第四章39 理不尽な存在
俺は、『暗黒竜は魔法への耐性が高い』と言うアウラ情報を確かめるべく――
試しに、フェンリルを二十体ほどだし、暗黒竜に突撃させる。
直ぐ後に、イフリート二十体も突撃させる。
結界内は、氷と炎が荒れ狂い、凄まじい衝撃が巻き起こるが………
炎と氷の渦が晴れると、無傷の暗黒竜がそこに居る。
「精霊魔法でも、魔法は無効か……」
次に俺は、ルナのクリスタルを剣の形にして、一〇〇本ほど作り出す。
「これはどうだ――!」
一気に暗黒竜に一斉掃射!
結界内が爆音と爆煙で見えなくなる。
爆煙が晴れると…… 少し傷ついた暗黒竜が居た。
「ん? 精霊魔法だが、クリスタルという物理攻撃には少しダメージ入るみたいだな」
そんな風に、暗黒龍に通じそうな攻撃を試していたら……
『っあ………』 ヤバ! 暗黒竜凄く怒っていらしゃる!
俺の攻撃に少しダメージを受け、プライドを傷つけられた暗黒竜が叫ぶ!
「人間如きが――――――――!」
暗黒龍は、その凶悪なまでに鋭い銀色に輝く爪と牙で、攻撃を仕掛けてくる。
最初は……
ただ単純に頭に血が上り、無暗矢鱈に腕を振り回して攻撃を仕掛けてきた――
と思っていた…… その攻撃の緻密さに息をのむ。
炎のブレス、暗黒ブレス、爪・牙による物理攻撃……
やっている事は俺とあまり変わりない、ブレス攻撃が効かなかった時点で、
暗黒龍は怒ったふりをして、俺に有効な攻撃を探っている。
この暗黒龍……
神話時代の古龍、エンシェントドラゴンなだけは有る。
非常に頭がいい。
俺はシルフィードの『飛行』を使い、身軽に飛び回る。
巨体の暗黒龍に対し、俺は虫ほどの小ささ、さらに空を飛び回る俺には、物理攻撃はそうは当たらない―――
などと侮っていると、フェイントを食らい、一瞬の隙を突かれ、爪が少し俺にかする……
爪がかすっただけでも、俺の体は地面にたたきつけられ、両膝まで地面にめり込ませる。
破壊力も規格外だ。
結界防御壁を張っていなければ、今のかすっただけで即死級の威力だった。
これは正面からぶつかっていても勝機は無い……
俺はウンディーネ、イフリート、ルナを使い、結界内に霧を発生させ姿を隠す。
さらに霧の中で光の散乱を利用し、ブロッケン現象(影が霧の投影されて、怪物に見える)をいくつも作り出す。
これで、暗黒龍が驚くとは思えないが、霧に姿を隠し、位置を誤魔化すことは出来る。
霧には俺のマナを溶け込ませ、マナで位置を特定できないようにもしている。
これならば、この結界内での戦いと言う、狭い場所での不利な状況を逆手にとれる。
全ての状況を利用しなければ、正面から挑んでも『あの存在』には勝ち目はない。
だが……
そんな俺の小細工、せっかく作った霧の目くらましも、暗黒龍の炎のブレスで一瞬にして蒸発してしまった。
「ック……! 理不尽な奴め!」
「フンッ! 我に小細工など通用せぬぞ!」
暗黒龍がその言葉を発したとき―――
「スネルリフレクション――――!」
俺は、ララがグラディアトルで使った技を発動する。
霧に紛れて、暗黒龍の周りに鏡を作っておいたのだ。
『月光の矢』が鏡の檻の中で反射を繰り返し荒れ狂う!
前後左右上下全ての方向から無数の光の矢が暗黒龍を襲い爆散する。
その規模、矢の数、破壊力は、ララが大会で使ったものより、格段に上だ。
しかし……
やはり『光の矢』では暗黒龍は傷つける事は出来ない。
だがディケムにとってこれは目くらまし!
光の矢は鏡の檻の中で反射を繰り返し、ほんの一刻、暗黒龍の視力を奪う。
ディケムは鏡の檻を包むように竜巻を発生させる!
しかしその竜巻は、風の属性だけで作られた竜巻ではない。
七色に輝く竜巻は、ディケムが使役する七柱の精霊の属性が付与されている事を意味する。
「颶風の竜巻―――!」
ドライアドが竜巻の風に、細い蔓、木の繊維を混ぜて暗黒龍に絡みつかせ暗黒龍の動きを止める。
さらにフェンリルとイフリートが絶対零度と超高熱を繰り返す!
そこに、七種七属性のカマイタチが竜巻の中に吹き荒れる――!
物理攻撃が出来る属性は、物理の巨大なカマに――
ウンディーネは水に高圧をかけ水の刀!
ルナは水晶の刃!
フェンリルは氷の刃!
そして―― アウラはミスリルの刃に!!
竜巻の中の惨状は目視できない……
だが、幾度となく繰り返し続く爆発音と光。
そして暗黒龍の咆哮……
この竜巻の中で生き残れる者など居る筈もない…… と誰もが思う光景だった。
防御結界の外から見ていたララ達は、『これで勝った!』と安堵の表情を見せていたが……
竜巻が収まり、暗黒龍が姿を現したときに、戦慄する。
「そ、そんな…… こんなの…… どうやって勝てるって言うの?!」
確かに暗黒龍は深手を負っているように見えるが……
瀕死と言うには程遠いい、怒りをあらわにした、恐ろしい形相でそこに立っていたからだ。
ディケムはマナを通じ、暗黒龍が『颶風の竜巻』ではさほどの重傷を負わせられなかった事を既に理解していた。
「ホント、理不尽な奴め………」
ディケムの呟きにも、もう暗黒竜は答えない。
人間ごときに深手を負わされたことに、暗黒龍は怒りで自我を失っているようにも見える……
そして、暗黒龍がその己が膨大なマナを集中させ、規格外な何かを行おうとしている事をディケムはマナを通じて感知する!
⦅これはヤバイ――! 耐えきれるのか?!⦆
ディケムは『言霊』を使い皆に伝える。
『ララ! ギーズ! ラローズ! ポート! ヤバいのが来る! 頼む! 結界を強化して衝撃に耐えてくれ――!』
『ラトゥール! 総隊全員! 退避、退避だ! 至急少しでもこの場から離れろ!!』
『そ…、そんな――ッ! ディケム様――――!』
ラトゥールの悲痛な叫びが、『言霊』の向こうから聞こえた時―――
暗黒龍の前に、膨大なマナが凝縮された『黒い玉』が出現する。




