第四章19 救出
翌朝、ソーテルヌ侯爵邸に俺達四人とラトゥール。
ラス将軍、ラローズ、ドーサック、カミュゼ、ポート 。
この十人が集まった。
「ポート、カミュゼから聞いているとは思うが、突然の招集申し訳ない。 だが、国防の重要案件だ、精霊使いとしてのポートは守りに必要なんだ」
『はい』とポートは素直に答えてくれた。
「それでは皆、準備は良いか?」
そこで、先ほどから何か問題を抱えていそうなドーサックが、発言の許可を求める。
「ソーテルヌ卿……! この国の大事な時に、些細な事なのですが――」
「なんでしょう?」
「実は昨日、ダンジョンに潜ったコルヴァスのパーティーが戻らないのです」
『っな!』 皆は驚くが――― ラトゥールが怒る!
「チッ! この大事な時に、ディケム様の邪魔をしおって!」
ラトゥールの剣幕にドーサックが恐縮している。
「ラトゥール様、教師の監督不行き届きです、申し訳ございません」
俺は迷いなくドーサックに問う。
「ドーサック、どこらへんで行方不明になったのか分かるか?」
「多分、十階層だと思われます」
「十階層まで抜けたのか…… よし、救出してから、ウォーレシア王国へ向かう!」
ドーサックが少し安堵のため息を吐く。
俺は、十階層のフロアボス扉前への転送の魔法陣を描く。
今回は、初めてこのダンジョンに入る者も居る、ボス部屋に飛んでしまうと、ボスがポップする可能性が高い。
このメンバーならば、十階層のボスなど瞬殺だろうが…… その時間すら惜しい。
俺の『十階層へと飛ぶ』の言葉に、ララが物凄く嫌な顔をする……
十一階層の虫より良いだろ? と俺は思う。
「皆、十階層は、アンデットのフロアだ! 行くぞ――!」
俺は転移魔法陣にマナを流し込み、皆で転移する。
十階層に転移すると、初めての転移を経験する者も居たみたいだ。
『おぉ!』とか『凄い!』とか驚きの声が聞こえる。
転移陣は、大量のマナを消費する。
大いなるマナと繋がる俺には問題ないが、普通の術者では十人を転移させる事は難しいだろう。
『さすがですディケム様!』とラトゥールもほめてくれる。
到着と共に、ララがルナの加護を発動、皆に対アンデット用の加護を与える。
「さて、コルヴァスはまだ、ボス部屋まではたどり着いていないようだな」
皆が頷く。
「ラローズ、ララ、ギーズ、ポートは眷属を使い、早急にこのフロアを探索! コルヴァスを探しだせ!」
『はっ!』俺の指示に四人が動く。
ラローズはウィルウィスプ、ララはフェアリー、ギーズはニンフ、ポートは木霊を呼び出し捜索開始する。
十分くらいの捜索したところで、『見つけた――! 』とララが叫ぶ!
「フロア中ほどの安全地帯で、動けなくなっています!」
「よし救出に向かう!」
先頭はイライラしているラトゥールがゲイボルグで、バッサバッサと雑草を刈るようにアンデットを薙ぎ払い進む。
ラスさん達はドン引きだ。
ゲイボルグには、対アンデット効果もあるようだ。
ラトゥールのおかげで、敵がポップしなかったかのように目的地に最速でたどり着く。
コルヴァス達は安全地帯で縮こまっていた……。
だが遠くから迫って来るラトゥールの殺気を感じ、生きることを諦めた顔をしていた。
すぐにコルヴスチームの状態を見るが……
ケガは俺たちが向かっている間にララのルナの眷属フェアリーが、治療してくれたようだ。
コルバス達は最初、放心状態のまま何が起こったのか分からない顔をしていた……
俺はコルヴァス達に言葉をかける――『もう大丈夫だ、よく頑張った』と。
彼らはその言葉でやっと自分たちが救出されたことを理解する。
そして俺の顔を見ると、コルヴァス達は安堵したように、地面に崩れ落ちた。
「すみません…… すみません……」
コルヴァスが震えながら泣き崩れ謝る。
九階層以降は捜索隊を出せない、ダンジョン管理局からは通達と注意がされていたはずだ。
だから安全地帯に逃げ込んでも、助けが来る希望は無い。
それどころか、マナが見えないコルヴァス達は、この場所が安全地帯だという確証もなく震えていたはずだ。
コルヴァスパーティーのメンバーも目の焦点が合わず、ガクガク震えている。
とくに白魔法使いのティナはかなり精神的に追い詰められている……
俺は友人としてコルヴァスの肩をグッと抱き寄せ、力いっぱい抱きしめて、『もう大丈夫だ!』と声をかけた。
そして、思考を切り替えて、学校の友人ではなく、ソーテルヌ侯爵として、コルヴァスと向き合う。
「コルヴァス! いま我々は重要任務で行動している! 正直、君たちの捜索は予定外だ!」
コルヴァス達は頭を下げる。
だがティナは『ひっ!』、『置いていかないで……』とすがりつく目で見てくる。
「地上に送り返してやりたいが、事は急を要する。 火急的措置として、俺たちと一緒に行動を共にしろ!」
俺の落ち込んでいる暇はない! すぐに立ち直れ! の叱咤の意図に気づき、
コルヴァスの思考が再起動した。 まぁまぁ合格点だろう。
「大変申し訳ありませんでした! 同行よろしくお願いします!」
「フンッ! 貴様らディケム様の邪魔になる様なら、即私が叩き切ってやるからな!」
ラトゥールがメチャクチャコワイ! 魔神族とはこれほど厳しい国なのだろう。
寄り道任務は完了したので、俺は転移魔法陣を地面に描く、座標はウォーレシア王国場内広場だ!
ヴィラドルジャ王には、そこに戻ると言ってある。
俺は魔法陣にマナを注ぎ始めると―――
コルヴァス達が感嘆の声を上げる。
『ギリッ!』
それがラトゥールの感に障ったようだ……
「ディケム様、ただでさえ転移させる人数が十人と多かったのです、さらに四人増えるなど、大切なディケム様のマナの無駄使いです! やはりこの様な愚かな邪魔者は殺しましょう!」
皆の顔が引きつる……
俺が『どぅ、どぅ、どぅ……』とラトゥールをなだめ落ち着かせる。
ラトゥールは一度でも俺の邪魔をした者に容赦がない。
マナの充填は完了して、俺たちは転移魔法陣で、地下都市ウォーレシア王国へ飛んだ。
魔法陣から、俺たちが出てくると、周りにはリザードマン達がいた。
驚いたコルヴァス達が戦闘態勢に入るが――― ラトゥールに殴られる。
俺はコルヴァスに言う。
「コルヴァス! 後で説明するが、今は時間が惜しい、何も聞かず、何もせず、ただ俺たちについてこい!」
『はい!』ラトゥールに殴られ、冷静になったコルヴァは頷く。




