表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第四章 地底都市ウォーレシアと封印されし暗黒龍
134/553

第四章22 熱風と疫病の魔王パズズ


 魔王『パズズ』。

 獅子の頭と腕、ワシの脚、背中に四枚の鳥の翼とサソリの尾―― まさに魔王の風格!

 ラスボス感が半端ないが…… 愚者の手を奪った悪魔はこの下、十五階層に居る。

 こいつは魔王だが、フロアボスでしかない。



 俺たちは、打ち合わせ通りの陣形を組む。

 ギーズを囲むように、皆身構える。


 魔王パズズはゆっくりと玉座のような椅子から立ち上がる、そして―――


「フン! 今度は人族だと? しかもたった七人だけで俺に挑みに来るとは…… まぁ~ 何人来ようが、リザードマンも人族もゴミと変わりない。 すぐに死ね!」



 ドォ―――ン!

 ゴォォォォォォォ――――――――!!!



 開戦即、『アバドン』を放ちやがった――!



 生有る者は息絶えるほどの熱風が吐き出され、フロア全体に吹荒れる! 

 その熱風の中に大量のイナゴが居る、だが魔王が吐き出すイナゴが普通のバッタであるはずがない!

 全ての者を食らい尽くそうと、強靭な顎で襲ってくる!

 そしてイナゴに噛まれた者は…… 肉を食いちぎられ疫病に感染し、息絶えた所にまたイナゴにたかられる。

 蘇生アイテムすら使う暇がないほど、『アバドン』が吹き荒れた後には何も残らない。

 


 リザードマンの精鋭たちはこの一撃で全滅したのかもしれない。

 それほど強力な威力だった。


 だが、俺たちは精霊の加護を何重にも重ね掛けし、アバドンに対して万全の準備をしてきた。


 『な、なんだと!』 パズズが大きく目を見張り叫ぶ。

 全滅させたと確信していたのだろう。


 『甘い!』 ……と言いたいところだが、俺たちも冷や汗ものだった……

 ギーズが瀕死の重傷だ!

 パズズに悟られないよう、ララが回復する。


「ギーズ…… どうだった?」


 俺が聞くと、ギーズは首を横に振る。

 まぁそりゃそうだろう、今までのラーニングが上手く行き過ぎただけだ、そんなに簡単にラーニング出来たら、パズズ固有スキルなんて言われなくなる。


 まぁ普通はラーニングする前に、チリとなるだけなのだが……

 それでも、ギーズは有利なはずだ。

 精霊シルフィードがそれとなくバックアップしてくれている。

 普通なら、一切加護無しでアバドンなんか喰らったら、一瞬でチリと化していただろう。



 気を取り直して仕切り直そうと思っていると……

 コルヴァスとカミュゼの動きがおかしい!

 明らかに今の一撃でビビってしまった。


 二人は加護のおかげで、無傷のはずなのに―― もし加護が無かったら一瞬でチリとなっていた?

 この事実が二人の心を弱らせる。


「ラトゥール、二人を後方に後退させろ!」


 俺はパズズの前に飛び出し、パズズを攻撃し俺にヘイトを集める。


 その間に、ラトゥールがコルヴァスとカミュゼ二人をひっ捕まえ、後ろに投げ飛ばす!


「貴様らどけ邪魔だ! ディケム様の邪魔をするな!」


 ⦅あ、いや…… ラ、ラトゥール…… ちょっと二人の扱いが雑!⦆

 

 俺が心配していると、投げ飛ばされた衝撃で二人が我に返る。

 直ぐに戦線に戻ろうとするが、ラトゥールが制す。


「お前らは邪魔だから後ろでしばらく待機だ! ディケム様の戦いを見て学べ! 戦いのさなか、敵を前に戦意を失うなど致命的だと知れ!」


 タンク:俺

 剣士:ラトゥール

 ヒーラー:ララ

 攻撃魔法:ディック


 この陣形に変更、ギーズはラーニングの為待機。


 いつもの四人チームに、ラトゥールが加わっただけだが、劇的にパーティーのレベル上がる!

 もちろん、ラトゥールにはギーズのラーニングが終わるまで、力を抑えるように言っている。


 ジリジリと追い詰められる、パズズが焦りだし、アバドンを連発する!

 ダンジョンがパズズの『アバドン』の威力に揺れ動く!


 だが一度見た切り札は、切り札とは成り得ない――

 いや申し訳ないが、ラトゥールが加入した事で、俺たちはパズズより明らかに格上だった。

 五度目の『アバドン』でギーズはラーニングを達成した。

 直ぐに、ギーズに加護を付与し、少し休むように言う。


「さて、もう本気を出しても良いですよね!」

 ラトゥールが嬉しそうに言うが、俺は否定する。


「ダメだラトゥール! コルヴァス! カミュゼ! スイッチ! お前らが前に出ろ!」


 俺たちの戦いを見て、少し心に余裕が出た二人が前に出る。

 そして俺とラトゥールが下がる。

 申し訳ないがララとディックはそのまま継続だ。


 マナラインでマナをブースト供給しているので、二人共大丈夫だろう。

 だが、ラトゥールが聞いてくる。


「ディケム様、二人に経験を積ませるのは良いのですが…… ララとディックは戦い過ぎでは? もう魔力がもたないのでは無いですか?」


 俺は得意そうにラトゥールに言う。

「ラトゥール! ララとディックのマナを探ってみろ! 少しは見えるのだろう?」


 ラトゥールがじっくり二人を見てマナを探る、そして目を見開いて驚く!


「こ、これは!」


 そして俺を見て、納得したように頷く

「こんな…… こんな事が可能なのですか?!」


「この三人は特別なんだよ」

 俺がそう言うと、ラトゥールが少し拗ねて、羨ましそうに三人を見る。


「ディケム様! 私もディケム様と身も心も繋がれば! マナで繋が…… グハ」

 変な事を言い出したので蹴っておいた!



 そんな冗談を言いながらも、ラトゥールはしっかり戦闘中の四人を見て、危ないときは、サポートしている。


 ゴォォォ――――――! ドゴォォォォ―――――!


 コルヴァスとカミュゼに変わっても、形勢を押し返せず、パズズが焦りに任せて『アバドン』を放つ!


 精霊の加護を何重にも重ね掛けし、万全の耐性を持つ彼らには効かない!

 そしてそれが彼らの自信になる!

 コルヴァス、カミュゼ、ディック、ララが魔王パズズを追い詰める!



 このまま、四人の戦いを見ていたかったが…… ダンジョンの天井にひびが入る!

 パズズの『アバドン』は俺達にはあまり効かないが、このダンジョンにはかなりのダメージが入っている。

 上の階層のウォーレシア王国は今頃、頻発して起こる地震に生きた心地がしていないだろう。


 しかし、そろそろ決め時なのだが…… カミュゼの決定力が無い。



 俺は『言霊』を全員に飛ばし、全員をグループ化した念話のような状態を作る。

 これで、こちらの会話はパズズに聞こえない。


「カミュゼ! お前必殺技とか無いのか?」


「次元連斬四連撃が有るのですが――! 溜めが必要な技で! 放つ余裕がありません!」


 放てなければ、その必殺技意味無いじゃないか…… などと思いつつ。


「ギーズ! ラーニングしたアバドン、俺が言うタイミングで放ってくれ!」


 皆から息をのむ声が聞こえる…… だがギーズは頷く。


「カミュゼ! 時間を作る、ギーズの攻撃の後にその『次元連斬四連撃』を放て! コルヴァス! 二分だけ俺が良しというまで一人で頑張れ!」


「「はっ!」」


 コルヴァス以外が一度後退し、気を練る。

 パズズは、カミュゼが下がるのを見て、チャンスとばかりにコルヴァスに襲い掛かる。

 だが、味方を守る事から解放され、自分の守りを固める事だけに集中したコルヴァスは、そう簡単に崩せない。

 二分ぐらいは大丈夫だろう。


 皆の準備が整ったとき、コルヴァスが体制を崩す、俺が介入しようとしたが……

 それよりも早く、ラトゥールがパズズに殺気を叩きつける。

 その殺気にパズズが驚き飛びのく!


 おれはその隙を利用する。


 『ギーズやれ!』 俺の指示と共に、ギーズがパズズにアバドンを放つ!


 『なっ! なんだこれは―――!』 パズズが目を見開き驚く。


 自分の技を受けたのは初めてだったのだろう、耐性を持っているようだがパズズの動きが止まる。


 しかも、今まで受けたダメージに加え、ギーズのアバドンはシルフィードの力が上乗せされてさらに強化されている!

 ギーズのアバドンが巻き起こす、竜巻とイナゴがパズズをズタズタに切り裂く!

 さらに疫病がパズズを侵食していく。


 何が起きたか分からないパズズが呆然と立ち尽くす―――!

 その最高のタイミングで、カミュゼの『次元連斬四連撃』が発動する!!!




 ⦅⦅⦅⦅ いっっっけ――――――!!! ⦆⦆⦆⦆




 これ以上ない最高のタイミング――!

 全員がカミュゼの『次元連斬四連撃』がパズズにトドメを刺すところを刮目した!


 ⦅………………⦆⦅………………⦆⦅………………⦆⦅………………⦆


 はずだった………




 気を十分に練った『次元連斬四連撃』が発動すると――! 

 カミュゼの鋼の剣はその衝撃に耐えられず爆散した…………


 『…………え?』 誰もが目を疑った次の瞬間!

 ディックがミスリルの槍で、パズズを貫いていた。



 パズズは消滅していく…………



 結果的には、今までのダメージの蓄積と、ギーズの『アバドン』の威力が強すぎて、パズズを瀕死まで追い込んでいたようだ。

 カミュゼの必殺技は必要なかったみたいだが…… 最高の見せ場だった事は疑いようも無い。



 魔王を倒して、みな健闘を喜び合う。

 そして…… 膝をつき、愕然とするカミュゼだけが残される。


「ま~ あれだ! 武器が爆散するほどの技だったって事で――」


 ディックがカミュゼを慰めるが……


「フン! 武器の強さも含めての強さだ! 鋼の剣しか準備出来ないお前が悪いのだ! ディケム様の作ってくれた最高の見せ場で、失態を犯すとは…… お前など死んでしまえ!」


 相変らずラトゥールは俺がかかわると、言葉が辛らつだ。


「ま~ 今回の収穫は素晴らしかった! カミュゼの技も予想外の威力だった! あの技に見合う武器を探そう!」


「はい、ですがその……、 父から貰った大切な鋼の剣が―――」


「あ~ カミュゼ。 鋼の剣で良いなら、ウォーレシアの町で普通に売ってるよ。 買って帰ると良いよ!」


 『ッ――っな!』 カミュゼとコルヴァスが目を見開き驚く!


 そうこうしていると、パズズが座っていた玉座に、宝箱が現れる。

 ギーズが鑑定の魔法を唱えるが、『鑑定不能』となった……。


「鑑定不能だと? 加護も防御魔法も今フルにかかってるし、罠あっても大丈夫だろう。 開けてみよう!」


 俺はそう言い、宝箱を開ける。

 するとそこには、銀と真鍮と真珠を混ぜ合わせたような、神秘的な金属でできた弓が入っている。


 ギーズが呟く。

「こ、これはオリハルコンの弓!」


「おぉ~! なかなかの逸品じゃないか! 『オリハルコン』の武器なんて、そうそう手に入れられるものじゃないぞ!」


 おれもそう言い、ララに手渡す。


「え? え? わ、私し? 私こんな武器おこがましくて持てないよ!」


 ララが謙遜して断ろうとするが、ラトゥールがしかる!


「ララ! 先ほどのカミュゼの阿呆を見たであろう! お前はディケム様のパーティーで重要なポジションだ! そのお前が良い武器を持っていなくては、大事なところでミスが出る。 またディケム様の策を潰しかねぬ! お前の謙遜が、パーティーのミスにつながると何故わからぬのだ!」


 ラトゥールの俺至上主義はどうかと思うが……

 言っていることは正しい、いい先生役になっている。

 ラトゥールの言葉に全員が頷く。


「むしろ、ララさんにこそ相応しい、貴女の価値はオリハルコン以上だと思いますよ! それに、弓使えるのララさんしか居ないしね!」


 コルヴァスがララをベタ褒めする、ララはコルヴァスの信頼を勝ち取ったようだ。



 この魔王パズズ戦、ギーズの『アバドン』ラーニングに続き、オリハルコンの弓など、大きな成果もあったが……

 やはり、コルヴァスの有用性とカミュゼの奥儀が大収穫だった。


 なんとかコルヴァスを俺の部隊に誘い、カミュゼをもっと鍛えなければ!







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ