第四章42 新たな仲間
さて、ファフニールとのやり取りは『言霊』を通して、俺の部下たちはリアルタイムで聞いている。
わざわざ説明する必要はないが…… そう簡単な事でもないだろうな。
あたりを見回すと、コロッセウムはその原型を留めず。
至る所が高熱による溶岩化と結晶化を起こしている。
戦っているときは必至で考えなかったが……
こんな惨状になる戦いを、結界の外から見た人はどのように思ったのだろうか。
考えただけでも恐ろしい。
「結界班、結界を解除!」
俺はギーズ達に指示する。
あらためて周りをよく見ると、結界の外に住民の避難誘導を指示した部下達や、コルヴァス、ティナ だけでなく……
ドルジャ、トプハネ、ヴィニコル、カヴァクリデ、ギュヴェンなどの戦士学校の学生も集まっていた。
避難誘導はきちんとしたんだろうな……
みんな結界が破られたらどうするつもりだったんだ…… まったく。
結界が解除されると、ララが泣きながら走ってきて俺に抱き着く。
「でぃげむ~~~~ぶじでよがっだ~~~~」
ヒロインとの感動の抱擁…… って感じではない。
流石ララだ、涙と鼻水でグショグショだ……
そしてすぐにラトゥールが、どこからか飛んできて俺の前に片膝をつく。
「ディケム様! ご無事で!」
ん? ラトゥールも少し涙ぐんでいるように見えた。
そのあと、続々と俺の周りに人が集まってくる。
そして、皆が片膝をつき俺に敬意を示す。
「ディケム様、御無事で何よりです! そして我々を、この王都をお守りいただき感謝いたします」
カミュゼが代表して俺に謝礼を述べると、皆が頭を下げた。
「皆もよくやった! 町の被害状況はどうだ?」
カミュゼが報告してくれる。
「はっ! コロッセウムの観客誘導、街の住人の避難用シェルターへの誘導。 最初にパニック状態が起こりましたが、ラス将軍率いる王国軍第一部隊の合流もあり、首尾よく完了致しました。 シェルターに入れなかった人々は、城を開放して頂き、無事避難完了です。 パニック時に多少のケガ人が発生しましたが、すぐに医療班が対処、死人は出ませんでした」
そして、次にラトゥールが報告する。
「各国要人は速やかに城のシェルターに移動しました。 ケガ人等は有りません」
「そうか、皆よくやった。このコロッセウムの惨状で、死人無しは上出来だ。 今後とも宜しく頼む」
現状の報告が終わると、次に俺が説明をする。
「それでは私からの報告だが―― 『言霊』で皆分かっているとは思うが、暗黒竜ファフニールを従属させた。 ちなみに、この肩に乗っているのがファフニールな」
ファフニールは呑気に俺の肩の上で毛(鱗?)づくろいをしている。
だが皆が息をのむのが分かる。
『言霊』を付与していなく、事の顛末を知らなかった、戦士学校のドルジャ、トプハネ、ヴィニコル、カヴァクリデ、ギュヴェンなどは、地面にへたり込み、立てなくなる始末。
今は小さくてカワイイが、少し前にはメガフレアをぶっ放した竜だ。
すると、珍しくラトゥールが小さい娘のように涙ぐみ俺に言う。
「ディケム様! 先程暗黒竜が放ったメガフレア、あれはメガメテオと同等のエネルギー量が有りました! もう一人で戦うなど、あのような危険なまねはおやめ下さい!」
メガメテオと同等のエネルギー量と聞き、皆が改めて息をのみ静まり返る。
ラトゥールの言葉を聞き、ララも震えている…… 同じ恐怖を感じたのだろう。
「あれは確かにヤバかったな! 以後気を付けるが…… 俺がやらなければ、皆が死ぬような事が起きれば次もやるよ」
皆が黙り込み、俺に頭を下げる。
ラトゥールも自分の不甲斐なさに悔しがっている。
「皆、気を落とすなって! こんなとんでもないの、そう何度も出てはこないだろう! 次は皆の力も借りるとするよ!」
場が暗くなったので、ファフニールを摘み上げ、皆を元気づける。
しかし、摘み上げているのが暗黒竜なだけに、みな微妙な空気だった……
それから、俺は装備した愚者の手を前に出し、アウラを呼ぶ。
「みな! 今回仲間になったのは、ファフニールだけじゃない。 精霊アウラとも契約することが出来た!」
アウラが皆に挨拶する。
アウラの報告は、皆明るい顔で聞いている。
「アウラは金属鉱物の精霊になる。 この二名、ファフニールとアウラの仲間入りの意味は非常に大きい!」
皆頷き真剣に聞いている。
良い機会なので、俺は皆に今後の方針を告げる。
「ソーテルヌ総隊は、俺個人の部隊としては戦力が大きくなり過ぎた。 これまでも、もうすでに各国からうちの総隊への要請が多々来ていた。 今まではなんとかマール宰相に断ってもらっていたが…… 今回の件でもう断る事は難しくなるだろう」
皆が頷く。
「これを機に、ソーテルヌ総隊は部隊を再編成し、各国への支援を行う! みな心してくれ!」
俺がそう宣言すると、カミュゼ達が頷く。
そしてコルヴァスが立ち上がり、進言を申し出てきた。
「ディエム様! ソーテルヌ総隊の部隊再編制、私とティナも入れていただきたく存じます!」
『あぁ、そのつもりだ』 俺がそう言うと、コルヴァスは安堵したようだ。
「ありがとうございます! あの…… もう一つお願いが有るのですが、聞いていただけないでしょうか?」
コルヴァスの願いに俺が頷くと――
控えていた、ドルジャ、トプハネ、ヴィニコル、カヴァクリデ、ギュヴェンが立ち上がる。
「ドルジャ、トプハネ、ヴィニコル、カヴァクリデ、ギュヴェン。 この五名もソーテルヌ総隊へ志願いたします! 末席に加えて頂けないでしょうか!?」
俺は笑みを浮かべて答える。
「あぁ、分かった。 マール宰相とドーサック先生に話して、君達を引き受けることを約束しよう」
志願した五名が喜び合っている。
「私の部隊はかなり厳しく忙しいぞ! 覚悟しておくように!」
『『『はっ!』』』 戦士学校の七人が答える。
「そう言えば、ヴィニコルとトプハネは鎧を欲しがっていたな」
二人の女子が『え?』と戸惑いを見せる。
「俺の部隊の装備は、追々色々考える事にしているが―― とりあえず今は、君たちを地下都市ウォーレシア王国へ連れていく。 ウォーレシア王国についてはコルヴァス、カミュゼに聞くように。 ウォーレシア王国の武器防具屋は全て鋼製品だ、オーダーメイドの装備を作ってくれるぞ!」
『オーダーメイドの鋼装備』と聞き、ヴィニコルとトプハネが飛び跳ねて喜んだ後に、我に返り顔を赤らめている。
「ディ、ディケム様…… 鎧の事、聞いていらっしゃったのですね……」
「おしゃれの為に、あれだけの殺気を出せるモノなのかと、感心したよ」
二人が泣きそうな顔をしている。
「ウォーレシア王国での装備の発注費用は、全て部隊で持つので心配しない様に!」
『おぉぉぉ――!!』 と皆から歓声が上がる!
「よし! そろそろ避難も解除しないと、シェルターで不安を抱えている住人が可哀相だ。 俺とラトゥール以外は、避難解除と改めて住民の誘導だ!」
俺は部下たちに次の指示を与えていく。
「ラローズ、ララ、ギーズ、ポートは、家に帰って休息しろ。 これは命令な!」
ララとギーズが不満顔だったが命令だ。
ラローズとポートは正直倒れそうな顔色をしている。
ララとギーズが休まないと、二人が休めない。
「俺とラトゥールはこれから王城へ説明に行く! 以上だ!」
うちの総隊兵はみな優秀だ、疲れているだろうに、全員迅速に動き出す。




