第一章12 マナ・ライン
「ディケム遅い! みんな待ってたんだから帰りにクレープおごりね」
やっとの思いで『鑑定の儀』を終え皆と合流すると、ララが頬を膨らませて言ってくる。
「ちょっ! ララ、俺が何かして遅くなったんじゃないって...酷くないか?」
「ララが言うのも分かるほど待たされたからな」
「おごりはともかく、どこかでお茶でもしながら能力談義でもしようよ」
「クレープとはなんじゃ? うまいのか?」
「え……… ウンディーネはもの食べられるの?」
「先程食べられるようになったぞ!」
「先程ってなんだよ! 都合よすぎないか?」
「いや、基本はディケムのマナで生きているのだが、お前の能力レベルが先程上がってな。 それと同時に妾のレベルも上がりさらに上位の存在に昇格したのじゃ。 どんな時にでも鍛錬をしている行ないのおかげじゃな」
「なるほど…… それはよかった。 寝ている時にまで訓練させられてるからな」
「なにそれ! 寝ている時まで訓練って……コワい」
「それ聞くと焦るな! 寝てる時間までディケムに差を広げられてるなんて」
「そりゃ~妾が契約した者じゃぞ! むしろ凡人などでは妾が許すはずがなかろう」
俺たちはワイワイとクレープ屋に向かう。
先ほどの緊張感から解放され、やっとリラックスできた。
やっぱり気心の知れた幼馴染は良い。
「なるほど! それはすごい」
「―――ッゲ! ラス・カーズ将軍!」
「ラス・カーズ将軍って? だれディケム?」
騎士団マニアのギーズが大興奮でララに説明する。
「――ララ!こちらの方は王国騎士団第一部隊隊長ラス・カーズ将軍だよ。 誰なんて失礼じゃないか!」
「ララ、先程鑑定の儀で俺がお世話になった人だよ。 ちなみに俺が遅くなったのもこの人のお陰ね」
「ハッハッ ディケム君手厳しい。 だがその通りだ。 みなさん突然の訪問で申し訳ないが私はラス・カーズという。 今は非番なので将軍は無しでラス・カーズと呼んでほしい」
「ではラス・カーズ様、しばらく考える時間を頂いたと思いますが今はなにかご用なのでしょうか?」
「いや、しばらくこの村に駐留すると話したがまったくこの村を知らなくてね。 一人だと寂しいからご一緒できないかなと。 ハハ」
「ハハ ではないわ、この阿呆! おまえ本当にそれでも将軍か!」
「ウンディーネ様も手厳しい。 将軍って役職は本当ですが、将軍だって普通の人間ですからクレープぐらい食べたくなりますよ。 もちろん、大人の私が皆におごりますよ!」
「よし、同行を許すぞ! ディケムよクレープ屋へ急ぐのじゃ!」
「ウ、ウンディーネ……… 威厳が………」
「わ~い、クレープ♪ クレープ~♪」
「ララはホント、甘い物が好きだな」
そんなわけで、俺達はなぜかラス・カーズ将軍と共に、お茶をすることになった。
「それではクレープも来たところで、皆の能力談義開催しましょ~ ワァ~ パチパチ」
「ララ……… テンション高いな、よっぽど鑑定結果が嬉しかったんだな」
「ウンウン! 私はね~白魔法だったの~♪ ね~すごくない? 家業がパン屋なのに白魔法よ!」
「「「おぉぉぉ!」」」 ララの結果にみな驚く!
「それで想像はつくけどディケムは?」
「精霊使いだって」
「………え? 精霊使いってなに? ま~見たまんまだけど、魔法使いとは違うの?」
「精霊使いは簡単に言うと、魔法プラス精霊魔法というイメージじゃ。 魔法使いが魔法を極めた後に、さらなる力を求めて精霊と契約する感じじゃな。 モグモグ…… ララのクレープも少し食べさせるのじゃ」
「っあ、はいどうぞ……。 凄いじゃないディケム、いきなり魔法使いの上位職じゃない!」
「馬鹿者! 言葉上は良いが現実はそんな甘い物じゃない! いきなり上位職になったところで、魔法がすべて使えるわけがない。 同じウォーターの魔法を打ち合ったのなら勝つかもしれぬが、人の日々の鍛錬の経験値をなめてはダメじゃ。 強さとは魔法の威力だけではなく、経験も込みの総合力じゃ」
「………モグモグ このホイップクリームなる物は絶品じゃな!」
ラス・カーズ様が目を見開いて驚いている。
「こら! ラス・カーズ…… オヌシひょっとして妾をアホの子だと思っていまいか? 不敬じゃぞ! ……モグモグ」
「これは失礼致しました。 クレープを食べている愛らしさと先程のお言葉の内容に、ギャップが凄かったもので――……」
「じゃ~ディケムは、やっぱり魔法学校に行くのよね? 私も白魔法師だから一緒の学校に行けるよね!?」
「ははぁ~ ララはそれで、さっきから嬉しそうなのか~」
「ちょっと! ギーズ変な事言わないでよ! そういうギーズはどうだったのよ?」
「僕は青魔法能力だって! 凄いだろ〜? ララ残念だが魔法学校は僕も一緒だからね」
「まじか! 俺は黒魔法だって、剣士系だとずっと思ってたのに………」
「ディックが黒魔法? 似合わないけど凄いじゃない!」
幼馴染が皆そろって、魔法使いの能力……。
みな素直に喜んでいたがおれは皆の能力を聞いて、単純に喜べないでいた。
あまりにも出来過ぎている。今まで魔法師を輩出したことがない村から、俺を含めて四人も魔法師が出るなんて………。
「みんなが魔法師なんてすごくてうれしいけど………ちょっと出来過ぎじゃないか?」
「確かに、今まで一人も魔法師を排出できなかったサンソー村で今年だけ四人も魔法師が出るなんて……… しかもそれが全員幼馴染なんておかしすぎるね」
「とくにディックに違和感あり過ぎね」
「うるさい、ララ! 天才は何でもありなのだよ! ハハハ」
話を聞いているラス・カーズ将軍が真剣な顔をしている……。
「うむ、ラス・カーズがいるから話したくないのだが……。 オヌシたち全員、ディケムの影響を受けておるな! 妾とディケムが契約を行う時にオヌシたちは叫んでいたよな?」
「はい、私はディケムが死んじゃう!って、助けて!って必死に祈っていました」
「俺もだ!」
「僕もです!」
「たぶんその時に、オヌシら全員がマナのラインで繋がった可能性が有る」
―――ッな! 俺たちがマナのラインで繋がった?
「それは...なにかまずい事なのかウンディーネ!」
焦った俺は、すぐにウンディーネに問い返えした。
ラス・カーズ将軍が目を見張り、ウンディーネの説明を食い入るように聞いている。
今まで魔法師を輩出したことがない村、そこに俺とは別に三人の魔法師が確認された。
そして俺を含めた四人が幼馴染………。
ラス将軍が鑑定後に接触してきたのは、俺だけが目的じゃなかったんだ。たぶんララ達もラス・カーズ将軍の調査対象になってしまってたんだ。
「いや、三人ともディケムの加護を得られるようになっただけ、ようは妾の力の影響を受けられると言う事じゃ。 デメリットはしいて言えば普通の生活は送れなくなることじゃろうな」
「え?」「なんで?」「???」 「………」
普通の生活は送れなくなる………。
ウンディーネの言葉の意味を察せない三人とは対照的に、ラス・カーズ将軍はその言葉の意味を理解しているようだ。
「オヌシら、妾がこんなに愛らしいから勘違いしているかもしれぬが、上位精霊の加護とは凄まじい力なのじゃ。 それは、デュケムから繋がった末端のオヌシらでさえ、その強力な恩恵にあずかることになるだろう!」
俺はウンディーネと契約した時点で、もう普通の生活には戻れないと覚悟を決めていた。
それは自分で決めた、選んだ道だから不満はない。
……だけど、他の三人は明らかに自分の意志とは無関係に、俺に巻き込まれた。
『普通の生活ができなくなる………』この言葉の意味。
ウンディーネの説明を聞き盛り上がっていく三人とは反対に、おれはとても苦い思いを感じていた………。
「――だから、力を持つ者はその制御を学ばなければならない。 力におごれば魔に堕ちる。オヌシら全員これからはディケムと一緒に妾が鍛えてやる! そしてこれは命令で決定事項じゃ! 拒否は許さぬ!」
「はい!」 「わかった!」 「うん!」
嬉しそうに元気に返事をする三人とは対照的に、俺はウンディーネの『これは命令で決定事項じゃ! 拒否は許さぬ!』この言葉が胸に突き刺さる………。
「――しかしこれだけは覚えておけ! オヌシらは一蓮托生、協力し合えば何倍にも力が増す! これは感覚的な事だけでなく、マナのラインが繋がっていることで、マナの効率が良くなり相乗効果で力が数倍に膨れ上がる!」
「おぉぉ! すごい!」
皆が歓喜に沸き立つ! しかし俺だけは罪悪感という思考の泥沼にさらに沈んでいく………。
「――だがしかし! これだけは肝に銘じておくのじゃ。 妾はディケムだけの精霊、ディケムが死ねば妾も死ぬ。 もしオヌシたちの誰かが力におごり、魔に落ちれば妾が眷属の後始末として、そのものを殺す。」
『殺す』の言葉を聞き、皆が息をのむ。
ッ――っな! この言葉が俺の胸をえぐる。
「――そして、もしディケムが魔に落ちた時………。 妾はディケムの物、オヌシら眷属も全て道ずれに、魔に落ちるしかなくなる。 理不尽な言いようだが、力あるがゆえに精霊とはそういう物じゃ。 オヌシら三人で、ディケムが道を間違えぬよう、支えてくれ! 精霊は主には逆らえぬものじゃ………」
「ハイ!」「おう!」「わかりました!」
三人が大きな声で、ウンディーネの願いに答えた。
「………ねぇディケム、さっきから凄く辛そうな顔をしているよ?」
⦅―――ッ! ララに見透かされた⦆
「ララ…… みんな…… 俺、こんな事になるなんて――」
「ディケム! もしかして自分のせいでこんな事になったとか思って、落ち込んでいるの?!」
ララの言葉に俺は頷く。
ララは少し怒ったように俺に言う。
「あの時あなたは生きるために必死に戦っていたんでしょ! そんなあなたを助けたいって、助ける力が欲しいって願ったのは私。 私が勝手にディケムと繋がっただけで、ディケムが悩む必要なんてないの。 むしろこの力は神様が私の願いを聞き届けてくれた奇跡だと思っているわ」
「俺もだ!」 「僕もです!」
「でも…………」
「ディケムよ、お前はなんでも自分ですべて解決しようとする。 しかし一人で出来る事など小さなものじゃ。 お前には素晴らしい幼馴染が三人もいる。 この三人がお前の一番の強みだと妾は思っている。 もっとこの三人に弱みを見せて頼るのじゃ」
弱みを見せる…… 頼る……
俺は自分が皆を守らなきゃと思っていたけど、それは実はとても傲慢だったのかもしれないな。
俺はウンディーネの忠告に素直に頷く。
「そしてディケムよ! お前一人では心もとないが、お前ら四人が共に成長できれば、必ず人族の切り札になると妾は確信をもって言える!」
―――ッ! 人族の切り札!?
ラス・カーズ将軍が目を見張る!
「ウンディーネ様!」
「なんじゃラス・カーズ」
「私は自ら足を運んでここにきて良かった。 是非、この子らの教育に私も参加させてもらえないでしょうか!?」
王の懐刀、国騎士団第一部隊隊長ラス・カーズ将軍が俺達の教育に参加する?!
「オヌシは国の属よな?」
「はい、確かに私は国に従軍していますが、一個人として純粋にこの子らの力になりたい! いえ、その行く末を見てみたい」
ちょっ! 話がどんどん大きくなっている!
「まぁ良いじゃろう、オヌシが居たほうが便利なこともあるじゃろう」
―――ッ! マジカ!
結局、このクレープ屋で俺達幼馴染四人組は、大人の話にオタオタするだけで、どんどん決まっていく今後の事を、唖然として見ている事しかできなかった。
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