかるから、少しずつしか作れない」
「あの…… ディケム様。 私には頂けないのでしょうか?」
「ん? ラトゥールも欲しいのか?」
「それはもう! ディケム様の手作りなんて、絶対欲しいです! あの…… それを除いても装備として大変素晴らしいものですから! 七属性の精霊結晶を練り込んだ『オリハルコンの糸』で作った防具!! その見た目は布で作った装備なのに、七属性の精霊結晶の力か、防御力は伝説の『アダマンタイト』を超える程かと! まさに女性のニーズに答えた、革命装備だと具申いたします」
「おぉ……、そ、そんなに褒めてくれると嬉しいぞ。 糸から作って防御力上げるのかなり大変なんだよ。 もうね職人技! ララも喜んでくれると嬉しいな」
「喜ばなかったら私が頂きます!」
俺は、ララに依頼の内容を伝え、二時間後にサポートを連れて執務室に来るように伝えた。
隊員に仕事を依頼する場合。
仕事の内容を伝え、先ずはその依頼に適したサポートを自分で選ばせる。
そしてその組み合わせで良いのか、ラトゥールが審査し、了承・変更・追加を行なう事になっている。
今回もララが連れてきたのはやはり、ヴィニコルだった。
「ソーテルヌ閣下、ラトゥール総帥! ララ・カノン、並びにヴィニコル参りました!」
ララが軍での規律を守り、堅苦しい挨拶をする。
「ご苦労様ララ、ヴィニコル」
挨拶が終われば、少し砕けた話し合いになる。
「ララは本当にヴィニコルが好きなんだな」
「好きっていうか…… まぁ好きだけど。 相性が良いのよね?」
ヴィニコルが照れている。
「ヴィニコルもララのお守りで毎回大変だろうけど、宜しくね」
「はい! むしろララ様には、いろいろ連れて行ってもらい、皆から妬まれているほどです! ララ様、ギーズ様への依頼は上級難易度の物がほとんどです。 危険も伴いますが、そこでの経験は得難いものです。 これからも使っていただけると嬉しいです!」
軍事学校に通っている人たちは解っている。
今後生き残るためには、ある程度の危険は顧みず、どん欲に経験を積んでいかなければ生き残れない事を。
この総隊で得られる経験が、どれほど貴重な経験なのかを。
「ララ。 この度の依頼もサポートはヴィニコルでいいでしょう」
ラトゥールの了承が貰え、二人がホッとしている。
「では―― ララ、ヴィニコル。 先に伝えているが、この度の任務は神獣が関わる案件だ。 あえて難易度を付けるとするとS級だと思う。 大丈夫か?」
「はい! やらせて下さい!」
ララもヴィニコルも即答だった。
『ララが強くなったな~』と考え深く思う。
エルフ戦、ダンジョン攻略、グラディアトル大会、暗黒竜戦と……
誰が聞いても呆れるほどの実戦経験を積み自信が付いたのかもしれない。
「ではララ。 今までの任務遂行の恩賞も兼ねて、この装備を渡す」
俺は真っ白のローブをララに渡した。
「えっ……? このローブ可愛いけど…… なんか内包するマナがおかしいんだけど?」
ララはすっかりマナを見定められる目を獲得している。
ヴィニコルも、この頃分かるようになってきたようだ、素晴らしい。
「これは―― 七属性の精霊結晶を練り込んだオリハルコンの糸で作った防具だ! その見た目は布で作った装備だが、七属性の精霊結晶の力で、防御力はオリハルコンを超え伝説のアダマンタイトに至る! さらに精霊の七属性も付与されているから、各種状態異常への耐性もある。 どうだ? 見た目と防御力を兼ね備えた、女性の為のローブだ!」
ヴィニコルが目を見張り、ローブを凝視している。
「………………。 ディケム…… この頃何か一生懸命作ってると思ったら、こんなの作ってたのね」
うっ! ララが白い目で見てくる……… オカシイ
「こら! ララ! そこは泣きながら喜ぶところでしょ!? 要らないなら、私にちょうだい!」
「ラトゥール様。 いらない訳ありません! ディケムが私の為に一生懸命作ってくれたものです! 喜んでもらいます」
いつもの二人の言い合いが始まりそうなので、まじめな話に戻す。
「いや、冗談は置いておいて。 確かに時間はかかるけれど、今使える力で最高の性能を上げる方法を考えていたんだ。 結論としては、質と属性を最高まで上げた金属糸を作り、それで編む! これにより金属の性能を一段階上げることが出来たんだ。 そして、金属の板より編まれた金属の方が強いんだ。 デザインは二の次だよ」
「はい! その素晴らしさは手に持てば分かります」
「使って意見を聞かせてくれララ」
「はい」
「それからヴィニコル。 君には同じ物は用意出来ないが―― 同じ製法でミスリルで作ってみた。 防御力はオリハルコン級、各種状態異常への耐性はララと同じだ。 受け取ってくれ」
ヴィニコルが固まっている……
「どうしたヴィニコル! 要らないのなら私が―――」
ラトゥールがそう言いだすと、ヴィニコルがすぐに服を隠すように受け取る。
「いっ! 要らないなど―― とんでもありません! あまりの嬉しさに、頭が真っ白になってしまっただけです!」
ちなみに、ヴィニコルの服は赤を基調とした貴族騎士のデザインに仕立ててみた。
気に入ってくれると嬉しい。
「ヴィニコル。 それは俺の手作りだが、性能的に多分市場に出してはいけない物だ。 もし不要になった時は売るのではなく、俺に返却するか、確かな者に引き継いでくれ」
「はい! これほどの装備、もう私は手に入れることは出来ないでしょう。 家宝に致します!」
「取扱いさえ間違わなければそれでいい。 だがヴィニコルにはもっと強くなってもらい、それ以上の装備を付けてもらわなければならない。 そう思っていてくれ」
ヴィニコル、が目を潤ませながら『はい!』と頷く。
「そのご期待に添えるよう、精進致します。」
「それからもう一つ! 二人共この『腕輪』を付けて行ってくれ。 そこについている宝石は『言霊』を付与した精霊結晶だ。 そこにマナを注いで、連絡したい相手を念じれば、何度でも連絡できるはずだ。 この腕輪も精霊結晶が付いているので取り扱いは注意してほしいが…… 万一の場合は致し方ない破棄してくれ! どうせ、俺の意に添わない者は使うことは出来ない」
二人とも頷く。
「それではララ、ヴィニコル。 あとはラトゥールと細かい打ち合わせをして、二人とも精霊宝珠を一つずつ選んで持っていきなさい。 今回の相手は強敵だ、無理をしないで、難しいと思ったら俺に連絡するんだよ」
「はい!」




