第四章41 暗黒竜ファフニール
俺がダメージを回復して暗黒竜に対峙し直す中―――
結界維持チームはギーズを中心に気丈にも、すぐに破壊された結界の再構築に取り掛かっている。
だが……
ラローズとポートがマジックポーションを飲んでいる。
二人は俺とマナで繋がっていない。
ラローズ、ポートの魔力消費が激しく、そろそろ限界なのが見て取れる。
ララとギーズも俺からマナ供給を受けているとしても、グラディアトルで疲れ切っているはずだ。
⦅もう、俺と暗黒竜を囲う結界修復はこれが最後だと思ったほうが良いな⦆
俺は、暗黒竜との決着を決意する。
今の圧倒的不利に見えるこの状況下でも、そう決意できる理由が俺には有った―――
破壊により巻き上がった爆煙と土煙が収まっていくなか、俺は暗黒竜を見る。
そして予想通りの暗黒竜の現状を確認する!
ボロボロに傷ついている暗黒竜が見えてきたのだ………
マナ探知で気づいてはいたが……… お粗末な結果だ。
頭に血が上り、結界の強度も確認せず、
『撃てば結界など消し飛び、何とかなるだろう――』
と思いメガフレアを撃ったのだろう。
凄まじい威力だったのは認めるが、結局結界を破れず。
結界内をメガフレアが吹き荒れ、自分もメガフレアで大ダメージを負ったようだ。
ポートとラローズがもう限界なので、悪いがこのチャンスは生かさせてもらう!
俺は、暗黒竜の頭上に飛ぶ!
愛刀の鬼丸国綱に神気を送り込み闘気を練り上げる。
大ダメージを受け、呆然としていた暗黒竜は、膨れ上がる俺のマナに気づき、黒い結界を自分に張った。
暗黒龍の結界を見て俺は―――
金の精霊アウラの固有スキル【創作】で、自分の回りに剣を次々に作り出していく!
するとアウラから念話が来る。
⦅ディケム様! 先ほどミスリルの刃を使われましたが、ディケム様と契約して、私の神気が格段に上がりました。 だから今作れる金属はオリハルコンです! もっと神気が上がれば、アダマンタイトやヒヒイロカネも作れるようになるからね!⦆
『ッ――っな!』 オリハルコンが作れる! それは凄い!
俺は次々オリハルコンの剣を空中に作り出す!
そして俺の周りには一〇〇〇本のオリハルコンの剣が作り出された。
そのオリハルコンの剣にありったけのマナをぶち込む!
一〇〇〇本の剣は黄金に輝きだし、爆発寸前のエネルギーの塊になる。
「悪いが暗黒龍、そろそろ幕引きとさせてもらう! 安らかに眠れ―――!」
爆発寸前までエネルギーを溜め込んだ、殺傷能力だけを極限まで高めたオリハルコンの剣が、次々と暗黒竜へと射出される!
オリハルコンの剣は暗黒竜の結界にぶち当たり、次々爆発していく!
さすが破壊だけを目的に作ったオリハルコンの使い捨て爆破剣!
その破壊力は凄まじい!
暗黒竜の結界は成すすべなく砕け散り、剣は次々に暗黒竜に突き刺さり爆発していく。
アウラが目を見開き『マジか!?』という顔で俺を見て来る………
使い捨てのオリハルコンの爆破剣、たしかにマナが有ればいくらでも作れるが……
オリハルコンを使い捨てに使ったのは、俺が初めてだったのだろう。
その圧倒的な破壊力で、さすがの暗黒竜も見る見るマナが減っていく。
「これでとどめだ!!!」
俺は最後のオリハルコンの爆破剣一〇〇本と一緒に、神気を練りに練り込んだ鬼丸国綱をかかげる―――!
そして奥儀、『金翅鳥王剣』を放つ!
「ちょっ! 待てっ!」
『ん?』 なんか今暗黒竜が命乞いしたように聞こえたぞ??
だが、放たれた攻撃は止まらない………
怒涛のように『奥義』と『オリハルコンの爆破剣』が暗黒竜に降り注ぐ。
グオオオオワワワワワワワワワ――――………………
全ての攻撃が全弾命中する!
その攻撃のエネルギー量と暗黒竜の残りのマナ量から計算すると―――
これで決着だろう。
爆煙が明けると、そこには倒れ伏した暗黒竜が居た。
『ん?』 暗黒竜のマナがわずかに残っている……… マジカ!
最後の瞬間、力を振り絞って結界でも張ったのかもしれない。
俺は愛刀:鬼丸国綱にマナを流し込み、力をためながら暗黒竜の傍まで歩いて行く。
「何か言い残すことは有るか?」
「お前は本当に人間か?」
「あぁ、人間だ」
「そうか…… あのシャンポールの奴のような面白い人間がまた生まれたのだな」
⦅………………⦆
「その言い方だと、始祖シャンポール王と仲良かったみたいに言うじゃないか?」
「あぁ、我とシャンポールとバーデンは親友だった………」
⦅………… ん?⦆
「人族の伝承には、そのような事は書かれていなかったぞ? 精霊アウラもその事を知らない」
アウラが出てきて驚いた顔で暗黒竜を見る。
「精霊アウラか…… その心優しき精霊を傷つけないよう、秘密にしていたのだろう。 友人を殺さなければいけない、その為に作られたアウラ、それは心優しき精霊には耐えられぬ事だろう…… そして理性を失った我は、そんな心構えで勝てるほど甘く無い」
⦅………………⦆
「あのシャンポール城の壁画の違和感はこれか? アウラが書かれる以前の絵は、人々が竜と戦っているようにも見えるが…… 俺には遊んでいるようにも見えた」
「我々は親友だった――― だが、我が裏切ったのだ………」
暗黒竜は、昔話を語っていた時のアウラと同じ顔をしていた。
俺達の知らない、悠久の神話時代。
この全種族が戦いに明け暮れる、この悪質な世界にも平和な時が有ったのだと……
「あの時、永遠に続くかと思われた楽しい日々。 だが突然神は、竜と他の種族を切り離した! 竜の力があまりに強かったからだ! 我は必死に抵抗した。 神の力に最後まで抵抗した! だが…… 結局神の力には抗えなかった。 我は一番大切な友人を裏切ってしまったのだ」
⦅…………。 また神の仕業なのか!⦆
「だが…… 神により理性を失った我を、シャンポールとバーデンは殺さなかった。 我を地中深く封印し、よせば良いのに友情は不滅だと、会う事はもう出来ぬが同じ場所に自分たちも住むとぬかしやがった」
あの暗黒竜が泣いているように見える。
あの凶悪だった攻撃も――
先に旅立ってしまった友人たちへの、子供のかんしゃくの様にも感じてしまう。
「これが歴史の真実だ…… これで思い残す事は無い。 真実を伝えられればそれで良い。 捻じ曲げられ伝えられた我ら三人の友情だけは、どうしても我慢ならなかったのだ。 我らの友情だけは誰にも汚されたくはない。 このままでは先に行ってしまった奴らに、あの世で合わす顔が無いしな」
⦅………………⦆
「奴らはもう居ない…… そして我は今お前に敗北した。 さあ、我の命をとり消滅させるが良い!」
⦅………………⦆
「そんな話を聞いて、『ハイそうですか』と殺せるか! アホぅ………」
俺は少し考え、そして暗黒竜に言い放つ。
「暗黒竜! お前は俺に敗北した。 死ぬくらいなら俺との従属契約と、召喚獣の契約を受け入れろ!」
暗黒竜が目を見開き驚く! 『ほぉ~ 殺さないのか?』
「べつに殺したくて戦ったわけじゃない、人々を守るために戦ったんだ!」
俺の言葉を聞き、暗黒竜は懐かしそうに笑う。
「お前はシャンポールと同じ事を言う、甘い奴だな………」
俺の言葉を聞きアウラが凄く嬉しそうだ。
そして、暗黒竜は俺の提案を受け入れる。
「その甘いお前に我は敗北した。 よかろうその契約受け入れよう! 我はどのような屈辱にも耐え、神に意趣返しをせねばならぬ」
おれは、『従属』の契約魔法と『召喚獣』の契約魔法を暗黒竜へと展開する!
⋘―――――αλυσίδα(鎖)―――――⋙
⋘―――――πρόσκληση(召喚)―――――⋙
暗黒竜は俺の契約魔術を受け入れる、そして叫ぶ!
「我が名は暗黒竜ファフニール! 契約にしたがいディケムに従属しよう! そして! シャンポールとバーデンに受けた恩、お前に返すとしよう!」
この日、暗黒竜ファフニールが俺の従属になり、召喚獣になった。
さて――
これで一件落着なのだが、このファフニールの巨体をどうしようかと思っていると。
突然、ファフニールが輝きだし、そして小さくなっていく………
「おぉ! こんな事もできるのか!?」
俺が驚いていると、小さくなったファフニールは俺の肩に乗る。
「従属として、日ごろは小さくないと一緒に居られないからな!」
従属した途端ファフニールが懐く。
まぁ、カワイイし良いのだけれど……
その強大なマナは見る人が見ればすぐに分かる。




