第四章20 ダンジョン十四階層の悪魔
俺は大声で、リザードマンの兵士たちに言う――
「シャンポール王国のソーテルヌだ! 今戻った――! ミュレテフ将軍はいるか?!」
兵士たちは、敬礼をして、直ぐに将軍を呼びに行く!
だが何かおかしい……、 何があった?
『ディケム様』とラトゥールもリザードマン部隊を取り巻く、異様な殺気に気付き、注意を促してくる。
俺達が警戒心を高めていると――
『ディケム様――!』 ミュレテフ将軍が走って来る。
「おぉ! この方たちは地上のシャンポール王国の援軍ですね」
そう言い、ミュレテフ将軍は皆に深く頭を下げる。
「っで? 兵士たちが異様に殺気立っていますが、何かあったのですか?」
おれが訊ねると―― ミュレテフ将軍は答える。
「実は昨日…… ヒュドラに勝ったことに高揚した一部の兵士たちが、自分達だけでも十分アウラ様を救出できると言い、出兵してしまい……、 先ほど、全滅したと報告が来たのです!」
「なっ――! ミュレテフ将軍! その懸念を予めあなたに伝え、必ず二日で戻るから待てと言ったでは無いですか!」
予期していて、すでに念を押していた事だけに……
つい強い口調で言ってしまった。
「面目ありません、何度も止めたのですが、叶いませんでした。 リザードマンは元々血の気の多い民族、私は将軍などと言っていますが、あまり皆には良く思われていなかった様です……」
もう過ぎたことは致し方ないだろう…… そう思っていると――
またラトゥールが切れだす!
「このトカゲやろう! ディケム様の命令に背くなど、悪魔の前に私が殺してやろう!」
コルヴァスの件で、かなり不機嫌だったラトゥールがとうとう激怒してしまった…… コワイ
「ま、魔神様――! 平にご容赦を!!!」
リザードマン達がラトゥールを見て震えあがり、その場にひれ伏す。
魔物達にとって、魔神は崇めるべき上位の存在なのだとか……
俺がまたラトゥールを『どぅどぅ』となだめ、ミュレテフ将軍に話す。
「それでミュレテフ将軍、全滅した兵士はヒュドラ戦で選出した精鋭たちですか?」
俺は聞くまでも無い事を聞いた、ヒュドラ戦で高揚して行ってしまったのなら、精鋭たちなのだろう……
「はい……」
「それで、何人死に、行かなかった兵士は何人いるのですか?」
「四〇名行きほぼ全滅です、一人だけ重症ですが戻りました。 討伐に参加しなかった、いま戦える精鋭兵士は一〇名ほどです。 ディケム様、残りの兵士から、まだマシなやつらを選び直しますか?」
「その前に、ヴィラドルジャ王は、何とおっしゃられていますか?」
「王もたいそうお怒りのご様子でしたが――! 起きてしまったことを今考えるより、ディケム様の指示のもと、一日でも早く立て直し、アウラ様を助け出すことを最優先とする! とおっしゃられました!」
俺は了承の頷きで返す。
「わかりました、では我々の攻略は変更なく行う! それでミュレテフ将軍、さきほど一名戻ってきたと言いましたが、十四階層とフロアボスの情報は手に入いりましたか?」
「はい、十四階層は悪魔のフロア、フロアの魔物は下級悪魔、インプ、リリス、ウコバクなどだそうです」
「ウォーレシア王国軍も、そこは抜けられたのですが……」
四十人のリザードマン精鋭軍団だ、下級悪魔は余裕だろう。
「という事は、フロアボスに全滅させられたという事ですか?!」
「はい…… フロアボスで全滅したとの事でした。」
みな静まり返る。
「そのフロアボスは、あの…… 【魔王パズズ】だったそうです―――」
みな絶句する――!
そしてラス将軍がつぶやく……
「パズズだと? 風の魔王、疫病の魔王…… とにかくダンジョンのフロアボスに出てくるような存在ではない!」
ドーサックも呟く……
「そんな存在、軍隊でせめるべき相手じゃないか?」
「だが…… たった四十人とは言え精鋭の軍隊で攻めても返り討ちにあったのだ、並みの軍隊ではダメだろうな!」
ラトゥールがそう言い、さらに俺に提案する。
「むしろダンジョンという立地を考えると、少数精鋭で行くことを、推奨いたします――! ディケム様!」
「そうだな! おれも同じ意見だ。 部隊編成を変える! 四人で行くつもりだったが……、 事態は刻々と変わっているようだな、パーティーメンバーを再編成しよう」
再編成と聞き、ラトゥールが嬉々としてはしゃいでいる……
やはり一緒にダンジョン攻略に行きたいのだろう。
魔王が居るとなると…… さすがにラトゥールは外せなくなる。
そして俺はメンバーを決めようとしたとき――
ミュレテフ将軍が言いにくそうにさらに報告する。
「ディケム様、じつはヴィラドルジャの精鋭部隊が魔王パズズを攻めてから、魔王を怒らせたらしく…… 十四階層からこの国へ悪魔が溢れてきています!」
「ッ―――なっ! スタンピードが発生しているのか!? だから国全体の雰囲気が殺気立っているのか?」
俺が難しい顔をしていると、ミュレテフが言う。
「いや、十四階層のみの魔物が出てきているだけなので、スタンピードと言うほどでは無いです。 精鋭部隊で突撃していけば、魔物の群れを突破して進む事は容易でしょう!」
通常のスタンピードだと、ダンジョンの全階層の魔物が溢れ、ダンジョン出口に押し寄せる。
だが今回は、十四階層の魔物が集まって出てきているだけなので、スタンピードとは言えない規模らしい。
少し安堵した俺は、攻略メンバーを決める。
<攻略組>
前衛:ディケム、コルヴァス
中衛:ラトゥール、カミュゼ
後衛:ディック、ギーズ、ララ
<ウォーレシア王国守備隊>
ラス将軍、ラローズ、ドーサック、ポート、コルヴァス隊(コルヴァス除く)
俺が二組に分けると、ラス将軍が心配そうに尋ねる。
「ディケム様、コルヴァス隊の彼らは、先ほどまでダンジョンで遭難したばかり! この戦いに投入するのは…… 如何なものでしょうか?」
「ラス将軍! だからこそでしょう!? このままでは、彼らはトラウマを抱えてしまう。荒療治ですが、彼らの今後の為にも今戦わせなければなりません! コルヴァス達はここで終わらせて良い人材ではありません!」
戦争やダンジョンで、生死の境を経験した者は、トラウマを抱え戦えなくなる者も多い。
荒療治として、直ぐに戦闘に参加させ、トラウマにならないようにする。
ラス将軍は驚いた顔で答える。
「なるほど――! そのようなトラウマ克服方法があったとは……」
ラトゥールがウンウンと頷いている。
あれ? この荒療治、魔神族仕様だったかな……?
「コルヴァスとカミュゼは、最前線、しかも魔王との戦闘になる。 危ないと思ったらすぐに引け!」
『はっ!』 二人は元気に返事をする。
「だが! 魔神族の将軍と共闘出来る機会は少ない、このチャンスを生かせ!」
「はっ!」
「ラトゥール! 出来ればでいいのだが、ギーズにパズズの『アバドン』を覚えさせたい。 倒すのはラーニングしてからにしたい。 もちろん、危険な場合はすぐに倒す!」
「はっ!」
俺が方針を言うと、ラトゥールは素直に聞いてくれたが……
ラスさん達から、魔王相手に何をバカな事を言っているの?この子は……。
とアホな子を見る目で見られる……
だいたいの方針を決め、各部隊事に細かい打ち合わせをする。
その時に、コルヴァス隊のメンバーに、この地下都市の事などザックリ教えておいた。
みな戦闘準備を終え、突入開始だ――!




