第四章38 暗黒のブレス
暗黒竜の出現により、闘技場は―――
いや王都は大パニックに陥る。
俺は叫ぶ!
「ララ、ギーズ! 俺が補助するから、俺と暗黒龍を閉じ込めてコロッセウム全体に精霊結界を張れ! 精霊一柱で五層、二人合わせて十階の精霊結界だ!」
『え?………』とララが戸惑いを見せる、俺にも逃げてほしいのだろう。
だが俺は、ララに『大丈夫』と言い、『急げ!』と命じる。
『はい!』と二人がやっと答えてくれる……
「さらにラローズ、ポートを加えて四人! 張られた十層の精霊結界を四属性に属性強化しろ!」
『はい!』四人が答える。
先ほどまで、俺の命令に戸惑っていたララも、今は命令を受ける軍人の顔をしている。
俺達は、まだ学生だけど…… すでに軍人だ。
それだけの恩恵を国から受けている替わりに、有事の際はその分働かなければならない。
ララとギーズの精霊結界の構築を補佐しつつ――
同時に俺は、自分の回りにアウラを含めた七精霊分の精霊珠を作り出し。
七属性の属性結界を一層張る。
さらに、七精霊の加護も全て自分にかける。
そして、俺は指示を続ける―――
「ララ、ギーズ、ラローズ、ポート 四人は申し訳ないが結界を維持! 暗黒龍の戦闘では、結界は破壊されると考えられる、壊れたらすぐに補強しろ!」
『はい!』四人が答える。
「そのほかのソーテルヌ総隊は皆、避難誘導だ! コルヴァスとティナも加わってくれ! 直ぐにここから離れろ!」
避難誘導に回った者は悔しそうにしているが、ララ達四人と違い、出来ることがない。
『言霊』を使い、総隊隊員に全ての指示を終えた時、ララ、ギーズ、ラローズ、ポート 四人の精霊結界構築が完成する。
それを待っていたかのように、暗黒竜が動き出す。
そして………
「死ぬ準備は出来たか?」
「ッ―――なっ! 喋れるのか暗黒竜!?」
その合図とともに、結界内に炎のブレスが吹き荒れる!
俺の結界は吹き飛んだが、結界で軽減された炎は、愚者でスキルアップされた妖炎獄甲冑の防御力と精霊の加護で守られた俺にダメージを与えることは出来ない!
直ぐに俺の結界は自動的に張られ、フェニックスの加護で鎧の傷は消える。
ララ達が維持している、俺と暗黒竜を閉じ込める精霊結界も二層ほど吹っ飛んだが、指示通りに四人がすぐに再構築している。
まだ危なっかしいが、すぐに慣れるだろう。
避難誘導組の『言霊』伝いに、避難状況が報告される。街に今のところ被害は無い。
暗黒竜が自分の炎のブレスにより、想像した通りの破壊が起きなかった事に怪訝な顔をする。
最初の様子見攻撃は凌げた。
だが伝説の暗黒竜がこの程度なはずがない。
俺は精霊珠をさらに五個増やし、自分の属性結界を二層に増やす。
暗黒龍は、俺が無事生存している事に、少し苛立ちを見せたが………
虫けら程度にしか認識していなかったであろう俺を、あらためて見て言う。
「ほほぉ~ 人間如きが我のブレスを防ぐとはのう、なら此れはどうだ?」
次の瞬間、結界内は暗黒の炎に包まれる!
最初の様子見の炎とは威力が格段に違う!
暗黒龍にとっては、ちょっとした違いなのかもしれないが………
その暗黒の炎は、最初の赤い炎よりも倍以上の威力だ。
安全を期して二層に増やした俺の精霊結界がまたも消し飛んだ!
だが………
二層に増やしたおかげで、先ほどと同じ無傷で耐える事は出来た。
⦅や、やばかった………⦆
俺は心の中で呟く。
『二層に増やしておいてよかった~』と俺としては結構ギリギリのやり取りで、耐えられたことに安堵していたが………
暗黒竜は無傷の俺を見て、目を見開き憤怒している。
「なっ! なんだと……… 人間如きに、ワレの暗黒ブレスが防がれただと――!!!」
俺は、自分のダメージを確認した後、周りの状況も確認する。
ララ達が張っている結界も四層ほど吹き飛んだが、また四人がすぐに再構築してくれている。
暗黒龍は驚いているが…… 俺も内心冷や汗ものだ。
暗黒龍が息を吸うように簡単に吐き出す炎のブレス攻撃に、俺の精霊結界は只のガラスの様に簡単に消し飛ぶ。
自慢ではないが、四属性を付与された精霊結界は、それがたとえ一層だったとしても、その強度は凄まじい!
人族では破れる者は居ないかもしれない……
ちなみに七属性付与している、俺自身に張っている結界は、さらに強度が上がっているのだが……
暗黒竜の簡単なブレス攻撃で、二層の結界が消し飛んでしまった。
俺は内心冷や汗をかきながら、ハッタリをかまして余裕な顔で暗黒竜を見る。
そして俺自身の吹き飛んだ結界を瞬時に修復する。
強敵との戦闘は、心理戦が重要だ………
安全を期すためには、さらに自分への結界の層を増やしたいが、結界が増えると直接攻撃がしづらくなる。
アウラから、暗黒龍は魔法耐性が強力で、物理攻撃が有効だと聞いている。
正直、戦場がこの王都のど真ん中では無ければ……
ララ達の結界に覆われていなければ……
暗黒竜の範囲攻撃でも、攻撃が結界内を吹き荒れることもなく、逃げて避ける事も出来た。
自分をここまで覆う結界は必要ない。
しかし、ここは王都のど真ん中……
全ての暗黒龍の攻撃を、結界で集め、威力を集中させて自分で食らっている様なものだ。
なんて理不尽な状況だ。
俺はこの最悪の強敵に対峙して………
戦場の悪さと、環境の悪さを呪う。




