第四章43 戦争の抑止力
みなに指示を与えた後、俺とラトゥールも城へ向かう事にする。
せっかく従属させたファフニールに乗って、城まで行きたかったが――
さすがにそれはダメだろう。
面倒だが、今回はおとなしく馬車に乗って移動だ。
ファフニールは先ほどから、なぜかラトゥールの肩に乗っている。
なんか気になるけど…… 気にしたら負けだ。
馬車の窓から、街の様子を伺いみる。
王国騎士団の騎士たちも協力し合い、王都民の誘導に励んでいる。
先ほどまでの、暗黒竜との戦闘が嘘のように……
王都民たちはいつもの平常に戻っていく。
馬車が王城前に着く。
俺とラトゥールが馬車を降りると、それまで人で溢れかえっていたエントランスが、水を打ったように静まり返る。
そして俺達が城へ向かい歩きだすと…… 海を割ったように皆が道を空ける。
ラトゥールは俺の後ろについて歩く。
皆、ラトゥールの肩に乗っている黒い竜を見ているが、これがあの暗黒竜だとは誰も気づかない。
察しがいい者ならば気づけたのかもしれない。
俺が暗黒竜に勝った事、竜の死骸が無い事、ラトゥールが肩に黒い竜を乗せている事。
だがもし気づけたとしても…… 俺、ラトゥール、暗黒竜の三人を止められる強者は人族には居ない。
そして俺たち三人は、誰にも呼び止められることもなく謁見の間に通される。
謁見の間には、王国騎士団将軍と副官たちが王を守るように並んでいる。
まぁ、怪しい竜を肩に乗せて赴いてくればそうなるよね。
俺たちはいつも通りに、シャンポール王に挨拶をする。
王の側には王妃、ミュジニ王子、フュエ姫、そしてマール宰相も居る。
緊張で張り詰める謁見の間だったが……
その雰囲気に吞まれることもなく、フュエ殿下だけが全幅の信頼で俺に笑顔を向けてくる。
「陛下! ディケム・ソーテルヌ、ただいま戻りました! 王都守護者の責務を果たし、暗黒竜の脅威を退けた事を此処に報告いたします!」
『おぉぉぉ!!!』 謁見の間が沸き立つ!
思わず『脅威を退けた』と遠回しな言い方をしてしまった。
『暗黒竜を倒した!』と報告したいのだが……
怪しげな黒い小さな竜がラトゥールの肩に乗っている。
フュエ殿下を除く謁見の間の皆が、この竜に注目している事は誰が見ても明らかだ。
この注目の中で、皆にこれがあの暗黒竜ですと、本当のことを話しても大丈夫だろうか?
みんなパニックにならないよね?
そんな事を考えていると…… 王よりお言葉を貰う。
「ソーテルヌ卿、いつもながら世話になった。 始祖シャンポール様、アウラ様の宿願を果たしたと聞き及んでおるぞ!」
王の賛辞の後、マール宰相が、王が聞きにくい事をつけ足す。
「それでディケムよ…… そのラトゥール殿の肩に乗っている竜だが―― その…… やはり…… 暗黒竜なのか?」
「陛下! そして皆さん! その事を含めて、これから説明いたします」
俺は、愚者の手をかざし、アウラを呼び出す。
アウラが顕現すると――
その場の皆、王も含めて全ての者が、始祖たる精霊アウラの登場に傅いた!
「シャンポール王国の始祖たる精霊アウラです。 この度、私と契約をしました」
シャンポール王が目を見開く。
「始祖アウラ様! お初にお目にかかります。 現シャンポール王国国王のデュジャックと申します」
「あぁ、知っているよ。 僕はねずーっと君たちを見てきたのだから」
王も王妃も王子も王女もみな、嬉しそうに微笑んでいる。
精霊ではあるが…… 建国の祖がずっと見守ってくれていたのだと分かれば、それは嬉しい事だろう。
「ファフニールの封印ももう必要ないし、ディケム様とも契約したから、これからはもっと皆と会えるよ、きっと!」
アウラも嬉しそうだ、シャンポールとバーデンとの約束を守り続けた小さな妖精は。
その子孫に彼らの面影を重ねているのだろう。
しばしの間、王族とアウラの歓談を聞いていたかったが……
アウラとの顔合わせが終わったようなので、本題に入る。
俺は、王家に代々伝わる始祖の話に間違いがある事をみなに話した。
人族のシャンポール、ドワーフ族のバーデン、金属の精霊アウラ、そして暗黒竜ファフニール。
彼らの物語を皆に話した。
三人が、仲が良かったこと……
神によって引き裂かれたこと……
ファフニールを封印するためにアウラが作られたこと……
そしてファフニールを封印したが、それでもシャンポールとバーデンはファフニールと一緒に居るために、この地に国を作ったこと―――
最後に、俺がファフニールを倒し、従属の契約を交わしたので、ファフニールはもう危険では無い事を皆に話した。
「これがこの度の暗黒竜事変の全てです!」
謁見の間に集まった貴族達、将軍達はみな『ポカ~ン』と言葉もなかった。
まぁ~ そうだよね。
王族以外は、いきなり暗黒竜が顕現するまでは、暗黒竜や精霊アウラの存在すら知らなかった。
いつも通りの日常を送るはずだったのに……
突然、暗黒竜、精霊アウラ、始祖シャンポールの神代の話、そんな壮大な話を聞いても皆の反応はそうなるよね。
固まった思考をフル回転させ、皆が騒めきだしたころ……
シャンポール王が鎮める。
「ディケムよ! この度も其方には本当に世話になった。 あらためて礼を言う」
「有難き幸せ! ですがこれは『王都守護者』たる私の務め、責務を果たしたまででございます!」
一通りの社交辞令のやり取りを終えた後、俺は本題に入る。
「陛下! この度の暗黒竜事変は、各同盟国の留学中の王族貴族、全王都民が避難するという大事に至り、誰しもが知る公然の事実となりました! そして多くの人々がファフニールを目撃しています。 もう隠し通すことは出来ません! 国民に発表する事を具申いたします」
『うむ!』と王が頷く。
「そして地下都市のウォーレシア王国をどうするかは、王のご判断にお任せいたします…… あまり重大な発表が多すぎても、民は混乱いたします。 時間も必要かと私は思います」
『うむ!』 さらに王が頷く。
「そして陛下! ファフニールを公表する事には別の意味も御座います! ファフニールが私の傘下に入ったと言う事は。 人族が【メガメテオ級】の【メガフレア】を手に入れたことになります」
『おぉぉ!!!』と謁見の間が騒めく。
「エルフ族は、メガメテオを戦争の抑止力に使っていました。 ファフニールは他の種族に対して政治の切り札になるでしょう」
シャンポール王、マール宰相、将軍たちが息をのむのがわかる。
そしてマール宰相が俺に言う。
「その通りだ…… そしてメガメテオ級の天災を二度も破り、暗黒竜を従属させたお前を、他国はメガメテオ以上に脅威に思うだろう! ディケムよ、お前は人族の切り札だ! 身の回りには気おつけるのだぞ!!」
「はい、肝に銘じます。 それにマール宰相も、私の知らない所で守ってくれているのでしょ?」
宰相は『ばれているのか……』と苦笑いをしている。




