第四章13 地底都市ウォーレシア
それでは改めて、俺たちはダンジョンに向かう。
転送魔法陣を使い、前回確認した座標、十三階層入り口まで一気に飛ぶ!
転送の呪文を唱えると、魔法陣が光る。
目の前の空間がゆらりと揺らめき光に包まれる。
ほんの数秒真っ白な光に包まれ、光が薄らいで視界が回復しだすと———
「ッ———っな!」
転送先に出ると、まさかの、リザードマンの兵士に囲まれていた!
俺はすぐに、四人の回りに精霊玉で作り出す防御結界張った!
⦅ふぅ~ 焦ったけど、何とか結界が間に合った!⦆
リザードマン達も、突然魔法陣が顕現し光りだし、突然俺たちが出てきたのだろう。
パニックになり五mほど離れて全員身構えている感じだった。
『遭遇戦か!?』 俺は三人に注意を促す!
「もし戦闘になるようなら、このまま結界の中から転送魔法陣で帰還する!」
三人は頷く。
おれは駄目元でリザードマンに話しかけてみる。
リザードマンは獣人族の一種だ、知能も高く言語も話せる個体が稀にいる。
「俺は人族シャンポール王国のソーテルヌと言う! 話の分かる者はいるか?」
『………………』俺の問いかけに静寂が広がる。
だが、静寂になったって事は、言葉は通じていると言う事だ!
すると、意外な方向に展開は動いていった。
リザードマン達は集まり話し合い、将軍的なリザードマンが出てくる。
「私はウォーレシア王国の将軍、ミュレテフと言いう!」
俺は目を見張り、ミュレテフと名乗るリザードマンに問う。
「言葉が通じるのか?」
「ああ、我らの王国は、遠い昔から【金精霊アウラ様】の加護を受けている。 我らはアウラ様を神と崇め、アウラ様から様々な加護を頂いた。 言語もアウラ様から伝わったと聞いている。 ウォーレシア王国の者たちはみな言葉を話すことが出来る」
『金精霊アウラだと………?』俺は呟く。
「ソーテルヌと言ったか、其の方はアウラ様をご存じなのか?!」
ミュレテフは目を見開き、俺に訪ねて来る。
「いや、俺が契約している精霊が知っていただけだ」
俺は素直に答えた。 すると――
「精霊様と契約だと? やはりあなたが、上の地の門番ケルベロスの試練をくぐりぬけた勇者様か?」
「試練かどうかは分からないが、ケルベロスは倒した」
そう俺が答えると……
「おぉ~! 姫巫女様の予言取りだ! 予言の勇者様が本当に現れた!」
リザードマン達が騒めきたつ。
⦅ん? なんか変な方向に向かう予感………⦆
ま~戦争になるよりかは良いか。
俺は『予言とはなんだ?』と聞いてみる。
すると、ミュレテフは神妙な顔をして話し出す。
「はい勇者様、今我々の国は悪魔に神アウラ様を奪われ、アウラ様を取り戻すため悪魔と戦っています。 もしアウラ様がこのまま悪魔に取り込まれ、消滅してしまえば、我々は今のような知性を失い、ただの本能だけの怪物になってしまうかもしれない…… 自分を失い、ただ戦うだけの怪物になってしまうことが、恐ろしくてたまらないのです!」
俺達は息をのみ、ミュレテフの言葉を聞いていた。
もし自分達が同じ立場だったら、ただの怪物になってしまうかもしれないとしたら……
それは恐ろしくてたまらない事だった。
ミュレテフは続ける。
「我々の神、アウラ様の御神体を奪った悪魔は、ここより下層に降りて行きました。 そして、このフロアの番人として、三つ首のヒュドラを残しました。 私たちは、神を取り戻すべく、何度となくヒュドラに挑んだが、全く歯が立たなかった……」
「そんな時、王の娘エティ王女がアウラ様の神託を受けたのです。 エティ王女は、唯一この国で神アウラ様と話せる巫女です」
ミュレテフは神託について話す。
「姫様の神託はこうでした、もうすぐこの地に、上の国からあまたの試練をくぐりぬけ、人族の勇者が現れる。 勇者は数々の精霊を従え、精霊アウラ様を解放するだろう……と」
『…………』 あの戦士学校に来た時、キラキラしてたの、アウラが見てたんだな。
ミュレテフは続けて話す。
「我々は、上の地の門番ケルベロスの試練をくぐりぬけられる者が現れるなど、信じられなかった。 しかし昨日、姫様にさらに神託が下りました、ケルベロスが倒されたと! 我々は、昨日からすぐにここに来て、あなた方を探していました。 そして今になります」
なるほど、アウラはずっと俺たちを待っていた。
十一階層の転移魔法陣が消えなかったのも、アウラが早くここに来てほしいからか。
金の精霊アウラが助けを求めている。
そしてこの国のリザードマンは、知性を持ち、俺たちに助けを求めてきている。
おれはディック、ギーズ、ララを見て言う―――
『助けたいが良いか?』と……
『もちろんでしょ!』と三人が頷いてくれた。
良かった、みな意見は同じようだ。
おれは、ミュレテフに話しかける。
「分かりました、私たちに出来ることはいたしましょう。 ですが…… いきなりこのような話を聞かされても、流石に全て信じる事はまだできない。 それは解ってほしい。 まずは我々にあなた方の国を見せてもらい。 王と姫巫女様を紹介して頂けますか?」
『もちろんです!』とミュレテフが答えた。
俺たちはミュレテフについて歩いていく。
俺は念話でウンディーネと話す。
⦅なぁ ウンディーネ?⦆
⦅なんじゃ?⦆
⦅この国、いやこの地下空間、太陽が有って、地上と変わらない風景なんだが……、こんな事があり得るのか? これはもう精霊の域を超えて神の所業じゃないのか?⦆
俺が聞くとウンディーネが答える。
⦅そうじゃな、アウラがリザードマンに神と崇められる由縁じゃろうな⦆
⦅なぜそんなことが出来るんだ?⦆
⦅推測の域を出ないが…… 多分このダンジョンのダンジョンマスターはアウラなのじゃろう。 そしてこの地下空間は、金属鉱石の塊の中に作った空間。 金属の精霊の力と、ダンジョンマスターとしてダンジョンコアを使えば…… 疑似太陽を作り、こんな世界も作れるのじゃろうな。 まさにこの世界はアウラが作った世界、アウラが神なのじゃよ⦆
ウンディーネは、暇なやつじゃな…… と悪態をつく。
だが俺は唸る、一精霊にこのような世界を作り出すことが出来るなんて……
そしてウンディーネが続ける。
⦅そのアウラが悪魔にさらわれ、取り込まれようとしている。 このダンジョンが、アウラの手を離れ悪魔の手に落ちたら…… リザードマンもただのモンスターの兵士となり、地上に攻めて来るかもしれんな⦆
⦅ッ――そ、そんな!)
王都の真下に、悪魔の管理する魔物の国、迷宮が出現したら―― まずいなんてものじゃない!
俺たちが下りてきた、十二階層と十三階層を繋ぐ階段は、この空間世界の一番高い山の上ある。
山の上には、この空間を支えるように何本も巨大な柱が立ち、階段はその一つにある。
俺たちはミュレテフについて、山を下っていく。
山の上から見る町はとても綺麗だ。
湖を利用して作られた、水の王都ウォーレシア王国。
そう、シャンポール王都にどこか似ているのだ。
ウォーレシア王国王都にたどり着き、ミュレテフが門番と話し、俺達は王都に入る。
「なっ!」
「………………!」
「ちょっ! そ、そんな」
俺たちは皆絶句した…… これほどとは思わなかった!
そこは驚くほど活気に満ち、人族は居ないが、多種多様な種族が生活を営む地下の王国。
多種多様な種族が居るおかげで、俺達人族を気にする者は居なかった。
俺はミュレテフに訊ねる。
「ここは王都なのだろう? 他にも別の場所に町とかあるのか?」
「はい、王都の他にも五つ程町が有ります」
「この地下に住む種族は、全て知能を持っているのか?」
「町に住む者は皆知能が有ります、ですが、街の外には普通にモンスターも居ます。 だから我々リザードマンの軍が国民を守っているのです」
それは、もう全く地上と同じだな……
いや、すべての種族が殺し合いをしている地上よりも、ここは楽園だ。
おれの理想とする姿がここに有るのかもしれない。
街の造りは、俺が整備する前のシャンポール王都を、もっと素朴にした感じだ。
いや、似すぎている気がする。
売られているものは、異国情緒満載な感じだが、武器屋、防具屋が凄い。
「おいみんな、武器屋と防具屋、素材がみんな鋼だぞ!」
俺がつぶやくと……
ミュレテフが答える。
「ここは、鋼鉱石が豊富なんですよ。 武器防具だけではなく、日用品の包丁やハサミなども全部鋼で出来てますよ」
俺たちは目を見張る!
『帰りにお土産として買って帰ろうかな』俺がつぶやくと……
『お金…… ないけどね』キーズが言う。
アゥ………。
しばらく町中の様子を見学しながら歩いていくと、立派な王城にたどり着く。
城の感じもシャンポール城にそっくりだ。




