第四章37 神器、愚者の手
突如、大きな地震がコロッセウムを襲う!
あまりの地震の大きさに、コロッセウムの観客、生徒たちは大パニックに陥る。
そしてその大地震の中、突然闘技場武舞台の中央が光りだした。
この異変を素早く感じ取ったラトゥールが俺の傍にすぐ駆け寄ろうとするが―――
俺は『言霊』を俺の部隊全員に飛ばす、一応今後入隊する、コルヴァスとティナにも。
「ラトゥール! そこで各国要人を守れ! 事を見、必要なら退避を先導しろ!」
「はっ!」
そして今も続く地震の中、光り出した武舞台から、輝く精霊が勢いよく飛び出してくる。
『アウラ』だ! なぜかアウラが人前に姿を現した!
観客、生徒達はみなパニックになりながらも、この地震の元凶かもしれない光る精霊を見る。
飛び出してきた精霊アウラは、マナの気配で俺を瞬時に見つけ出し、迷いなく猛スピードで俺のところまで飛んでくる!
「ディケム様! すぐに私と契約を! 暗黒竜が復活します!!!」
ダンジョンに潜っていたメンバーは皆、暗黒竜が復活と聞き目を見開く!
「なっ! デーモンナイトは倒したはずです!」
驚きでコルヴァスが叫ぶ!
コルヴァスの叫びに、アウラは俺に言う。
「違ったのです! なぜデーモンナイトが格上の大悪魔パズズを使役できたのか? 私は不思議で仕方なかったのです。 デーモンナイトは結界を壊すために、分不相応の力を使い、もう戦えないぐらいボロボロになっていました。 そして壊れかかった結界の近くで、パズズほどの魔王級悪魔が暴れれば、さらに結界は緩みます! デーモンナイトの狙いはただそれだけだったのです!」
どおりででパズズに比べ、デーモンナイトが弱すぎたはずだ……
「私たちがパズズと戦った時点で、もう目的は達成されていたのです。 そこまで結界が緩めば、もう暗黒竜が自力で結界を解くことが出来たのです!」
アウラの悪夢のような説明を聞き、皆俺を見る。
すると突然――――――!
ドォォォォォォォォォォン!!
轟音と共に地響きと地震、そして黒いオーラが闘技場武舞台の中央から噴出する!
「ディケム様! 時間がありません、早く契約を! 暗黒竜が復活してしまいます!」
アウラが俺に言う!
「暗黒竜は魔法耐性が強力なのです。 戦うには物理攻撃が有効なのです! 私の宿る『愚者の手』は、その込められた神気で、装備した武器防具の性能を上げます。 そして私、精霊アウラの属性も暗黒竜に有効です。 愚者の手と私を使い、暗黒竜を抑え、この国を守ってください! おねがいします!!!」
もう直ぐにでも暗黒竜が復活しそうな、地底から湧き上がる圧倒的なマナの力を感じる。
「これは、考えている猶予は無いな!」
俺はすぐにアウラと契約する事を決めた!
契約魔術の演唱を行う
“金属の精霊アウラに告げる!
我に従え! 汝の身は我の下に、汝の魂は我が魂に! マナのよるべに従い、我の意、我の理に従うのならこの誓い、汝が魂に預けよう———!”
⋘――――συμβόλαιο(契約)――――⋙
俺の契約呪文にアウラがYesとこたえる。
精霊アウラと俺のマナが繋がり、契約は成立した。
そして俺は地底から湧き上がる圧倒的で、暴力的なマナを感じ取り、これから復活するであろう暗黒竜が、今まで戦ってきたどの敵よりも強大であることを感じ取る。
「ディケム! 暗黒龍と戦うにしても、武器は『鬼丸国綱』はどうするの!? 取りに行く時間無くない?」
俺は『ハスターの指輪』にマナを送り込む!
すると一瞬にして、鬼丸国綱、妖炎獄甲冑を装備する。
皆が目を見張るのが分かるが…… 今は説明する時間は無い。
皆もそれは察して、驚いてはいるが、わざわざ尋ねてくる者は居ない。
俺は、さらにアウラが持ってきた愚者の手を装備して、フェニックスを呼び寄せ纏う。
今持てるすべての力を使い戦わなければ、アレには勝てない。
しかも、ここは王国のど真ん中、防御結界の内側なのだから……
メガメテオすらも防ぎ切った『精霊結界』は意味をなさない。
いやむしろ逆に、今回はその防御力が仇となる可能性がある。
結界内での暗黒龍の超攻撃の超エネルギーは、『精霊結界』の遮断反射効果により、外に放出されず、結界内で荒れ狂う事になる。
俺は、国民を、王都を守りながら戦わなければならない、地理的に圧倒的に不利だ!
俺が『愚者の手』を装着しマナを込める。
すると……
アウラが言った通り、『愚者の手』の天賦スキルで鬼丸国綱の攻撃力が格段に上がるのが分かる、
妖炎獄甲冑の防御力も格段に上がっているのが感じ取れる。
俺は試しに、『ハスターの指輪』を使い、鬼丸国綱を神珠の杖に瞬時に入れ替える。
『愚者の手』の効果は神珠の杖にも、問題なく付与されている。
俺は数度、感覚を確かめるために、刀と杖を入れ替える。
ララ達は、唖然とその光景を見ているが、今は説明する時間は無い。
アウラだけは、期待に胸躍らせた眼差しで、こちらを見ている。
『愚者の手』の、装備品の能力を大幅に上げる天賦スキル、これは凄い。
これならば、暗黒龍とも渡り合えるような自信がみなぎってくる。
俺が装備を確認していると――!
ドゴォォォォォォォォォォン―――!!
さらに先ほどよりも大きい轟音と共に地響きと地震が起こる。
そしてついに闘技場の中心付近より、禍々しい黒いオーラと土煙が立ち昇り、土煙の中から巨大な暗黒竜が姿を現した!
その体は、すべての光を吸収するかのような、暗黒の黒!
目は見た者の魂を喰らい尽くすような金色!
翼は黒く、ひとっ飛びで数キロは飛べる大きさ!
そして神をも引き裂くという、竜の爪と牙は銀色に輝く!
その姿は、人族にとって死そのものを代弁したかのような存在だった。




