第四章32 カミュゼ 対 鉄壁コルヴァス
マディラ視点になります。
次の試合は、カミュゼ 対 鉄壁コルヴァス。
この試合に勝った方が、決勝でララ達と戦う事になります。
カミュゼもコルヴァス先輩もダンジョンで手に入れたミスリルのフル装備。
英雄ラス・カーズ様ですらフルセットを持っていないという逸品です!
この対決カード、ララ達が特殊過ぎてこの大会ではあまり目立っていませんが……
間違いなく今までの大会ならば、事実上の決勝戦ともいうべき、注目の試合だったでしょう。
二人のパーティーは同じ『タンク、剣士、剣士、ヒーラー』の構成。
攻撃のカミュゼ 対 守りのコルヴァス先輩です。
二人とも先日ディケム様とダンジョンに潜られ、魔王討伐を果たす貴重な経験を得ています。
昨年は、コルヴァス先輩の圧勝。
しかしこの一年、カミュゼはディケム様のお屋敷で訓練してきました。
あの固有結界の仕組みはよくわかりませんが、経験値が三倍ほどになるとか。
これで二年の差は埋められるはずです。
試合開始直前、武舞台裾でポートが手を握りしめてカミュゼを見ています。
カミュゼ――
あなたは同僚、私達ソーテルヌ総隊の側近として、無様な試合は決して許しません!
ララ達の様に、その実力をいかんなく発揮してください。
開始合図の合図が響き渡る!
その直後――!
カミュゼがコルヴァス先輩の剣士二人を瞬時に倒す!
しかし……
その間、コルヴァス先輩もカミュゼチームのタンクと剣士を瞬殺――!
その一瞬の出来事に観客たちも息をのみ、その直後二人の技量に歓声を送った。
ララ達の試合のような派手さは無い、とてもシンプルな戦いだけど、緊張感のある素晴らしい試合です。
一手目は、両チーム痛み分け。
残るはカミュイゼとコルヴァス先輩、後はお互いヒーラーのみ。
二手目からはもう奇襲は通用しない。
カミュイゼとコルヴァス先輩の一進一退の攻防が続く。
その攻防は、カミュゼの凄まじい成長を証明している、
事実、コルヴァス先輩も目を見張り、他の四年生の優勝候補だった先輩方も驚き、試合に釘付けになっている。
カミュゼの斬撃をコルヴァス先輩は辛うじて防ぎ、コルヴァス先輩の攻撃をカミュイゼが紙一重でかわす。
観客はカミュゼの圧倒的な手数の多さに盛り上がり、コルヴァス先輩の卓越した盾さばきに、感嘆のため息をもらした。
いつも側近として共に働く、私とトウニーは目を見張り驚きました。
この短期間に、これ程カミュゼが成長しているとは思いませんでした。
『無様な試合をしたら許さない!』などと言いましたが……
素直に訂正いたします。
彼方と同じ側近として働いている事を誇りに思います。
やはり、実戦経験を積むと言う事は、そのリスクとは裏腹に、これほど人を成長させるものなのですね。
観客皆が固唾をのみ、この攻防をずっと見ていたいと思っていた……
しかし、そんな緊迫の攻防戦も終わりのときが訪れる――。
勝敗は二人以外のヒーラーの差で決着がつく!
コルヴァスパーティーのヒーラー『ティナ・ソレイ』。
彼女はダンジョンで死にかけ、心に深い傷を負った。
救出された時の彼女の精神状態を見た人たちは……
彼女の戦士生命はもう駄目だと思った。
しかし彼女は自分で立ち直ったのだ。
そして――!
一度死地を経験した者は強い!
突然、ティナ・ソレイが一気にポーションを飲み干した!
コルヴァス以外の者はみな思った……
ティナは白熱した試合の、あまりの緊張のあまりミスを犯した。
過剰にポーションを飲んでしまったのだと。
魔力過剰回復状態に陥り彼女は動けなくなる。
冷静にその状況を見ていたカミュゼは、これをチャンスだと判断する。
そして彼女が動けなくなるのを待ってしまった。
しかし――!
ティナは、体内で過剰に増え続ける魔力を逆手に取り、一気に呪文を演唱する!
『ヘイスト! プロテクト! スロウ! パワー! サイレント―――!』
『スロウ』はカミュゼに、最後の『サイレント』はカミュゼのヒーラーへ向けて!
サイレントは『無言』、魔法師は魔法を演唱できなくなる。
カミュゼは驚愕した、『ッ――っな! や、やられた!』
ティナはこの一瞬に全てを賭け、すべての魔力を使い果たし使い物にならなくなった。
しかしカミュゼのヒーラーもサイレントを賭けられ、使い物にならない。
『ヘイスト!』 『プロテクト!』 『パワー!』の多重バフを賭けられたコルヴァス先輩が、『スロウ』をかけられたカミュゼより圧倒的に有利になるのは必然!
カミュゼに成す術は無かった……
永遠に続くと思われた白熱した試合だったが……
唐突に、あまりにも呆気なく結末が訪れた。
会場の観客は、最初何が起きたか分からなかったかもしれない。
しかしその出来事を理解したとき…… 息をのむ。
呆気なく結末が訪れたのだが――
ティナのそのファインプレーを目の当たりにした観客たちは………
最高の物語に相応しい最高の結末を見せてくれたと、素直にティナの演出に感嘆し、盛大な拍手を送った。
ティナのファインプレーにより、コルヴァスはこの試合を勝利した。
魔法学校の生徒たちは、試合後にあらためて皆で集まり考察する。
試合中は、ティナの力業のバフに唖然とするしかなかった。
魔力の過剰回復状態をあえて作り、魔法の多数重ねがけの時間短縮を行った。
一つの魔法の練度に重視を置く魔法学校と違い、より実戦に適した魔法の使い方、練度よりスピード!
そしてそれにより相手の隙を作り出す。
ララ達も、改めて素直にティナに感嘆した。
まだまだ、魔法の工夫はいくらでもできる!
実戦では、きれいな魔法だけでは勝てないのだ。
ララ達は魔法の可能性をそこに見た。




