第四章36 隣国の思惑
グラディアトルの試合が終わり、表彰式準備のため、一時みな解散となる。
何故かみな俺の回りに集まる。
そして、改めてララが俺に文句を言ってくる。
「ちょっとディケム! あの宝珠ってなによ! いつの間にコルヴァス先輩と繋がっていたのよ? ちゃんと説明してくれるんでしょうね?!」
ララが頬を膨らませて聞いてくる。
そしてコルヴァス達は……
まさか俺が部下のララに、怒られるとは思わなかったらしく……
驚き、その内容が宝珠だったことに、バツが悪そうにしている。
俺はフクれるララを『まぁまぁ』となだめながら話す。
「あれ凄いだろ?! あの宝珠が有れば、凄い戦力増強になると思わないか?」
ララが不機嫌そうに…… 『そんなことを聞いているのではない!』と言いたそうだ。
まぁ~隠す事でもないので俺は諦めて話す。
「実はさ、マール宰相から相談を受けていてね」
話が急に真面目な方向に動いたことに『ほぉ~?』とララが頷く。
「ほら、俺の肩書って、王都守護者でさ、有事の際の兵隊は王都の守護をしているラス・カーズ将軍の第一部隊を使うわけだけど―― その第一部隊を使わなくても、直属のソーテルヌ総隊だけの個々の力も今や強力じゃない!? ラトゥールも居るし、今やララもギーズも個で魔王級だし………」
少し『魔王級』ってところで、眉間にしわを寄せたが……
ララが目をパチクリしてキョトンと驚いている。
「エルフ族から王国を守り切ったことで、各国々からの俺たちへの依存度、注目度が急激に高まったんだよ。 それでさ、ここに来て勇者ララの名前が一気に広まって、俺の総隊が個々でも強力な事が周知の事実となったわけ。 たぶん今回のグラディアトルでさらに噂が広がるのは、火を見るより明らかだ」
『えっ……』ララが引きつっていくのがわかる。
コルヴァス達も頷いている。
「俺の部下が強力なことが分かった国民の人々、村々、町々、ひいては同盟国の国々までもが、問題解決に勇者を派遣してほしいとなったわけだよ」
今、各国間ではそんな話になっているのかと、皆が驚いている。
「さすがに俺、自らに来てほしいとは各国も言えないらしいけど……、せめて部下のララ達を派遣してほしいと言ってきているらしい。 自分たちの国にも勇者が居るにもかかわらずだ」
『ええええっ――?!』 ララが目を見開いている。
「マール宰相には各同盟国からは…… すでに依頼を通り越して、苦情に近い請願書が来ているらしい。 俺たちをシャンポール王国だけで独占するのは、人族として同盟国のまとめ役として、義務は履行ていないと………」
俺の回りの皆が驚いている――
まだ学生の自分たちが、政治の大きな渦に巻き込まれていることを、知らなかったというよりも考えもしなかったのだ。
「今まではマール宰相が何とかごまかしてくれていたけれど…… 多分今後、俺たちは何か行動を起こさなければ、各国は納得しないだろう。 そこで俺は思い立ったわけだよ、もっと自分の部隊を強化する事を。 もっと部隊として機能するように編成して、個々の強化をさらにすることを。 そして依頼の内容に応じて、適切な人員、人数を派遣しようと思っている。 自分達から動かなければ! 人に任せて流されていては、ララ達を守れない! その第一弾が宝珠ってわけだ!」
『………………』
皆が、ディケムの話す内容が、思っていたよりも深刻だった事に、立ち尽くしている。
「ララを派遣するとしても、絶対に一人では送らない! 必ず俺の部隊が行動するときは少なくてもバディ。 もしくはそれ以上のパーティーを組んで行動する事とする! そしてその派遣隊員の戦力増強の為に、『精霊の召喚宝珠』を作り出した! って訳さ。 その有用性をコルヴァスとティナが証明してくれた」
ララが頬を赤らめて頷く。
皆も『おぉ~!』と感心して声を上げる。
「今後ソーテルヌ総隊は、この『精霊の召喚宝珠』を使った訓練を行っていく!」
俺の宣言に、総隊隊員たちは『はっ!』と返事をする。
だが…… ララが『ハッ』と気が付いてディケムに食いつく。
「とても嬉しいお話だったんだけど…… その私を守るために作った宝珠を私に試すってどうなのかしらね?」
「へ? ………………」
返す言葉もありません。
その言葉に皆が我に返り、残念な人を見る目で俺を見る…… アウ
そんな今後の話をしていた時―――
俺は異常なまでのマナの上昇を感じ取る。
その異常なマナの大きさ、異質さに一気に全身が鳥肌立つ!
「な、なんだこのマナは………?」
皆が俺の異変に気付く。
「ちょっ…… ディケムどうしたの?」
俺の異変を感じ取とり、ララ達も身構える!
そしてマナを上手く感じ取れるようになったララとキーズも、その強大なマナに気づいたようだ。
そして――、俺達はそれが現れる方向を睨みつける!




