第四章28 グラディアトル予選
マディラ視点になります。
グラディアトル大会の開会式が始まる。
シャンボール王の挨拶が始まり――
次に魔神族大使としてラトゥール様の挨拶が行われました。
いつもディケム様のお屋敷で見るラトゥール様はとても気心の知れるお優しい方ですが、公の場に出ればやはりすごい方なのだなと改めて思います。
確かにディケムのお屋敷では雲のうえの存在だった、ラス・カーズ将軍やラローズ様までも下っ端のように過ごしています。
このような行事も、改めて自分の襟を正すために必要みたいです。
そして、選手チームの代表が予選でどこのグループで戦うかクジを引きます。
今年の優勝候補本命は四年、鉄壁のコルヴァスのパーティー!
最高学年の四年が強いとされるグラディアトルで、去年三年生にして優勝した猛者!
次点での人気の優勝候補は――
剣豪:ドルジャ(男)
俊足:トプハネ(女)
剛力:カヴァクリデ(男)
必中:ヴィニコル(女)
皆さま、コルヴァスと同じ四年生です。
この学年の戦士学校は、百年に一度の天才と謳われるコルヴァスを筆頭に、とても優秀な方たちが多かったようです。
クジの抽選が終わり、ララ達はBグループと決まりました。。
Bグループには、優勝候補の一角、俊足のトプハネが居ます。
トプハネは女性だからまだいいかなと思いましたが、魔法使い三人では、俊足のスピードについていけないのでは?
私がそんな心配をしていると…… ポートはララよりもカミュゼを心配そうに見ています。
この二人はすでにリア充なのですね……
私たちが身内の心配をしていると、予選の試合が始まります。
最初はAグループから、ここには優勝候補の弓矢を使うヴィニコルと剣を使うドルジャがいるそうです。
十五チームが本線トーナメントの二つの席をかけて、戦います。
これは…… 名が知られているチームが狙われますね!
特に次のララ達は注目の的だし、パーティーメンバーが三人と少ない。
しかもララ達はまだ二年生、四年生徒に狙われれば普通なら力の差が歴然です。
ララ達予選抜けられるのかしら……。
武舞台の上で繰り広げられるバトルロワイヤル。
私のような、貴族令嬢には少し刺激が強すぎます……
あら? でも何かしらこの高揚感は?
コロッセウム全体から湧き上がる大声援……
鍛え抜かれた体と技――
頭脳を駆使してぶつかり合う選手たち!
限界を超えた先で、お互いの全てを賭けて競う選手たち――
わ、わたくし目が離せません!
あぁ―― こんな中に、ララが入って良いのかしら!
もうドキドキが止まりません――――!!
「マ…… マディラちゃん、少し落ち着いて!!」
隣からトウニーに抑えられ、自分が拳を振り上げ、立ち上がり、我を忘れて応援していることに初めて気づきました……
あ、あらはしたないこと……
コロッセウムとはなんて危険な催しなのでしょう。
Aグループは、結局順当に弓のヴィニコルと剣のドルジャチームが勝ち抜きました。
番狂わせが起きない程、強いのですね。
そして次はいよいよララのいるBグループ!
私たち三人も、ララ達のサポートとして武舞台に移動し、ディケム様と合流します。
ラトゥール様は、賓客として王のそばに置いてこられたようです。
屋敷に戻ったら、慰めるのが大変そうです。
試合が始まる前に、ララ達にディケム様がアドバイスします。
「ララ、ディック、ギーズ。 このバトルロワイヤルは知名度の高いお前たちに不利だ! しかも人数も少ない。 正直に真正面から戦おうなどと思うなよ!」
三人が頷く。
「タンクの俺が抜けてしまった分、お前たちは、飛び道具しかない、的も同然だ! ならいっそ、大技の飛び道具で片付けてしまえ!」
『え? どう言う事?』とララが訪ねると……
「ギーズのシルフィードで皆吹き飛ばしてしまえば良い」
三人とも納得したようだ、吹き飛ばす方法なら他にもいくらでもあるらしい。
だけれど、この後の戦闘も考えると、切り札は出来るだけ多く残しておきたいみたいです。
「ララ、ディック、ギーズ がんばってね!」
私たちはララの手を握って、ケガだけはしないでねと応援しました。
私たちは心配でしょうがないけど、ダンジョンで魔王と戦ってきた彼らには、治癒魔法陣と防御魔法陣を組み込まれている闘技場での戦いなど、生ぬるいのかもしれません。
ララ達が武舞台に立つと、コロッセウムの観客たちは大いに沸き立ちました。
みな、オリハルコンの弓を持つララに釘付けです。
私たちも観客に合わせて応援です!
すると……、優勝候補の俊足のトプハネがララになにか叫ぶ声が聞こえます!
「ソーテルヌ侯爵様、近衛隊のララ――!」
やはり女の戦いが始まってしまったようですね!
私たちの心配通り、トプハネ先輩はララを一番意識している。
「あなたのオリハルコンの弓の力を見せてもらいたいが―― 正直、我々戦士学校の女子の注目は、貴方のそのミスリルのフル装備よ!!!」
『ん? あれ?』なにか違う方向にズレている?
「鋼の鎧以上の装備は人族には作れない! だからみな装備はダンジョンでのドロップ品! 私たちが着るのは、ゴツゴツした男も女もないセンスの悪いデザインの鎧ばかり! なのに――! 貴女のミスリルのフル装備はなぜそんなに可愛いの! 私たちは今まで、そのようなデザインの装備など見たことが無いわ! 試合に勝ったら、その秘密必ず教えてもらいます!」
闘技場の全女子がララを見て頷いている。
あ、あれ~? ララも困っていますよ……
確かに私たち魔法使いは布ローブだから、かわいいデザインを常に考えている。
強さにだけこだわっていると思っていた戦士系女子も、実は同じだったのですね!
今さら驚かされました……
あの無骨な鎧は仕方なく着ているだけだったのですね。
そして、私たちもオリハルコンの弓がインパクト有り過ぎて、ララのミスリルのフル装備をあまり気にしていませんでした……
でもララと会っても違和感を感じなかったのは、ララのミスリル装備がいつもの女らしいララのイメージ通りだったからです。
確かに、あらためて見てみると、ララのミスリル装備はかなり可愛い!
私たちも気づかなかった、女子ポイントを、戦士女子達は見逃さなかった!
いや、日ごろからカワイイに飢えている分、私たちよりも敏感なようです。
なにかAグループとは試合の雰囲気が違う感じですが……
Bグループも女の負けられない気迫を感じます。
そして、Bグループの開始の合図が鳴ると―――!
Bグループの女子が一斉にララに襲い掛かる!
え…… それは無理でしょ?
女子全員がララに襲い掛かるって――― ナニソレコワイ!
チームの男子もドン引きしているじゃない!
しかし……… ララは動じない、ピクリとも動かない。
そしてララの前にギーズが滑り込み、ミスリルの双剣に気を練りこむ!
気が練りこまれた双剣にシルフィードが宿る――!
そしてギーズは奥儀を放つ『颶風の双剣―――!』
ギーズを中心に高さ五〇メートルの強大な颶風の竜巻が派生する!
ギーズ達三人は竜巻の中心、目の中に居るので、影響はない。
しかし、武舞台に居る全生徒は、竜巻に呑み込まれる!
そして竜巻の中に発生した鎌鼬に切り刻まれる!
もちろん、ギーズは威力を抑えているので、生徒たちは武舞台の治癒魔法陣によりすぐに回復する。
しかし防具は回復魔法では直らない。
そして、何度も切り刻まれ回復を繰り返す、生徒たちの心のダメージも甚大だ。
竜巻が収まると、武舞台にはララ、ギーズ、ディックの三人以外は残っておらず。
他の生徒は皆場外、防具はボロボロになり、戦う気力も失い、へたり倒れこんでいた。
『ッ―――っな! 何なのですかこれは!?』私が呟くと……
ディケム様が呟きます『ギーズ…… やり過ぎだ……』
武舞台上のギーズも自分で驚いている様子でした。
コロッセウムの観客も、その巨大な竜巻に驚き、声を失っていましたが……
しばらくして、我に返った観客は、地鳴りの様な歓声を上げ、ギーズを称えました。
「ギ…… ギーズって、とてもお強くなられたのですね……」
私が呟くと、トウニーが不思議そうに私を見ました。
私は、一年半前、王都郊外で、はぐれファイヤーウルフと戦って死にかけていた少年を思い出します。
その後、ディケム様のお屋敷で再開した時は驚きました。
けれど、ギーズは気を失っていましたし、私は応急処置をして教会に預けましたので、私のことなど知らないでしょう。
私はその時の事は心にしまい、ギーズとは初対面として友人になりました。
こんなにカッコよくなるのでしたら、もっと仲良くなっておけば良かったかしら?
今日の試合を見たら、女の子はみなギーズを放っておかないでしょうね。
結局Bグループは、ララ達以外で予選をやり直し、順当にトプハネが本戦出場を決めていました。
ですが…… 装備もメンタルもボロボロでは、次の試合は勝てないでしょうね。
『少しやり過ぎた』とギーズがトプハネさんに謝りに行くと……
『ヒィィィィィィィッ――!』
トプハネさん………
ギーズのこと見たら、魔王を見たような顔で逃げ出してしまわれました。




