第四章16 三つ首ヒュドラ戦
そして俺たちは、今日行われるというウォーレシア王国のヒュドラ討伐隊に合流する事になった。
本当は直ぐにでも地上に戻り、シャンポール王と話してから、攻略に臨みたかったのだが……
やはりそこはリザードマン、今日の攻略はかなり前から準備していたらしく、兵の士気が上がり過ぎて、一時中止とはいかなくなったそうだ。
それならば致し方ないと、俺達もヒュドラ討伐に参戦してから、一度地上に戻る事にした。
まぁ、王族と言うのも、いま行って直ぐに会えるものでもなく、今のうちにアポイントの予約を取っておいて、一仕事終えてから会いに行った方が、時間効率は良さそうだ。
討伐部隊が準備をしている間、おれはシルフィードの眷属『言霊』でラトゥールに連絡を取る。
言霊は、木霊の様に話が一方的な伝達になるのでは無く、俺から送って相手に届けば、お互いに普通の会話が出来る。
アールヴヘイム攻略時に、コート王子とマクシミリアン将軍に試してみたが、戦闘時に使えば、素晴らく戦いが効率よくなる。
言霊を呼び出すと…… 言霊は燕の姿をしている。
そして俺はラトゥールに向けて言霊を送る、燕の姿をした言霊は、窓も壁も障害物を通り抜けて、俺が指定した相手に飛んでいく。
まぁ、飛んでいくのだが―― 精霊に距離の概念はあまりない、どこかでマナに潜りショートカットしているのだと思う。
数分もすれば、ラトゥールに繋がる。
「ディケム様ですか?」
「そうだ、突然すまない」
「いえ、突然ツバメが飛んできて、私の腕に降り立ったので驚きましたが…… これは会話ができるのですね?」
「そうだ、これから戦闘時にはこの『言霊』を使い連携を取る、慣れておいほしい」
「はい! これで数人同時に会話しながら戦闘できるとなると……、革命的に戦闘が効率化されます!」
⦅これ反則じゃないですか~! もう天才ですか? ディケム様~⦆
向こうでラトゥールがブツブツ言っているのが聞こえてくる……
「ラ…… ラトゥールに連絡を入れたのは、一つ頼まれてほしい」
「はっ!」
俺はラトゥールに、今までの事をざっくり説明して――
「シャンポール王、マール宰相、戦士学校校長、魔法学校校長、ラス将軍、ラローズ先生、ドーサック先生を集めてほしい、俺はこれからヒュドラ討伐に参加する、夕刻には戻れると思う」
そう伝えておいた、あとはラトゥールが上手くやってくれるだろう。
そんな事をしていると、ヒュドラ討伐の準備が出来たようだ。
討伐隊の人数は五十人、隊長はミュレテフ将軍だ。
俺は自分のチームに言い聞かすように、討伐部隊にもはなす。
「これから討伐に向かうヒュドラだが、情報では首が三本! まだ下級のヒュドラという事になる。 だが、下級ヒュドラといえどもドラゴン族だ、とても強い」
ララ達はもちろん、リザードマン達も真剣に聞いてくれている。
「ヒュドラの最大の特徴は、『超回復力』『猛毒の血液』『水を吐く』これが基本だ。 特に、首を落としても再生する回復力と、首を落とした時に出る血液が猛毒だ。 再生力は、首を落とした後を火で焼く! そうすれば再生できなくなる!」
『おぉぉぉ!』とリザードマン達から驚きの声が上がる。
まさか……、何度も返り討ちにあっているのに、何の対策も練らずに戦っていたのか?
「毒と水攻撃は、精霊ルナと精霊ウンディーネの加護で防ぐ。 防ぎきれなかったダメージは魔法で回復する。 以上だ! なにか質問は有るか?!」
ギーズが手を上げる。
「今回は、僕のラーニングはどうする?」
「ギーズのラーニングは、今回は必要ない! ヒュドラの攻撃はアクアブレスと毒だ。 ギーズはすでにアクアブレスはラーニングしてるし、毒は毒合成のほうが上位だ。 あと、今回は軍隊戦になるから、個人行動は無しとする」
ギーズは頷く。
俺達は、ミュレテフ将軍の軍に追従し、フロアボスとなるヒュドラの元に向かう。
道中、俺はミュレテフに訊ねた。
「なぁミュレテフ、ダンジョンマスターがアウラなら…… ヒュドラとかなんとかならないのか?」
「いえ、このダンジョンはもともと暗黒竜封印の為に作られました。 ですので厳重に管理するため、ダンジョンマスターが三人居たのです。 暗黒竜を封印してダンジョンを作った三人、 『人族の英雄シャンポール』『ドワーフの族の英雄バーデン』『金の精霊アウラ様』 ようは、ダンジョンコアの管理こそが暗黒竜の封印なのです!」
⦅ッ――っな! ダンジョンコアが暗黒龍の封印!?⦆
「そして、その封印は代々子孫に受け継がれましたが……、 神の審判の日、ドワーフ族の封印は放棄され、解かれてしまいました。 人族の封印は、多分今のシャンポール王が引き継いでいるでしょう。 そしてアウラ様の封印は、今悪魔に浸食されつつ、風前の灯火状態です。 なので、今のアウラ様はダンジョンマスターとして、ほとんど力を持っていません」
なるほど…… しかも今のシャンポール王にダンジョンマスターとしての資質が有るとも思えない。
「もし……、封印も三分の二まで解除されれば、暗黒竜に解かれる可能性も有ります」
「ッ――――!」
シャンポール王と打ち合わせるときに、聞いておかなければならない重要案件だな……
そして俺達は、ヒュドラのボス部屋の前にたどり着く。
軍隊に追従して来ると、雑魚はすべて排除してくれるのでとても楽だ。
この扉の奥にフロアボス、三つ首のヒュドラが居る!
俺とララは、ディック達とリザードマン部隊全てに、ルナとウンディーネの加護を与える!
⋘――――Πνεύμα・Ευλογία(精霊の加護)――――⋙
毒攻撃と水攻撃を加護で防げれば、この戦いは容易になるだろう。
『よし突入だ――!』 おれの掛け声で突入開始!
『おぉぉぉ―――!』 とリザードマン兵達は気合を入れて、ボス部屋になだれ込む!
いつも通り部屋に入ると―――
部屋の壁際に設置されているトーチに次々灯がともり、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がる!
魔法陣から、ヒュドラが出てくる――― 総力戦だ!
俺は真っ先に飛び出し、三つ首ヒュドラを切りつけ煽りヒュドラのヘイトを俺に集める!
三つ首全てを俺に向けさせる――― そこを皆で一斉攻撃!
ダメージを与えたら、全員引かせて、また俺一人にヒュドラのヘイトを集める。
これの繰り返しだ!
ヒュドラからの属性攻撃に対して、軍隊に防御、属性耐性バフをかけておけば、もう脅威は無くなる。
ヒュドラの首が一本、また一本と切り落とされていく。
切り落とした後の処理も、もう指示済み、切り口を炎魔法で焼いて、再生させない。
今までの敗退が嘘のように、完勝した。
『おぉぉぉ―――!』とリザード達は、歓声を上げ喜んでいる。
そして、彼らは今回勝利の立役者の俺たちに、フロアボス討伐報酬の宝箱を差し出す。
俺達は素直にその報酬を貰う事にした。
今回選んだのは、ギーズ用の武器、ミスリルのナイフ二本セットだ。
俺たちは、ウォーレシア城に戻り、ヴィラドルジャ王にヒュドラ討伐完了の報告をした。
そして、王とミュレテフ将軍に、俺達は一度地上に戻り、シャンポール王と打ち合わせた後、またここに戻ると伝えた。
ミュレテフ将軍には、一~二日で必ず戻るから、絶対に十四階層には進まないように強く言っておく。
俺はとても心配だった……。
ヒュドラとの戦闘が上手くいった――― いや上手く行き過ぎたのだ!
これで過信してリザードマン軍が、俺達の帰りを待たずに十四階層に行ってしまうと、大変なことになるかもしれない。
その懸念をミュレテフにきちんと伝えて、俺たちは魔法陣で地上に戻った。




