第四章35 四神相応四門守護者
大歓声の中、武舞台を降りたララがディケムに駆け寄る。
ララは頬を膨らませ、ディケムを見るが……
ディケムはよくやったねと頭を撫でるだけだ。
そこにコルヴァスとティナが来る。
そしてディケムの前に片膝をつき、精霊の宝珠を使わせてくれたのに負けてしまったことを謝罪した。
「ディケム様、あの様な貴重な宝珠を貸していただいたのに…… しかも、ララさん達は全力を出せない枷があるというのに……」
「いや、コルヴァス先輩。 ララ達に素晴らしい経験を積ませていただきました。 そして私としても、宝珠が私と繋がりが無い者でも、問題なく使えると証明出来ました。 その成果で十分です。 有難うございます」
ディケムは本心から『気にしなくて良い』と言ったが……
コルヴァスとティナは片膝を付いたまま動かない。
そして――
『ディケム様!』 コルヴァスが意を決したように話し出す。
「私とティナをディケム様の直属部隊、ソーテルヌ総隊に入れていただけないでしょうか!」
『え!』ララが驚く、周囲の人たちも驚いている。
「なぜ、私の部隊に来たいと?」
正直俺は、この戦士学校に来てタンク職の重要性を、まざまざと見せつけられた。
だからコルヴァスの申し出は、俺の望みに添ったものだったのだが………
軍の所属は一度決まってしまえば、移動する事は難しくなる。
ここは焦らず、本人達の話を十分聞いてから判断しなければならない。
「私はメガメテオの戦いからディケム様に心酔しています。いつか必ずディケム様の元に行きたいと! そして、ダンジョンでお供させていただき、もう『いつかは……』などと言っていられなくなりました。 この度は醜態をさらしてしまいましたが、必ずディケム様の力になって見せます!」
コルヴァスが話した後、ティナも話す。
「私はダンジョンで死を覚悟しました。 しかしそのダンジョンでこの命をディケム様に拾い上げて頂きました。 一度失ったも同然のこの命、貴方のために使わせてください」
⦅ティナの理由が重すぎる……⦆
ディケムがティナに言う。
「私の部隊は最前線です、せっかく拾った命なら、危険な私の部隊はやめた方がいいのでは無いですか?」
「軍に所属すれば……、必ず命の危険が伴う任務に遭遇します。 自分が信じたディケム様の下ならば、悔い無く全うできます。 貴方様のために命を使いたいと思います」
ディケムはしばらく考えて二人に言う。
「分かりました、貴方たちをうちで預かりましょう!」
二人は安堵の表情を浮かべ、二人で頷き合う。
「しかしティナ、うちの部隊に来るからには、簡単に死ぬ事など許しません! 良いですね!」
ティナが嬉しそうに『はい!』と返事をして深く頭を下げる。
このグラディアトルはディケムの――
いやソーテルヌ総隊の『近衛隊』を人々に知らしめる良い宣伝になった。
ディケムの今までの偉業・功績は、王都の国民の皆がその目で見て良く知っている。
そして先日、突如ソーテルヌ総隊の『近衛隊』所属のララが、オリハルコンを装備する勇者として、鮮烈に公表された。
そのデビューは、各新聞が毎日取り上げるだけに、逆に人々には非日常の架空の人物像として、祭り上げられてきた。
しかしこの度のグラディアトルで、直にその人を見ることにより、人々の印象は確定した。
この日から人々は、その圧倒的な力を見せつけたソーテルヌ総隊近衛隊の三人。
隊長のラトゥールを加え、ディック、ギーズ、ララ、この四人をシャンポール王都の守り神として称え、ソーテルヌ『四門守護者』と愛称で呼ぶようになる。
この『四門守護者』とは、人族の要シャンポール王都の四門(東西南北)を守る者。
最良の地勢『地勢方位・四神相応』になぞらえ例えられたものだ。
四門を守る四神『青龍・白虎・朱雀・玄武』
東に流水(青竜)、 西に大道(白虎)、 南にくぼ地(朱雀)、 北に丘陵(玄武)
これが備わる土地は昔から栄えると言われている。
これに、ソーテルヌ近衛隊の四人が日頃好んでつけている『色』を当てはめたのだ。
ラトゥールは『黒』、ディックは『赤』、ギーズは『青』、ララは『白』
『四門守護者』
・北:山は『黒の王』、筆頭のラトゥール様。
・南:くぼ地は『赤の王』、ディック様。
・西:大道は『白の王』、ララ様。
・東:流水が『青の王』、ギーズ様。
人々はそう呼んだ。
暗黒の時代ほど、人々は少しでも望みをもって、神々とその時代の英雄を結び付けて神格化し、救いを求める。
この大層にも四神に例えられた四人、ラトゥールはともかく、他の三人には同情をしてしまう。
いや……、精霊と繋がったララとギーズは、本人たちの感情を無視し客観的に考えればまだ良い。
その力は既に英雄たちを超えているのだから……。
そんな中、いまだディケムの精霊と繋がることが出来ないディックは、非常に追い込まれていた。
『ソーテルヌ四門守護者の一人』 『赤の王ディック』 『爆炎のディック』
人々はディックの事を愛称でそう呼ぶ。
グラディアトルでは、ただファイヤーボールを撃っていただけなのに……
人々の想像は、大会でも見せることが無かったディックの実力を、危険すぎて大会では使えなかったのだと勝手に上方変換し想像を膨らませていた。
圧倒的な力を持っていると信じ込み、疑う者は居なかったのだ。
名前だけが独り歩きし、シャンポール王都では知らぬ者は居ない有名人になってしまった、ディックの苦難の道は続く。




