第四章30 転換期、変わり行くグラディアトル
マディラ視点になります。
本戦二組目の試合は、大斧のカヴァクリデ 対 ナイフ使い俊足のトプハネ。
残念ながらトプハネは、予選でのギーズによる防具と精神ダメージで、本選で精彩を欠いた。
良いところなく、カヴァクリデに敗れました。
三組目の試合は剣豪のドルジャ 対 カミュゼ。
試合前の準備時間、ポートが居ない。
私たち三人は、ララ達のサポートのはずなのに……
ポートはカミュゼの近くで忙しなくお手伝いをしている。
まぁ、我らが主ディケム様もカミュゼの所に行っているので、良いのですけれどね。
そして、ララとギーズの所には……
なぜか対戦したヴィニコル先輩とトプハネ先輩が来ている。
ララとヴィニコル先輩とトプハネ先輩、三人で女子トークは良いのですけれど……
トプハネ先輩、なぜかギーズと近くないですか――?
ギーズ! なぜ女子トークの中に居るのです!
⦅もっと離れなさい――― もぅ!⦆
…………ん? 私、何イライラしているのでしょう?
これは? 気にしたら負けな気がするので、考えないことにしましょう。
そうして、カミュゼとドルジャ先輩の試合が始まりました。
カミュゼは、先日ディケム様とダンジョンに潜り、かなり良い経験積んだと聞いています。
何でも魔王と戦ったとか……
魔王とか、ダンジョンに普通に居ないと思うのですが――
しかしなんとミスリルのフル装備を手に入れて戻ってきました。
ラス・カーズ将軍ですら、フル装備は持っていないというのに……。
ディケム様とかかわると、話がとんでもない事になることが多いいのです。
魔王も本当なのかもしれませんね。
たしかに、ダンジョン出てからのララ達もカミュゼも、何か一皮むけた感が有ります。
試合は武器のアドヴァンテージも有るのでしょうけれど……
ドルジャ先輩よりカミュイゼが一枚上手。
とても落ち着き、先読み、的確な攻撃、人数を逆手にとってのフェイントなど、レベルの差を感じます。
実戦とはこれほど人を急成長させるのでしょうか。
去年のカミュゼは、まだとてもドルジャ先輩に勝てる実力は無かったと聞いています。
それが今は、ドルジャ先輩だけではなく、パーティーメンバー四人を相手に手玉に取っています。
三組目の試合は、カミュゼが一人また一人とドルジャ先輩のパーティーメンバーを確実に減らし、危なげなく勝利しました。
そして四組目の対戦は、去年優勝の鉄壁コルヴァス 対 ギュヴェン。
ギュヴェンはディケム様の同級生らしいので頑張ってほしいのですれど……
コルヴァス先輩は、今年も優勝最有力候補、しかもカミュイゼと一緒にダンジョンに入り、魔王と戦い、ミスリルのフル装備も手に入れています。
カミュイゼがあれほど強くなっているという事は――
コルヴァス先輩も確実に強くなっているはずです。
そして案の定、四組目の試合は、コルヴァス先輩の圧勝に終わりました。
本戦は三回勝てば優勝、ララ達は次が準決勝です。
ララ達の応援に、先ほど三組目の試合に勝利したカミュゼが来ました。
『カミュゼ、一回戦勝利おめでとう!』みなでカミュゼの勝利を祝福する。
カミュゼもまんざらでは無さそうに笑顔で返し、皆でカミュゼの試合の検討をする。
落ち着いたところで私は、気になっている事をカミュゼに訊ねてみる。
「ねぇカミュゼ、少し良いかしら?」
「どうしました? マディラ」
「気になってしまったのですが…… ララ達の試合って大盛り上がりなのに、あなた達戦士学校生徒の試合って地味よね?」
「ぐっ! ………………」
皆が目を見開いて私を見る。
あら? もしかして私、言ってはいけない事言ってしまったかしら……?
「マ、マディラ…… 本来のグラディアトルは、こんな感じなんだよ。 ララ達の試合が、派手過ぎると言うか…… 凄すぎると言うか……」
カミュゼが歯切れ悪く、言い訳をする。
「でもカミュゼ、コロッセウムでのグラディアトルとは―― 嫌な言い方で言えば娯楽場よ! お客様を楽しませて、なんぼの見世物では無くて? 逆に、競技・娯楽では無いと言うのなら、それはただの殺し合いでしかない」
カミュゼは、言葉もない。
「だからねカミュゼ、人は一度最高のショーを見てしまうと、元には戻れないもの! 来年、ディケム様達が参加しなければ、グラディアトルは盛り上がらないわ!」
『………………』 私が言いきると、みな黙り込む。
「もし戦士学校が、これからもグラディアトルをただの発表会ではなく、娯楽・興行として、国の一大イベントにしたいのなら、来年も魔法学校と共同で行う事を推奨するわ!」
わたしがそう言うと、後ろに居た老人が、感心したように私を見て言う。
「お嬢さん、貴方のいう事は正しい、そのように考えると致しましょう」
⦅だ、だれ?…………⦆
……戦士学校の校長先生だった。
「しかしディケム君、そこのお嬢さんが言ったように、君の仲間には花が有る! グラディアトルの一番の目的は、この陰鬱とした時代、国民みなに希望を持たせるのが最大の役目じゃ! この会場の観客皆が、君の仲間たちに希望を抱いた。 本当にありがとう」
校長先生がディケム様に深くお辞儀をし礼を言う。
「いえ校長先生、私の仕事は王都守護者ですから、国民の士気は国防にかかわる大事。 私の仲間は、いい仕事をしてくれています」
ディケム様が、それが私の仕事だと言うと、校長先生は嬉しそうに頷いていた。
私は戦士学校の校長先生ですから――
魔法学校のディケム様に思うところがあるのかと思いましたが……
流石は校長先生、小事にこだわらず、大局を見ていらっしゃるようです。




