第四章29 勇者ララの真価
マディラ視点になります。
その後の予選は、大方の予想通り――
Cグループ:鉄壁コルヴァス、大斧カヴァクリデ
Dグループ:カミュゼ、ギュヴェン
彼らが勝ち上がりました。
カミュゼは去年もコルヴァスといい勝負していたので、予想通りらしいですが。
ギュヴェンさんは、ディケム様の留学先のクラスメイト、予選通過は大金星だそうです。
そして、本戦トーナメントの抽選が行われました。
一組目:ララ 対 必中ヴィニコル
二組目:大斧カヴァクリデ 対 俊足トプハネ
三組目:剣豪ドルジャ 対 カミュゼ
四組目:鉄壁コルヴァス 対 ギュヴェン
ララ達の試合は一試合目、相手は必中のヴィニコル、弓使い同士の戦いみたいですね。
「ララ、次の本戦はどうするの? またギーズさんの奥儀でやっちゃうの?」
少し心配になったポートがララに聞いていると――
「いや、あれはちょっとやめておこう、女性には酷すぎる……」
「え! ……やっぱりディケムもそう思う?」
ギーズもやっぱり気にしていたみたいです。
「次はララの弓対決で良いんじゃないか? ララもギーズと同じ弓と精霊魔法の合わせ技で行ってみよう」
『うん』とララが頷く。
ララは、この戦士学校交流留学で相当自信をつけたみたいですね。
以前のララならば、二年年上の先輩戦士と相対するなんて、とても考えられませんでしたが……
今の様子では、勝つ事しか考えていないようです。
カミュイゼもそうでしたが、ディケム様、ラトゥール様と実戦経験を積むことは、とても大きな事なのでしょう。
私がララを見ていると、ディケム様がララに注意を促します。
「ただねララ、ギーズのを見たように、殺傷能力をかなり下げて撃たないとダメだよ!」
ギーズの顔が引きつっています。
「結構練習したから大丈夫、オリハルコンは魔法との相性良いから、威力が凄くなっちゃうんだよね。 ヴィニコル先輩を無力化する方向でやってみる」
ディケム様が頷きます。
そして本戦一回戦目が始まります。
ララ達が武舞台に現れると、コロッセウムは地鳴りのような歓声の渦に沸きます。
観客は、予選でのギーズの大技をここでも期待しているようです。
観客とは無責任なものなのですから、派手な試合ほど程盛り上がるものです。
そして、魔法学校の生徒達も、大盛り上がりです。
魔法学校と戦士学校は少なからず確執が有ります。
そして、このグラディアトルは戦士学校のホーム。
普通ならば武舞台での試合形式の戦闘は、魔法学校に勝ち目はありません。
魔法は前衛の戦士がいてこそ、後ろから撃てるのですから。
ですが…… ララ達は敵のホームで、魔法の圧倒的な力を見せつけています。
魔法学校はいかに『魔法が凄いか!』をこの機会に戦士学校に示したいのです。
対戦相手のヴィニコルチームが武舞台上がってきます。
そしてララに言い放ちます。
「ララさん! 私たちは貴女のそのミスリル装備の秘密を暴くために、負けられないのです!」
うっ…… ここにも、カワイイ装備に執着する戦闘女子が居ました。
もぅ――! 戦士学校の女子生徒は、こんなのばかりなのですか!?
試合開始の合図が鳴る!
試合開始直後、ディックとギーズが鋼の盾を構える。
⦅先ほどまで盾など持っていなかったのに…… 借りてきたのでしょうか?⦆
そして――― ララが弓を構える!
しかし矢は背中の矢筒に入れたまま。
ララがオリハルコンの弓に気(マナ)を練りこむ!
すると弓が光だし―――
弓の上段・中段・下段にクリスタルの矢が三本現れる!
⦅なっ! 何でしょうかあれは!⦆
『クリスタルアロー!』 ララが叫ぶ――!
ヴィニコルとララが同時に矢を放つ!
しかし、ヴィニコルの矢は普通の矢が一本、ララの矢は光り輝くクリスタルの矢が三本!
ララの『クリスタルアロー』は発射された瞬間、武舞台の空気を切り裂き、風を巻き起こし――
ヴィニコルの矢を跳ね飛ばし、相手タンクの盾に当たると爆発を起こす!
一瞬にして――
ヴィニコルパーティーの二人居たタンクは、盾を粉砕され、場外の壁に吹き飛ばされる。
そして一人いた剣士の剣は二つに折れてる。
ララは一射で三人を無力化してみせた。
『っな! ………………』会場の観客も言葉を失う。
その一瞬の出来事と、ララが放った弓矢の威力に、会場中が静まり返る。
「な、何ですか今の? 三射同時って…… 爆発って…… 弓の攻撃なのですか?」
私、ポート、トウニーも唖然とその光景を食い入る!
そして――
一射目が着弾したと同時に、ララは二射目をすでに番えている!
しかも今度はクリスタルの矢が一〇本!
『ッ――なっ! 一〇本!!』 私達は目を見張る!
ヴィニコルが叫ぶ!
「ちょっ! ちょっとまって―――!」
しかし…… 既にララのクリスタルアローは一〇本放たれている―――
ドォンッ──! ズッガガガガガガガガガガッ———!!
一〇本のクリスタルアローはヴィニコルの回りの武舞台に突き刺さり、大爆発を起こした!
そして、ヴィニコルはその爆発で場外壁に吹き飛ばされる。
そこで試合終了。
なんとか場外で体を起こしたヴィニコルは……
『ヒィィィッ!!!』
ララが既に次の矢二〇本を番えているのを見て恐怖する。
本戦一回戦目もララ達の圧勝で終わった。
「い、今の…… オリハルコンの弓と精霊魔法を組み合わせた攻撃なの?」
「同時に二〇本とか撃てるのですね……」
私達三人は唖然とその光景を眺めていると―――
騒然と静まり返っていたコロッセウム全体が――
歓声の渦に変わる!
オリハルコンの弓を持った、新たな可憐な勇者!
可憐な姿の見目が良いだけに……
新聞社は毎日ララを書き立て、国民は毎日のようにその絵姿を新聞で見る。
だが…… 今までまだ不明だったその実力のほどを、疑問視する者も居ない訳では無かった。
しかし、今! ララのその力は示された!
オリハルコンの弓だけでも強力なのに、精霊ルナの力がその真価を発揮させる。
今までのどの勇者よりも、ララの矢は強力だった。
いや正確に言うと、今までの勇者が、オリハルコンの装備を使いこなせていなかったのが事実なだけだ。
ララは観客の期待に応え、その強さを見せつけた!
この可憐な勇者に興奮しない観客など居るはずもない。
ララはその強さを示し、全観客を虜にし、興奮の渦に巻き込んだ!
私達は―――
コロッセウムの大勢の観客から、いつの間にか勇者として大歓声を受けるお友達の姿を武舞台の下から見上げる……
私達は誇らしさと一緒に、同僚がどこか遠くに行ってしまうような寂しさを感じていた。




