表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第四章 地底都市ウォーレシアと封印されし暗黒龍
136/553

第四章24 閑話 羨望と憧れと自戒1

コルヴァス視点になります。


 俺は焦っていた。

 ディケム様達は、毎日のようにダンジョンの最高到達点を更新していく。

 なのに俺はいまだに八階層を超えられない。


 ディケム様が、本来の力を使っているのなら、理解はできる。

 しかし、ディケム様は相変らず力を封印して、タンクとして参加し、攻略のメインは三人にやらせているらしい。



 正直…… ララさんも精霊ルナ様の力を抑えている状態なら、あの三人には、俺は引けを取っていないと思っている。

 そこにディケム様が加われば、それなりの強さにはなるだろう……

 しかし、ディケム様達はもう十二階層まで到達、いや攻略している。

 それなのに…… なぜ俺はいまだに八階層止まりなのか!



 そして今日、ディケム様からアドバイスをされる。

 正直、俺があまりにも悲壮感を漂わせ、無理をすると思われたのだろう……

 そして、それは事実で、すぐに現実となってしまう。


 その日、俺はとうとう八階層を抜け、九階層に到達!

 そして十階層までの目星をつけ、一度ダンジョンを出る。


 俺は次の日に十階層にトライすることを、管理局に告げる。

 管理局からは、九階層以降は何かあっても捜索隊を派遣出来ない事を告げられる。

 それはそうだろう、ディケム様以外は、初期の冒険家チームが何とか到達できた十階層だ

 誰が助けに来られると言うのか。




 その日、いつも俺の指示に口を出したことが無かった、白魔術師で唯一の女性メンバー、ティナが何故かこの十階層のトライに反対してきた。

 しかし…… 追い詰められていた俺は、彼女の言葉に耳を傾けなかった。


 そして、俺たちは十階層に挑んでしまう……



 十階層はアンデットのフロア、俺は盾でアンデットの攻撃を防ぐが、剣士二人の攻撃は一切効かない!


 俺のパーティー唯一の白魔法使いティナの攻撃は効くが……

 現実攻撃が通用するのがティナ一人のみ、攻撃と回復両方を行えば、すぐにティナの魔力は枯渇する。


 あとはただのスケルトンに追い込まれ、退路も断たれ、俺たちは逃げながら先に進んだ。

 致命的な強力なアンデットに出くわさなかったことが救いだった……

 いや、強力なアンデットが居るところまで、俺たちは進むことが出来なかったのだ。


 低級のアンデットから死に物狂いで無様に逃げまどい、偶然にもなぜかアンデットが入ってこない場所を見つける。

 ここは、もしかして安全地帯か? だがアンデットは入ってこないが確信は持てない!

 俺たちは体力の限界を迎えていたが、見張りを立て、二人ずつ眠ることにする。


 あまりの疲労に、一時間ほどの仮眠も泥のように眠る。

 しかし、起きるとそこがまだ地獄なのだと思い知る。


 正直、俺たちはもう詰んでいる…… 死に物狂いで逃げた為、帰り道も分からない。

 救助隊も来ない。



 俺は猛烈に後悔していた、俺がこのパーティーのリーダーだ。

 トライ前には、ティナからも中止を打診されていた…… なのに俺は決行してしまった。

 パーティーをこの状況にしてしまったのは俺の責任だ。


 パーティーメンバー全員、絶望感に憔悴しきっている。

 唯一の女性メンバー、ティナはもう発狂しそうな目をしている。

 何かのきっかけで、ティナの恐怖が決壊してしまうかもしれない……


 もう、誰も話すこともしなくなった、解決策が無いからだ。

 もうみな、恐怖におびえ死を待つだけになってしまった……




 何時間ここにいただろう、不意に何かの音が近づいて来るのに気づく……

 俺たちの死が近づいて来る音だと皆が思う。


「いや…… 助けて…… だ、だれか助けてよ!」


 ティナが泣き叫ぶ!


「コルヴァス! ねぇ、コルヴァスは百年に一人の天才だったじゃない! あなたのパーティーに入ったら、将来安泰だったじゃない! ねぇ、私こんな所で死にたくないよ! ねぇ! ねぇ! ねぇ――! 嫌だよ! 死にたくないよ! 助けてよ――!」


 ティナの精神は死を目前に、決壊してしまった。

 俺も、誰も、ティナの助けに応えられなかった……

 自分自身が死を目前に、恐怖に耐えられなかった……

 自分をコントロールできなかったからだ。



 そして――

 恐怖に震える俺たちの前に、ディケム様が現れた!!!



 ディケム様の周りではラトゥール様が、アンデットをなぎ倒している。

 俺たちの周りにフェアリーが飛んできて、傷をいやしてくれる。


「もう大丈夫だ、よく頑張った!」


 ディケム様のその言葉に、俺達全員が泣き崩れる。

 ディケム様は一人一人を強く抱きしめてくれた……

 その力強さに俺たちは、『本当に助かったんだ!』と安堵した。





 ディケム様はシャンポール王の勅命で動いていた。

 俺たちも冷静になり、周りを見てみると、ラトゥール様以外にもラス・カーズ将軍のチームも合流している。

 ディケム様のもと総勢十人の精鋭部隊だ。

 その勅命の途中に俺達を救出してくれたらしい。

 憧れのラトゥール様の印象が悪くなるのも当然だ。


 ディケム様は『時間が無いので、任務に同行しろ!』と、ソーテルヌ侯爵としての命令を下してくれた。


 気力もヤル気も全て折れてしまった俺達には『任務だから強制的に動け!』

 この言葉が有りがたかった、命令では無かったら俺もティナもとても動けなかっただろう。



 そして、ディケム様が地面に魔法陣を描き出す。

 これが噂に聞く転送の魔法陣なのか――! 凄い!


 俺が感嘆して、魔法陣を見ていると……

 転送魔法は莫大な魔力を使う、十人でも多いのに、さらに四人分など魔力の無駄だとラトゥール様が言う。

 ごもっともな意見だった、俺では転送など一人分でも魔力が足りないだろう……

 それを十四人、しかも寄り道込みなのですでに一回分無駄に使っている……


 ここで捨てられてもしょうがない……

 ティナの心が心配だが、一度立て直すことが出来たのだから、地力で戻ることを考えよう。


 しかし…… ディケム様は一切ぶれない、それが当たり前のように俺たちを連れていく。

 ディケム様の忠告を無視し、勝手に失敗した俺たちなのに。

 俺たちを見捨てない……


 本当に強い人とは、こう言う人なのだな、と俺は思った。

 俺は今まで『自分は強いのだ!』と、自分にも他者にも認めさせようとしてきた。

 しかしそれは、弱いくせにキャンキャン威嚇する子犬の様な……

 虚勢を張るハリボテの弱者の姿だったのだと理解した。




 俺たちはディケム様に言われ、転送魔法陣に乗る。

 初めて経験する転送だ、目の前が光に包まれ白くなり、少し酔ったような目眩がする。

 そして次に目の前の光が薄らいでいき、徐々に転送先の景色が見えてくる。


 そして、転送先には――― モンスターのリザードマンが俺たちを包囲していた。


 俺は戦闘態勢を瞬時に取る、

 ティナたち俺のパーティーは、心が折れたまま絶望で動くこともできない。

 一度地に落ちた俺への信頼!


 『ここは俺が命に代えて彼らを守る――!』と死を覚悟して、戦闘態勢に入いると……


 ラトゥール様に殴られる―― イタイ……ナンデ?



 ディケム様から――

「後で説明する、今は時間が惜しい、何も聞かず、何もせず、ただ俺たちについてこい!」

 と言われた。


 驚くことにリザードマン達は味方の様だった!

 そして、冷静になり風景を見ると、地上だと思ったココはダンジョンの中、十三階層の世界らしい。


 王城もある、街もある、店もある――

 しかし住人全てが魔物の世界、一つの国が地下ダンジョンの中に有ったのだ。


 信じられない事が、俺の想像をはるかに超える出来事が起こっている。

 事のスケールの大きさに、頭がついてこない……


 俺たちの十階層の攻略など、ほんの些事なのだと現実を突きつけられる。


 ディケム様…… 貴方は本当に何なのですか?!

 どうしてこのような理解もできない、大きすぎる出来事に対処できるのですか!?




 ディケム様達は、十四階層にいる、パズズという魔王を倒しに行くという。


 いや…… 魔王って軍隊で倒しに行く存在ですよね?


 しかも、すでにリザードマンの精鋭部隊四十名が突入して全滅したらしい。

 それはもう無理だろう……



 しかし、ディケム様もラトゥール様も少数精鋭で攻めると決められた。

 そして、そのチームに俺も入っていた。

 俺はティナ達を見たが、彼女たちは下を向いたままだった。

 とても戦闘に加わりたい精神状態ではないようだ。

 それはそうだろう、やっとの事で繋いだ命なのに、今度は魔王討伐など命がいくつあても足りない。


 だが、ディケム様達の話だと、逆にここで戦闘に参加して、トラウマに打ち勝たせるのだと。

 ティナ達は、攻略組ではないが、王都防衛に参加することになった。



 各部隊事に、細かい打ち合わせをする。

 攻略組は、魔王相手にもディケム様の力を封印して戦うみたいだ。

 さらにギーズにパズズのスキル、『アバドン』をラーニングさせたいという……

 嘘だろ!?  魔王相手にそんな余裕があるのか?

 でもラトゥール様は当たり前のように頷く。


 そしてディケム様は俺とカミュゼに言う!

 『魔神族の将軍と共闘出来る機会は少ない、このチャンスを生かせ!』と……


 ディケム様は魔王相手でも、俺とカミュゼに経験させようとしている。

 俺はビビりまくり、死なない事ばかり考えていたが、カミュゼはディケム様を信頼している。


 あの顔は、負けることなど考えても居ない顔だ――

 カミュゼに対し『死地を経験していないからだ!』

 そういう思いがカミュゼに対し無いわけではない………

 だが、ディケム様とラトゥール様がいらっしゃる部隊で経験を積めるのだ、今はカミュゼが正しい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ