第四章40 メガフレア
怒りに我を失った暗黒竜が、目の前にマナを凝縮した黒い玉を作り出している!
⦅ッ――っな! こ、これはヤバい―――!⦆
俺はその『黒い玉』に圧縮されていく力、マナの質量を感じとり―――
すぐに自分の周りに精霊結界を三層構築する!
ッ―――! イヤ、だめだ!
この質量は四層の結界じゃなきゃ無理―――
そう判断した直後―――
暗黒竜がマナを凝縮した『黒い玉』を押し出すのが視界の端に見えた……… ヤバイ
『メガフレア―――!!』 暗黒竜がそう叫ぶ―――!
文献では、その魔法は人族の歴史上使えた者は居ない。
そして…… その魔法を見た者も文献に存在しない。
いや…… 見た者は居たのかもしれないが………
その魔法を見て生き残れた者など人族には歴史上存在しなかった。
古のハイ・エンシェント魔法【メガフレア】
そんなハイ・エンシェント魔法が今、この王都のど真ん中、結界で囲われた閉鎖空間で発動する。
ディケムをはじめ、ララ、ギーズ、ラローズ、ポート……
そしてラトゥールが、近代史実上初めて、その魔法を目にする――!
暗黒竜から放たれ押し出された膨大なエネルギーの塊。
その黒い玉が……
ズレる――― そして爆ぜる!
はじめは無機物な原子が砕けるノイズの音!
そこから発生する圧倒的な熱量と破壊の力は………
音より先に―――
光り、熱、衝撃波が結界内に荒れ狂う――!
そして後から轟音が追いついてくる!!!
俺はその圧倒的な破壊の光の中、上下左右前後、全方向から暴力的な力で弾き飛ばされた。
ぼろクズのように地面に叩きつけられ、なすすべなく転がされ――
体が砕け散るような衝撃を全身に受ける。
全集中で体に巡らせたマナに注意を注ぎ込み、全ての気を防御に全振りする。
少しでも心が折れれば、俺と言う存在自体が消えてなくなってしまう。
0コンマの単位で、破壊される結界を、マナを使い修復する!
そうして――― すべての衝撃が通り過ぎるのを堪えて待った。
全ての暴力的なエネルギーの嵐が収まった後、俺は辛うじて生き残ることが出来た。
瓦礫に埋もれた、自身の体がどうなっているかもわからなかったが………
なんとか俺は自力で立ち上がり、あたりを見回す。
結界内の闘技場は、何もないドロドロに溶けたクレーターになっていた。
地面はえぐれ、土は熱で溶け、至る所で結晶化している。
これは……
さすがに死んだと思ったが、何とか生き残れたみたいだ。
【メガフレア】発動直前、ギリギリ結界を四層まで張ることが出来たようだ。
失敗していれば…… 消し炭になっていただろう。
それでも体を見ると、鎧(妖炎獄甲冑)はかなりのダメージを受け、煙を上げてフェニックスの加護で再生されている。
俺は自分の、全身のマナを瞬時に感じ取り、自分のダメージを目で確かめるより早く、正確に把握する。
四肢が無くなるような、致命的なダメージは受けていないが、全身にある程度のダメージを受けていた。
まぁ…… メガフレアの直撃を真正面から受け止めたのだ。
この程度で済んだことが、奇跡なのだ。
俺は直ぐに、ルナの治癒でダメージを回復させる。
ダメージを完全回復し、自分の防御結界を構築し直し、すぐに戦闘を仕切り直せるよう整えた所で………
改めて、周囲の状況を確認する。
「っな! 嘘だろ…… 八層まで砕けている!」
王都を守るために張った、コロッセウムを囲った四属性の精霊結界十層。
その結界を八層まで砕くだと……
それは単純に言えば、『メガメテオ』と同じ破壊力を暗黒竜が放ったことになる。
『メガメテオ』は王都に張った四属性二十層の精霊結界を八層まで破壊した。
この暗黒竜の『メガフレア』は四属性十層の精霊結界を八層まで破壊……
比較は難しいが、単純に考えれば、同じ威力と言える。
たしかに俺の結界も四層消し飛んだ!
俺の結界は、七属性で四層の精霊結界。
七属性と距離的な事、結界の簡易性なども考えると、
これも単純には比較できないが……
暗黒竜の『メガフレア』はメガメテオ級なのは間違いないようだ――
「クソ! とんでもない化け物め!』
俺は、結界の維持にあたっている四人の様子も確認する。
自分の体も心配なのだが、今はこの四人の精神状態が最も深刻なようだ。
メガフレアを目の当たりにして、ララなどは倒れそうな顔色をしている。
俺の生存を確認して、少しだけ気を持ち直したようだが……
依然として深刻な顔色は変わらない。
今ここで、結界維持四人のうち一人でも倒れる事が有れば、この王都を守る精霊結界は崩壊する。
暗黒竜と対峙する今の俺に、これ以上の事に意識、リソースを割く余裕など無い。
俺はギーズに目配せをする。
今、倒れそうなのはララとポート、次にラローズ先生。
ギーズも決して大丈夫そうには見えないが、他の三人よりはマシだ。
俺の目配せを見て、ギーズは頷いてくれる。
誰しもが直ぐにでも逃げ出したい状況下……
伝承の中の存在暗黒竜を目の前にして、なんて頼りになる幼馴染だろう。
ギーズ、ララ、ディック…… そしてラトゥール。
この四人は俺にとって、本当に特別な存在なんだなと改めて確信する。
俺は自分の頬を叩き、気合を入れる。
『よし! 俺が皆を守って見せる!』
そう気合を入れて、暗黒竜との再戦に向け仕切り直す。




